DOCTOR
Medic須田の
「できるかぎり答える医事相談室」

成人T細胞白血病 その2

その1を読んでいない方はまずそちらからお読みください。
白血病の中でT型と呼ばれる物があるそうで、
九州地方の人からの感染だとか
名前くらいしか知らない病気ですが、
何か須田さんの知っている
良い解決策(治療法)などがあれば教えてください。

検索しても突っ込んだとこまで、分からなかったんです。
今のとこ、道はないでもいいのでよろしくお願いします。

(マツユキさん)



こんにちは
Medic須田です。

こういう連載というのは、顔が見えないということが
かえってプラスになることがあるものでして、
僕のところにメールを寄こして下さる方の中には、
僕が白衣を着こなして病院内を颯爽と濶歩する姿を
思い浮かべて下さる人も多いようです。
「どこから見ても好青年で、おまけに頭脳明晰、
 スポーツ万能」
なーんてイメージを持ってくれる分には
こちらとしてはそのまま騙して差し上げても
よろしいのですが(笑)、実物の見た目は、
その辺をフラフラしているスケベなあんちゃんと
思ってくれた方が実物に近いことは間違いありません。

見た目といえば、日本人を大きく縄文系と弥生系に
分けるという話を聞いたことがありますか?
大雑把に言うと西郷どんや武蔵丸みたいな感じが縄文系で、
皇太子様のようなお顔立ちが弥生系とか。
細かく言うと、眉が濃くてしっかりしているとか、
目がぱっちり二重であるとかいう見た目が
縄文系の特徴らしいのですが、他にも、
酒が強い・ワキガがある・耳垢がネトネトしているので
耳かきよりも綿棒で耳掃除をする、
などという特徴があるそうです。
弥生系の場合はおよそこの逆をイメージすると
よいという話です。

ちなみに、僕はといえば、目が二重であること以外は
ほとんど縄文系にドンピシャリです。
こんなところで、僕に関するイメージが
少しははっきりしましたでしょうか。
それでも気になる方は僕のHPをご覧下さいな。


さてさて、実は、ここまでの前振りは
今回のテーマと大いに関連するのであります。
前回も予告しましたように今回は
「ATLをめぐるあれこれ」と題して、
ATL(成人T細胞白血病)に関する
純医学的な情報以外のところに
スポットを当ててみたいと思います。

(今回の記述の殆どは『新ウイルス物語』
 <日沼頼夫 中公新書>を参考にしたものです)


前回書きましたとおり、ATLウイルスの分布は
とても限られています。
世界的には、カリブ海沿岸・西アフリカ、
そして、西南日本くらいにしか存在しないのです。
1984年の調査によると、日本国内の
ATLウイルス陽性者の割合は、
 九州    8.0%
 近畿    1.2%
 北海道  1.2%
 東北    1.1%
などと、日本国内でも地域的偏りが
大きいことが分かります。
沖縄、五島列島などの限られた島嶼部での割合が
高いことも知られています。
また、近畿や中部などに見られるATLウイルス陽性者の
多くは九州地方やその他島嶼部との地縁がある人で
あることも知られております。

ここまで読みますと

「ATL陽性者が何でこんなに九州に
 固まっているんだろう?」

とは誰でも思う疑問でしょう。

実は、九州人よりも、さらにATLウイルス陽性者の
割合が高いグループが存在するのですが、
それを知ると「なるほど」となるかもしれません。
実は、1960年代にアイヌ人から採血された血が
人類学上の資料として保存されていたのですが、
日沼氏の著書によると、このグループの
ATLウイルス陽性者率は何と45.2%(!)なのだそうです。

となると、当然疑問が湧いてきます。

「一体、アイヌの人々と、九州、島嶼部の人々を
 結ぶ関係ってなんだ?」

これには一つの手がかりがあります。
ATLを発病する人の多くは眉がしっかりと濃い、
「いかにも」という特徴があるそうです。
この特徴は大雑把に言って、アイヌ、九州の人々に
多いものとして知られています。

すると、

「ATLウイルスの分布が日本人の民族的ルーツを
 探る手がかりとなるのではないか」

と、日沼氏のように考えるのは当然のことでしょう。
そして、いくつかの推論と仮説が考えられました。

旧石器時代、日本は大陸と地続きだったらしいことは
よく知られています。そして、1万年ほど前に、
日本は大陸とは切り離されたらしいのです。
日本の独自の文化はこのころから始まったと
考えて良いと思います。
この頃から花開いた独自の文化を縄文文化ということは
皆さんも中学校の頃歴史の教科書で習ったでしょう。

でも、一体、この文化を創った人たちのルーツって
どんなところにあるんでしょう? 
まず最初に考えるのは、中国・韓国と同じルーツである
という説です。おそらく、縄文時代どころか、
10万年、20万年とさかのぼれば
殆ど同じルーツとなってしまうのでしょうが、
少なくとも日本列島が大陸から離れる頃には
別の習慣を持った人々が縄文人として
暮らしていた可能性があるのです。

で、その根拠となるのがATLウイルスというわけです。
このウイルスは、母から子へと10〜40%程度の確率でしか
感染しません。
また、感染ルートも殆どが母乳を介した感染です。
となると、人口が増え、近親婚が減っていくと
ウイルス陽性者はどんどん少なくなっていくはずです。

そこで、中国・韓国のATLウイルス陽性者の
検査をしてみると、どちらもほぼゼロなのです。
ただし、台湾では地域によっては
陽性者が1〜3%いるということです。
これは、台湾原住民と日本人とのルーツが
近いものであるというよりは、戦前は日本だった台湾で、
台湾人と日本人との結婚が多く行われたということに
原因があるらしいのです。同じ日本だった韓国では
正式な結婚が多くなかったそうで、ATLウイルスの感染は
ほとんどなかったと考えられるのです
(男女間の性交でATLが感染するには10年単位の関係が
続く必要があるということがこれで分かるでしょう)。

さて、このATL陽性者はその後、なぜか九州・北海道・
東北・島嶼部に限られていきました。
これは恐らく、稲作の伝来とともに渡来してきた
大陸系の人々が少しずつ日本列島に入ってきたことと、
同時に伝わってきた大陸系の生活習慣がこの地域で
根付き始めたことと関係していることは
恐らく間違いありません。この頃渡ってきた
大陸系の人々や、この生活習慣を持った人々が創った文化を
弥生文化といいます。

以上、だんだん話が拡散しつつありますので、
この辺で締めくくりますが、この文章を書くに当たって
参考にした本を挙げておきますから、
興味のある方はぜひそちらで知識を深めることを
おすすめいたします。


・『新ウイルス物語』(日沼頼夫 中公新書)
ATLウイルスの発見者の一人である日沼氏の著書です。
生半可な推理小説やSFよりは絶対におすすめです。
生物学の知識が全くない人は、前半の専門的知識を
必要とする部分は読み飛ばした方が良いかもしれません。

・『パラサイト日本人論』(竹内久美子 文春文庫)
第4章「ウイルスが作った日本のこころ」にATLウイルスに
ついて書かれています。途中までは日沼氏の説を踏まえた
かなり信頼が置ける著述なのですが、後半は
「眉に唾つけて」読んだ方が良いかもしれません。
でも、そこが「竹内節」だと言えばその通りなのですがね。

・『日本人とは何か』(山本七平 PHP文庫)
第1部の1「日本人とは何か」で、日沼氏の説を
取り上げています。この本は日本の通史を独自の視点で
明らかにするというものですから、
ATL云々についてはそう詳しく書かれていません。
でも、僕自身が「ATL」という固有名詞を初めて知ることに
なった本なので、一応取り上げておきます。


それでは、また

保守反動思想屋須田ペニーのページ

1999-11-17-WED


戻る