糸井 |
試行錯誤でトライしているという感じが
なくなったよね。
|
綾戸 |
歯車が、きゅっと合いはじめた。
最初は、合ったと思ったらはずれたり、
なかなか合わなかったりしたけれど。
だから今はもう、
朝の2時3時4時まで、
「ちょっと違うわ」と思いながら
なんか試していたり、書いてたり。
それはもう、お客さんがいるからできることで
やりたいからやっていることなんだから、
努力と呼んでいいのかわからない。
苦労とも呼べないかもしれない。
確かにきついんだけど、やっちゃうんです。
|
糸井 |
きついと楽しいは、一緒なんですよ。
|
綾戸 |
糸井さんって、パソコンさわってどのぐらい?
|
糸井 |
4年半ぐらいよ。
|
綾戸 |
若いわ。
|
糸井 |
歌うたえたら、
パソコンやらなかったかもしれない。
「これだ」と思ったから。
|
綾戸 |
歌って、歌唱力の要るものもあるけど、
そうじゃないのもあるよね。
森繁さんとか、すごいなぁと思うわ。
白髪の数だけ音符が増えるというか。
いろんなことが合うと、
パーッと行くもんね。
逆に、若い頃の歌も、
「録音しておけばよかったなぁ!」
と思うことはあるんですよ。
18歳の時ぐらいの声を。
テレビ番組で
「綾戸さんの歴史を・・・」
というので、歴史って、わたしは
蘇我入鹿か、って思うんですけど、
まあアルバムとか出してきますよね。
そしたら、胸の谷間がボン!って。
あぁ、これだったんだぁ、と・・・。
|
糸井 |
でも、先のことなんか考えないのが青春でしょ?
その当時に「とっとこう」って思う女の子は、
とっておいちゃいけないのかもよ?
どうせ思い出にふけるんだから。
綾戸さんみたいな人は、
「今」で暮らしているから、録音しないよね。
録音しない人だから、そう言うんですよ。
・・・でも、まだ70歳にもなるからさ、
とっておくのは、いいかもしれないね。
それこそ、乙女の姿しばし留めん、だよ。
はずれクジがいつしか
当たりクジにひっくり返るような瞬間があって、
それがおもしろいよね。
|
綾戸 |
誰に感謝しなきゃいけないとか、
誰に文句いわなきゃとか、そういうのがないよね。
今日までのことは、ぜんぶ、
「あったから」ということなんですよ。
わたしもハズレクジ、いっぱいあった。
毛糸編みみたいなものですよね。
一個編み忘れても、あいているものとして
縫っていかないと、毛糸ならほどけるけど、
人生の編み物は、ほどけないから。
だから、編んでいくねん。
穴があると、つらい。
つらいけど、それを見ながら
どうしよう?と考えるねん。
でも、あとでその毛糸の下に
ラメを着ていると、穴のあいたところから
ラメが映えて、よくなったりして。
それが、たぶんオリジナリティなんだね。
ラメが映えておもしろいから、
ここで3つ穴をあけてみようか、とか、
そこは実際の毛糸編みとは違う、
人生の毛糸編みならではの楽しみですね。
|
糸井 |
これは若い人で
「わたしなんか・・・」
って思っている人に、聞かせたいですよね。
長く生きていると、
いろいろ、ごまかしがきくぞって。
|
綾戸 |
そうそう。ごまかしが次を作ったり。
まちがえても、ハッピーだ!と思ったら、
それは味になるわけで。
自分もたのしいし、お客さんに
悪い気持ちにさせないし・・・。
どうやって閉じていくか、なんですよね。
毛糸の最後は、自分で閉じていかないと。
|
糸井 |
説得力あるよねぇ。
いまのようなことって、
もしかして、17歳のころの
綾戸さんにもわかっていたのかなぁ?
そのへん、興味あるんですよ。
もしかしたら、
すごく大切なことって、
ほんとはどこかで知っていたかもしれない。
実はぼくは、若い頃はほんとうにバカで、
20歳の頃の自分がいたら、
「お前、ちょっとそこに座れ」
って言って説教したいぐらいなんですけど。
でもぼくがその当時になんか書いていたものを
見ると、意外といまと同じことを言っていたり。
|
綾戸 |
うわぁ・・・人間デジャブやわ。
わたしもおんなじ。
|
糸井 |
とんでもないアホなやつだけど、
案外そうでもない一面もあるので。
|
綾戸 |
なんか、生きてきたことは
積み重ねですから、
44歳ですけれども、
はずかしがらないで言うてええねんね。
いつも、20歳と20歳と4歳だよ、
って言うんですけど。
これ、うちの母親がそう言っていたんですよ。
「もう、60歳だね!」って言ったら、
「ハタチが3人いると思え!」って。
それ、いいなぁと思ったんですよ。
いただき、でした。
わたし、ええなと思ったら
すぐにいただくタイプだから。
|
糸井 |
だいたい、おもしろい人って、
「いただきかた」がうまいよね。
これは人から聞いた話だけどね、って言っても、
ごっちゃになっちゃうんだよね。
もう、本気で感じすぎていると、
それが誰が言い出したことか、
どっちの権利だ、なんて、
言ってられなくなっちゃう、というか。
|
綾戸 |
そうそう。
|