ITOI

頭出し:電波少年的放送局の62時間。
いくつになっても、馬鹿は馬鹿。

臨時更新で、その時その時の会話をお届け!
数時間ずつ更新で、木曜深夜の対談をご紹介!!

[2日目の総括。T部長との会話ですよ]
<第3回 信頼って何?>


糸井 つぶらな瞳で見ているおかげで、
悪いことしにくくなっちゃった、
っていうことで誠実にならざるを得ない。
そのほうが、生存戦略として武装が固いから
生きやすくなると思うんです。

社会心理学を研究している
山岸俊男さんという人の本に
『信頼の構造』というのがあるんです。
それのジュニア版に
『安心社会から信頼社会へ』
というものがあるんです。
いままでは依存しあっていれば安心だった。
もたれかかって村社会ができていたけど、
村からおりてきたときには、約束じゃないぞと。
相手を見て、足る人だと思えば信頼するし、
足らない人だと思えば信頼しないわけです。
よりかかっているんじゃなくて、
お互いに自分を作ることで
社会ができていくというほうに
変わっていくんじゃないか、と・・・
簡単に言い過ぎて紹介すれば、
そんなような本が、あるんです。

それを、山岸さんは、
実験を使って証明したんです。
あるお金をふたりでわけなさい。
相手を騙して取り分を多くすることもできる。
そのゲームの中で、誰がいちばん
たくさんお金を手に入れられたでしょう?
という実験があるんです。

これは、相手が悪いことをした時には
しっぺ返しをするが、その他の時には
ぜったいにウソをつかない、っていう
戦略を取った人が、最終的にはお金持ちになった。
そういう実験なんです。
なんか、イソップみたいですね。
糸井 学生を使って何回も実験してみて、
そういう結論になるとは思わなかったけど、
そうではなかった。
その話をぼくは「ほぼ日」に書いたことがあるんです。
そうしたらメールがきて、
「その実験、わたしは参加したことがあります。
 その時に、アタマがいいなぁと思った人と、
 わたしは結婚することにしました。
 彼はゲームでいちばん勝った人なんです。
 彼と結婚してみて、そのとおりの人間でした」
そういうメールなんですよ。
へぇー。
なんか、そんなイソップみたいな話が
あるというのも、ヤバい感じがしませんか?
糸井 いや、それぞれの人は
勝とうとしてゲームをやっているんですよね。
命を奪われることはないけれども、
法則的にいちばん理にかなったのは、
「正直にしている」ということで・・・。

何かに関して、丁寧に自分が接したものから
返ってくるものが栄養になるというような、
そういう循環って、ぼくはあると思うんです。
若い時って、男の子なんて、
女を粗末にあつかう時代があるじゃない。
ぼくもあったし、Tさんもあったと思う。
それって、欲望が盛りの時期ですよね。

それ、大人になると
「違うよ」と言いたくならない?
大人になると、粗末にあつかったことは
なんかばれちゃって、しっぺ返しを食うぞ、
ってわかるような気が、ありますよね。
うん。
糸井 ほかのところでも、
わがままを言ったことだとか、
我慢してやったことがよくないとか
ちょっと欲かいてやっちゃったことが
やんなきゃよかったなっていう結果に終わったとか、
いろいろ、ありますよね。
そうなんですよね。
でも、もうひとつ逆のことを言うと、
良心にしたがって生きようとか
ウソをつかないでいようとかいうことは、
ほんとうは戦術ではないわけじゃないですか。
糸井 ええ。
ほんとうは、そうです。
ここでたとえば、
「世の中の人、正直に生きましょう」
と言ってしまえば、宗教家のようで・・・。
「それがいちばん戦略としていいんだぜ」
「社会にもまれて、最終的にはそれだ」
って言うと、いや、そういうことじゃないんだ、
っていう気がするんです。
糸井 いや、戦術として・・・まずは、
人間も動物もぜんぶそうだと思うけど、
自分以外のものに対してよくしようなんて
考えるようにはできていないと思うんですよ。

一見、イイ話にはホロリとしてみたり、
いろいろ感激したりするけど、
実は問いつめてみると、
自分を捨てるほど他を思う時間は、
大脳だけが動いていたり、
美意識であったり、ということですよね。
もしくは、ほんとうに緊急の、
良心にとっての最後のピンが引かれた状態、
見知らぬこどもがトラックにひかれそうな時、
とか、そういう時になると思うんです。

それ以外の時間としては、
ほんとうは、ほかよりも自分をとろうとする、
利益をとろうとするところが、あると思う。
生物は、自分を生かすことと、
自分の子孫を増やすことから逃げられない。
だから、戦術だぞ、と言ってもいいんじゃないか。
戦略と言わないと倫理のジャンルに入るから、
これは戦略だと言うほうがいい。

豆粒ひとつずつのものがせめぎあっている社会、
というように人間社会をとらえてみると、
「いいことをしているほうがうまくいってるぞ」
「どうも正直が戦略らしいぞ、と結果を見た」
とでも言うような・・・。

その山岸さんという先生のおもしろいのは、
実際に会ってお話をしたりすると、
「いろいろと人間が小賢しく考えてやったことで
 うまくいくことなんか、ひとつもない」
っていうんです。
(笑)
糸井 生存戦略をいくら考えても台風は来るし、
食糧難は、やってくる。

まぁ、どちらにしても、
息苦しさという観点から言うと、
正直であるということのほうが、
空気が入ってくるという感じは、ありますね。
うん、そっちから空気が入ってくる、
という感じはわかります。
糸井 俺のあとついてこい、なんて
言えるやつはそうそういないので、
ナポレオンでも、ほろびて次の時代がきたら
沈没するんですよね。そんな中でも、
シーザーなんか、ずっと経ってからみても、
「こんな人が、いたんだぁ・・・」
と思えるぐらいのすごさがあったり。

以前に対談した古代ローマを研究している
青柳先生が言っていたのだけれども、
「いい政治家は、それを必要とする
 厳しい状況がなければ育たない」のだそうです。
問題が山積みで、病気まではやる、どうしようもない、
それ、誰がするの?ってところで、
誰かにしるしがついちゃうんでしょうね。
ええ。いい政治って、結果ですもんね。
「ここでした」という時代があるから、いいという。
糸井 だから、悪い政治は社会の豊かさを示す
とも言えるわけで・・・。
たとえばそのポンペイの時の政治家は、
飢饉が起きた時の水道の止めかたがあるんです。
貴族の水道、一般の人の使う水、広場の水。
でも、最初に貴族の水をとめることが
政治だということになるんですね。
自分を支持してくれる大勢の母数がなければ、
転覆してしまうという、ある意味で
利己的な考えかもしれないけれども、
同時に、マナーでもありますし。

そのマナーを守るがゆえに
うしろから刺されないという、
そういう生き方の選択で・・・。
立派なことをしているほうがいいよね、
ということになると思うんです。


(※つづく)

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2002-05-26-SUN
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