日野原重明先生に聞いた 健康についての大切な話。
日野原先生の健康の秘訣。
ほぼ日 ぜひ先生にお聞きしたかったことがあるんです。
健康に過ごすためにいちばん大切なことは、
なんだとお考えですか?
日野原 健康について大切なことはね、
人間というのは、調べたらみな、
どこかに粗(あら)があるんです。
遺伝子を調べたら、認知症の遺伝子さえも
子どものときからもっている。
精密検査をしたら、
なんらかの異常はみんなにあるんです。
生まれつきにでも後天的にも、
みんなどこかに欠陥をもっている。
そういうことがあったり、
血圧が高いとか、糖尿病であるとか、
なにかの病気をもっていたとしても、
そういう病気に負けないで、
朝起きたときに、さわやかな気持ちをもって
あぁ、きょうはこういう楽しみがある、
そういうなにかがあれば、気持ちが前向きでしょう。

好きな音楽会や芝居に行く予定があるとか、
きょうは孫が来るんだとか、なんでもいいですよ。
その日に楽しみな予定がある日の朝、
目覚めて、フッ、とするときの人間の感情だね。

それがぼくは、ほんとの健康だと思う。
だから、どこかに病気があれば、
不健康者とはいわないで、
なにかの欠陥はあっても、
きょうの生活のためにはさわやかだ、
そういう気持ちを持つことが、
いちばん、大切なんですよ。

検査の結果に一喜一憂するのではなくね。
これもない、あれもない、
それで合格したからいいというのではなくて、
なにかのことは、いくつかあるんだけど、
「にもかかわらず、
 わたしはさわやかな気持ちをもてる」
そういう、心のもち方だね。
それこそが、ほんとの健康だとぼくは思ってます。

からだにはなんらかのことがあったとしても、
心がそういうふうに向いている人は
健康感をもつでしょう。
それがほんとの、エッセンスの健康ですよ。
本田 そうですね。
こう過ごしていきたいという
生きる道すじをおもちになることが、
健康につながっていくのでしょうね。
日野原 たとえば、健康診断の結果をみて、
ここがひっかかった、どこそこに異常値がでた、
コレステロールが高くなった、血糖値が高い、
そうやって減点をして、自分を厳しく評価するよりも、
「にもかかわらず、きょうをさわやかに過ごせる」
そういう気持ちが、いちばん人間に必要なんですよ。
本田 なにかの病気があるかもしれないけど、
病気とともに生きる、ということですね。
日野原 そう、じょうずに生きる。
ほぼ日 先生ご自身の健康の秘訣もその点ですか?
日野原 そう。ぼくは、そういう気持ちで暮らしている。
健康感こそが、ほんとの健康。
そういう詩も書いたんですよ。

健康をテーマにした講演するときに、
よく、この詩を最後に朗読をするんです。
そうすると、病気をもっている人は、
あぁ、よかった、と思うの。
わたしも健康になれるんだな、ってね。
その健康感が大切なんですよ。
みんな、これがない、あれがないと、
マイナスしていくでしょう。
点数は落ちるんだけど、そのときには
気持ちを盛り上げるようなものを
なにかもつといい。

死というのは、ものすごく不幸なように思うけどね、
人生の最期がせまっているときでも、
わたしはこういう死に方ができる、
そう思うことが、救いになってくるんです。
それが、クォリティ・オブ・ライフ(QOL)、
QOLが高い生き方、QOLが高い死に方、
そういうことができるんだね。
本田 「QOL」(生活の質)という言葉を
一般のかたがたに紹介されたのも先生ですね。
日野原 そうだね。健康感というのは、
幸福感にも通じるところがありますよ。
いくらお金があっても、
もっと欲しい、という欲望の強い人もいる。
でも、戦争という、食べるもののなかった時代には、
隣の人からもらった1本のなすにも、
ほんとうに感激したものですよ。
ぼくらは、戦争のときの、物のなかった辛いことを
しみじみと感じているからね。
あのときはほんとうに感謝があった。
喜びがあった。辛いなかにもそれがあった。

貧しいと幸福感の敷居が低くなって、
ちょっとしたことに幸福を感じるものです。
豊かになると、幸福感の敷居が高くなるから、
よほどのことがないと、そうは思えない。
だから、いまの子どもたちは可哀想ともいえるね。

あぁ、これはありがたい、
よかったねぇ、と思える気持ち。
幸福感と健康感はちょっと似ているよ。
(おわります)



2008-12-18-THU