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本田 |
ティアニー先生、
今日は、先生に健康についてのお話を
うかがえることになって、とても楽しみです。
どうぞよろしくお願いします。
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ティアニー |
僕も楽しみにしていたよ。
これは、どんなところに載るインタビューなの?
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本田 |
インターネットのサイトに掲載します。
わたしは、アメリカで働いていた頃から
日本のウェブサイトで、
健康についての連載を続けていたのですが、
そこで、ぜひ、先生のお話を
多くの日本の方に読んでいただければ、
と思っています。
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ティアニー |
そのサイトは医者向けなの?
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本田 |
いいえ、一般向けのサイトです。
普通の生活をしている方々に、
ご自分の健康を守るために
役立ててもらえたらいいなと思いながら
書いています。
実は、そのサイトでは、先生のことを
もうすでに一度ご紹介しているんです。
発表の時には自分が話したいことではなくて、
相手が聞きたい内容を話すことが大事、と
羽田空港へ向かう途中で教えてくださった
ときのことを、8年くらい前に紹介しています。
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ティアニー |
ああ、北海道に鶴を見に行く前のときのこと?
なつかしいね。
あのときは、ほんとにたくさん話をしたね。
さて、君が作った手帳を、見せてもらおうか。
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本田 |
はい。これです。
巻頭には、日本で一番有名な詩人のおひとり、
谷川俊太郎さんが健康についての詩を
書いてくださっています。
最初のページはからだについての基本的な情報、
たとえば、身長とか、体重、アレルギーの有無、
喫煙歴などについて書くページにしました。
それから、自分の病気の記録、家族の病気の記録、
入院や手術の記録などを書くページ。
聖路加国際病院の日野原重明先生にも
健康を記録しておくことの大切さについて
メッセージをいただいて、ここに収録しました。
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ティアニー |
日野原先生は僕もよく知っているよ。
何ておっしゃってるの?
(英訳を聞いて)
そう、ほんとうにそのとおりだね。
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本田 |
こんな感じで健康について
いろいろと書き込んでもらう手帳にしたのですが、
その目的は、ご自分の健康状態について、
よく知るための手がかりにしてもらうことと、
医者は、患者さんにお目にかかるときに、
こんなことを知りたいと思っているのですよ、
ということをお伝えすることです。
何度も日本に来てくださっている
先生はよくご存知のように、
日本の外来診療の時間はとても短くて、
その時間の間に診療に役立てるための情報を得るのは
なかなか難しいなと思っています。
わたしたち医師はいろんなお話を
患者さんから聞かせていただかないと、
正しい診断に近づくことはできないのですが、
初めてお会いする患者さんから
診断に役立てるためのお話を
ゼロの状態から聞き取るのは、なかなか難しいです。
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ティアニー |
そうだね。
問診は、内科医にとって
一番大切な技術のひとつだからね。
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本田 |
はい。診察室での患者さんの貴重な時間を
有効に使うためにも、
ご自身の健康のことをまとめた
カルテのようなものがあれば、
役に立つんじゃないかと思って
この手帳を作りました。
カルテ以外にも、自分を守るために
健康なうちから知っておいていだだくと
きっと役立つということを
短いコラムにして伝えています。
たとえばこのページには、
初めて病院に行くときにまとめておくと、
医者に自分のことをよりわかりやすく
説明できるような項目を
7つの質問として挙げました。
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ティアニー |
1番目は何?
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本田 |
「今日はどうして病院に来ようと思いましたか」
ということです。
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ティアニー |
大事な質問だね。患者さんが
どうして病院に来ようと思ったか、
それに医学的な意味づけを考えるのは、
医者にとって、とりわけ大事だ。
2番目は、何て書いてあるの?
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本田 |
「なかでも一番困っていることはなんですか」。
いくつかお困りのことがあるときに、
その順番をご自分でつけてもらうよう、
頼んでいます。
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ティアニー |
それから?
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本田 |
「いつからその症状が続いていますか、
何をするとその症状が悪くなりますか、
またはよくなりますか?」という質問です。
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ティアニー |
そう、これはすごく大事だね。
たとえば、「ちょっとふらつく気がする」
と言って患者さんが来たとき、
そういう症状を起こす可能性のある病気は、
5,000以上もあるからね。
だから、「ちょっとふらつく気がする」
という情報だけでは、
診断にはあまり役に立たない。
そこで、さらに踏み込んだ質問が
必要になってくる。
とくに大事なことは次のふたつだ。
ひとつは、それが起きたのはいつか。
もうひとつは、そのときに何をしていたか。
医者にとってこのふたつは、とても重要な情報だ。
たとえば、それがいきなり起きたのであれば、
もしかしたら、胃潰瘍で
胃に穴があいてしまったのかもしれないし、
そうではなくて、なんとなく気づいたら
ふらつくような気がするのであれば、
もっと慢性の病気の可能性を考え始めるしね。 |
本田
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そうですね。
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ティアニー |
そのほかの聞き方としては、
「そのような症状をこれまでにも
経験したことがありますか?」
と聞くのも大事だよ。
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本田 |
ご自分のこれまでの生活を
ふりかえって比べてみる、ということですね。
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ティアニー |
サンフランシスコ総合病院でのことだけど、
虫垂炎が破裂して、腹膜炎をおこした患者さんを
手術でようやく助けることが
できたことがあったんだよ。
この患者さんは何年も前から
「家族性地中海性熱」という病気をもっていたんだ。
君も知っているように、
この病気の特徴はとても痛い腹痛を
発作的に繰り返す病気で、おなかは痛むのだけれど、
手術なんかは必要としない、内科の病気だよね。
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本田 |
久しぶりに、その病気の名前を聞きました。
ほんと、その通りですね。
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ティアニー |
だから、本人にとっても、主治医にとっても、
彼女の腹痛というのは、
いつも経験している、「よくあること」だったんだ。
ところが、その日の痛みは
いつも経験しているものとは
比べものにならないほどひどかった。
患者さんが、今日の痛みはいつもの腹痛と全然違う、
今まで経験したことのない、ものすごい痛みなんです、
と話してくれたことがきっかけとなって、
おなかの痛みの原因が、
長いこと本人が患っていた持病の
「家族性地中海性熱」によるものではなく、
別の病気が起きている可能性が高い、
と考えることができて
虫垂炎という診断に結びつけることができたんだよ。
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本田 |
くも膜下出血を起こしているかどうかを
判断するときに、
患者さんに
「生涯を通じて、
初めて経験するものすごくひどい頭痛」
かどうかをたずねるのが役に立つこともある、
という例もありますしね。
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ティアニー |
その通りだね。
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本田 |
次の質問は、
もし他の医療機関にかかったことがあれば、
教えてくださいということなんですが、
これは既にすんでいる検査を重複せずにすめば、
患者さんの負担を減らせるかもしれないと思って
載せました。
そして、最後は
「今日すくなくともこれだけは
やっておいて欲しいことは何ですか?」
という質問です。
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ティアニー |
大事だねぇ。検査したいのか、何を期待しているのか。
それを知ることはとても大事だ。
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本田 |
患者さんが医者に望むことは
いろいろあると思うのですが
短い診察時間のなかですべてを解決するのは
難しいのが現実ですし、
その日のうちに結論がだせないことは
往々にしてありますし。
でも患者さんが「今日は病院に来てみてよかった」と
思えることがなにもなかったとしたら、
信頼を得るのも難しいですしね。
それで、患者さんご自身で優先順位をつけてもらって、
「今日これだけは」ということを教えていただくのが
いちばんじゃないかと思ったんです。 |
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ティアニー |
そうだね。別の側面として、
時に患者さんは、ただ話したくて
病院に来ることもあるからね。
70代の女性が、19歳の時から頭痛がずーっとあって‥‥
というようなところから話を始めることもある。
そんなときは卓球みたいにいつまでも話が続いて、
終わりがないんだ(笑)。
アメリカで僕が患者さんを診察するときは、
少なくとも30分くらい時間をかけて
話を聞くことができるけど、ここは日本だからね。
日本の保険制度のもとでは、
外来診察に3分から5分くらいしか
時間をかけることができないのを知っていると、
この短い間に患者さんから
大事な話を聞き取ることはとても大変だと、
つくづく思うよ。
ここに挙げた7つの質問は、
患者さんが抱えている問題を
医学的に解決するために絶対に必要な項目だからね。
とても大事な手がかりになるよ。
<つづきます> |