DOCTOR
Medic須田の
「できるかぎり答える医事相談室」

ひどい医者 その2

ひどい医者 その1をよんでいないかたは
そちらからどうぞ。


(質問)
◆ところで、ちょっと友人から質問がありまして。
ちょいと読んでみてください。

「ひどい風邪をひいたので
 会社の近所のクリニックに行ったんだ。
 点滴打ってください、ってお願いして、最後に精算したら、
 保険証があるのに、8000円近く請求されちゃって。
 『なんでこんなにするんですか?』と聞いたら、
 『リンパ腺が腫れていたので検査しました。その代金と、
  それから、保険が使えない薬を出しましたので、
  その料金です』
 って言われたんだよ。
 これっておかしくない?
 『最初に、これだけかかりますが、いいですか、
  って訊いて欲しかったです』
 とは言ったんだけどね。もう払っちゃったあとだったから
 今さら文句もなあ、ってとこなんだけど……。
 その医者、会社の女の子が前に行って、
 やっぱり8000円くらい、保険があるのに、払ったんだって。
 じゃあ、ぼる医者なんだろうって、あきらめたけど、
 今後のために、こういうときってどうすればいいのか、
 教えてほしいなあ」

ということなんです。
タクシーなら「タクシー近代化センター」に文句を言う、
とかあると思うんですが、
こういうときって患者はどーするのがいいんでしょう?

教えていただけるとさいわいです。

(武井さん)


こんにちは
Medic須田です。

引っ越しいたしました。
身分は 「宙ぶらりんの無職」です(笑)。
というのも、医師国家試験の合格発表は4月20日なので、
5月から研修開始としている病院が多く、
僕が研修予定の病院もその例に漏れません。

引っ越したアパートのベランダからは、
その病院が見えるのですが、
ホントに“近くて遠い”んですよ、これが。

「じゃ、4月から研修する病院に行けば良かったじゃないの」

となるんでしょうけど、試験で疲れた頭を
リフレッシュさせることなく
勤務に入るという問題点もあります。
(早い話、休みたいだけなんですが(笑))

また、4月から研修を始めると、
10人に1人から2人くらいは試験に合格しない新人も
いるわけで、4月の終わり頃になると、
一緒に研修を始めた中に
ひっそりと病院を去る人間が出て来てしまうという
何ともやりきれない事態も起きてしまうのです。

ともあれ、研修を前にウダウダと無為な日々を過ごす
Medic須田なのでありました。


さてさて、今回は前々回の続き。
「困ったお医者さんにどう対処するか」
です。

前々回も申しましたとおり、
医学界では「インフォームドコンセント」という言葉を
とても耳にするようになりました。
何のことかというと、

「患者が納得できるような説明・情報提供をした上で
 医療行為を行う」

ということでありまして、
理想的にはどんな医療行為にもきちんとした説明を
行うことが必要なわけです
(もちろん、緊急の場合などが例外であることは
 前回述べたとおりです)。

実際にはそんなにクドクドと説明していては、
患者のが依頼での待ち時間は増えるばかりで、
医者としても患者としてもとても困ってしまうという面は
確かにあります。となれば、当然
「ほどほどのところで妥協する」という選択を
採らなければいけない場面も出てきます。

でも、今回の武井さんの質問内容に書かれている
お医者さんのやり口は正直申し上げてやりすぎです。
必要かどうかさえ分からない保険外の治療を
患者に説明もなくやっておいて、金を取ってから
「実はこういう事情なんです」と説明するのは、
一般社会ではとても通用しない行為です。
実際、武井さんのご友人もボソッと不満を述べたまでで
終わり、泣き寝入りの状態のまま病院を後にしたようです。

じゃあ、
「こういうお医者さんに出会ってしまった場合
 どうすればいいのか」
を述べていくことにしましょう。


まず、ちょっとだけ話を一般化して考えてみます。
これは個人的なお話ですが、
僕の場合困難に対処した時に、真っ先に考えるのは

「逃げる」
「我慢する」
「闘う」


のどれを行動のモードとして選択するか、ということです。
(一番最初に「逃げる」ってことを考えるところが
 僕らしいって?(笑))

例えば、街角でチンピラに絡まれたとしましょう。
まずしなければいけないのは、相手の様子を見て、
場所の状況を確認し、
「逃げることができる状況なのか」
を考えます。
逃げるのがちょっと難しそうな状況の時は、
相手の様子を見て、
「何とか持ちこたえられそうだな」
と思えば、のらりくらりとしながら殴られても我慢しつつ、
周囲の状況が変わるのを待ちます。で、仕方なく
「闘う」という選択枝を選ばねばならないときは、
周りに使えそうな道具などないかを確認して闘いに入ります。

え?

「何を悠長なこと言ってるんだい!
 実際に絡まれたら瞬間的に
 行動しなくちゃならんだろうが」

ごもっともでございます。
実際には絡まれているときにこんな悠長なことは
言ってられませんし、また、行動のモードの選択は、
実際にはもっと複雑なはずです。例えば、
「逃げながら闘う」
(例:ものを投げながら逃げる)
「我慢しながら闘う」
(例:殴られながらも周囲の人に助けを求める)
なんてのもあるはずです。

段々と話が横道にそれ始めましたが、
ここで指摘しなければならないのは
「お医者さんとの対面では、
 道でチンピラに絡まれたときよりは
 よほど対処しやすい」
ということです。
絡まれたら瞬間的に対処する必要があるでしょうが、
お医者さんがどんなに横暴だとしても、
患者に対処する余裕は充分にあるということです。
となると、先ほどの行動のモードも
少しは役立つかもしれません。

じゃあ、先ほどの行動のモードを
お医者さんへの対処に当てはめてみると
どうなるでしょうか。

まず第一に「逃げる」という選択枝。
これはお医者さんへの対処としては
もっとも簡単な選択枝です。
「納得いく説明をしてくれない」
「怪しい治療を了解なくすすめた」
などというときに一番取りやすい選択枝は
病院を変えることです。

ところで、最近、一般にも知られるようになった言葉に
「セカンドオピニオン」
というものがあります。
字義通りには「第2の意見」という意味ですが、
例えば、特に重要な疾患であるが、
急激な病状の変化はないような場合、
最初に診察してもらった病院の検査結果を持参して
別の病院でそれについての意見をもらうというものです。
これなどは「逃げながら闘っている」というところに
入るかもしれませんが、
少しずつこのような考え方も
一般に浸透しつつあることからも、
「逃げる」という選択枝が単なる消極的なものではなく、
一つの戦略でもあるのだ、ということにもなります。

で、「逃げる」という言葉を
この質問のケースに当てはめてみると、
「○○という保険が効かない薬を出しました」
といわれたときに、ちょっと考えて、
「すみません、どうも納得がいかないので、
 その薬出すのをやめてもらえますか」
と勇気を振り絞って言ってみるのも一つの方法です。

次に「我慢する」という選択枝。
結果的に武井さんのご友人は
これを選んだということになりますが、
これが適切なこともあるのです。
例えば、そのお医者さんを掛かり付けにしていて
自分の体調や普段の状態をよく知っている場合や、
時間や場所の都合上、どうしてもそのお医者さんにしか
かかれないという場合などはこれに当たります。

ただし、この場合にも「逃げる」というカードを出しながら
「我慢する」ということももちろん有効でしょうし、
「闘う」という態度をちらつかせながら
「我慢する」ということもできるかも知れません。


最後に一番過激な「闘う」という選択枝です。
これについても色々な意味に使えるのでして、例えば、

「ちょっとセンセイ、これおかしいんじゃないの?
 アタシ納得いかないわぁ」

と柔らかく諫めながら相手の反応を見るというのも
ありますし、

「こういう処置をされたのでは、
 法的な手段に訴えることも考えなくてはなりませんねぇ」

と、一発かまして見るという
物騒なやり方まで含むことになります。

もちろん、後者のような過激な方法はなかなか採りづらいし、
お医者さんとの人間関係をも破壊しかねないので
ためらわれる所ではあります。

でも、誤解を恐れずに言えば、医者も客商売です。
最も恐れるべきことは、患者の信頼を失い、
その患者が自分の元から離れていってしまうことのはずです。

ですから、そこまでの過激な手段に出ずとも、

「顧客の信頼を失うような行為に出る奴ぁ、
 客商売をやっている人間の風上にも置けねぇ」

くらいの威勢の良い自分を
頭の中に飼っておくくらいのことは
しておいてもよいとは思います。

また、念のため強調しておきますが、
実際に納得いかない診療をされた場合、
そんな風に、捨てぜりふの一つでも残して去るというのも
気持ちいいのですが、
その医者に対して自分が不満に思っていることを
きちんと述べてから去るというのが、
患者さんにとって利益となるところが多いと思います。
いくら傲慢な医者とは言え、高等教育を受けた人間ですから、
話して通じないことはないはず……だよな、たぶん(笑)。

ともあれ、単なるクレイマーとして印象づけられるよりは、
理性的な人と見られた方が患者さん側としても
今後の診療に絶対に有利なはずですから。


以上、縷々述べて参りましたが、
このような患者側の「医者対処法」は
緊急の場合などで
「医者の態度なんて構ってられるか」
というような一刻を争う状況ではとても適応できないことは
指摘しておきます。


この質問は「医者患者関係をどう築くか」という、
医療従事者側としても深刻な問題を含んでおります。
今回の回答に関して、「これはおかしいんじゃなかろうか」
とか「これは頷けるなぁ」というところがありましたら、
どしどしメール下さいませ。
今後の参考にさせていただきます。

と、珍しく真面目にまとめたところで、今回はこの辺で。

2000-04-16-SUN


戻る