ファーストメディア株式会社山崎佳一[全国避難所ガイド]×ほぼ日刊イトイ新聞糸井重里[ドコノコ]

ほぼ日刊イトイ新聞からデビューしたアプリ、
「ドコノコ」は、そのコの居場所を登録します。
それで、近くにいるコと知りあえたり、
迷子になったコを探しやすくもなります。
でも、登録をしていただく場所は、
ご自宅など個人的な住所ではありません。
災害などのときに集まるように定められた
地域ごとの「避難所」です。
犬や猫の居場所を「避難所」にしてもらうことで、
個人の情報を出さないままで登録できますし、
人にとっての大事な備えになります。

避難所のデータを提供いただいたのは、
防災情報アプリ「全国避難所ガイド」を運営する、
ファーストメディア株式会社の山崎佳一さん。
東日本大震災をきっかけに
自らの足で全国の自治体をめぐり、
より正確な避難所のデータを集める山崎さんに、
犬や猫、それから私たちの暮らす場所について、
お話をうかがいました。

ファーストメディア株式会社山崎佳一[全国避難所ガイド]×ほぼ日刊イトイ新聞糸井重里[ドコノコ]
山崎佳一さんのプロフィール 山崎佳一さんのプロフィール
  • 目次
  • 目次
  • 第1回「全国避難所ガイド」ができるまで。
  • 第1回「全国避難所ガイド」ができるまで。
  • 第2回現代版の伊能忠敬。
  • 第3回みんな、だれかのコ。

やまさきけいいち

山崎佳一さん

ファーストメディア株式会社 代表取締役CEO。
東日本大震災をきっかけに、
防災用アプリ「全国避難所ガイド」を無料でリリース。
より正確な避難所のデータを集めるため、
全国各地の自治体回りをする全国行脚を実施中。
年間の3分の1を出張に費やし、
すでに、約30都道府県の自治体をめぐっている。

「全国避難所ガイド」ができるまで。

「全国避難所ガイド」ができるまで。

糸井
こんにちは。
あの、僕たちが山崎さんと知りあったのは、
もともと、「ドコノコ」とは関係なくて、
東日本大震災に関連することで
メールをくださったんですよね。
山崎
そうですね。
姉が「ほぼ日」さんにメールをお送りしたところ、
糸井さんのTwitterでつぶやいていただけたんです。

糸井
そうでした。お姉さんからメールをいただいたんです。
「全国避難所ガイド」というアプリを作っていて、
「ほぼ日」に伝えておきたかったという
メールが、妙に気になったんです。

2012年に、糸井重里がTwitterでご紹介しました。

山崎
あの時は、反響もすごかったんです。
糸井
そうでしたか。
「全国避難所ガイド」が完成して
お客さんからの反響もあったけれど、
山崎さんは、まだ作り続けていたんですよね。
作りかけの状態が、ずっと続いている。

山崎
そうなんです。
アプリはようやく完成しましたが、
一番重要なのは、避難所のデータなんですよね。
地域によっては整備が遅れている自治体もあるので、
そういう場所を訪れては、
避難所の最新データの提出を
お願いするという全国行脚をしています。
糸井
アプリをつくるきっかけになった
東日本大震災の時には、
東京にいらっしゃったんですか?
山崎
はい、東京にいました。
3・11の震災の時には神保町の事務所にいましたね。
すぐそばでは九段会館の屋根が落ちたりですとか、
かなり大きく揺れた地域ではありました。
私たちの事務所は10階建てのビルの9階で、
細長いビルなもんですから、
すごい揺れで、社内がぐしゃぐしゃになりました。

翌日こそ休みましたが、
会社の営業は続けなければなりませんので、
震災の2日後には全社員が出社して、後片付けです。
そうすると、だれからというわけでもなく、
東北の支援をできることはないかと話が出ました。
ただ、私たちには毎日の仕事もありますし、
みんなでボランティアに行くわけにもいきません。
そこで、自分たちの持っている
ソフトウェア開発の技術を使って、
被災されたかたの支援ができないかを考えたんです。

糸井
うん、うん。
山崎
震災当日には、私の会社の中でも、
都内で帰宅困難になった社員もいました。
都市部ならまだしも、郊外で知らない土地に行ったら
避難所がどこにあるかなんて、わかりませんよね。
そういった話の中から、
東北の避難所をリスト化するアプリを
開発することに決めました。
その話をはじめたのが、震災の2日後ですね。
糸井
つまり、土日の話ですね。
山崎
じつは、「全国避難所ガイド」ができる前に、
ビジネスとして企画していたアプリがあったんです。
地図と連動させて、いろいろなことができるアプリで、
その技術を東北のために活用しようとしました。
糸井
まずは東北だけで考えたんですね。
山崎
はい、そうなんです。
ところが、よくよく考えると、
地震はこれから、東北だけじゃなくて、
いつどこで起きるかわかりません。
それなら、東北も含めた
全国版の「避難所ガイド」を作れば、
どこで地震に遭ったとしても利用できますから。
それで、地図用に企画していたアプリを、
防災系のアプリとして、
企画から全部やり直すことにしました。

糸井
じゃあ、プロトタイプができるのは
早かったでしょうね。
山崎
早かったです。
糸井
それがよかったんだ。
でも、最初は避難所のデータもないですよね?
山崎
避難所のデータは、私も甘く見ていました。
インターネットが盛んな時代ですので、
各自治体のホームページにいけば、
一覧ぐらい載っていると思っていたんですよ。
でも、検索をはじめたら、何も載っていなかった。
糸井
えっ、まったく何も!?

山崎
はい、載っていませんでした。
じゃあ、避難所はどうやって探すんだろうと
疑問が湧いて、いろいろ調べてみました。
結局、その当時には法律上
「公開しなさい」と義務づけられていなかったので、
自治体が公開していなかったんですね。
各家庭に冊子を配布したりはしていましたけど、
一般には公開していないという事実がわかりました。
糸井
ああ、そうだったんですか。
山崎
そこから何をしたかというと、
毎年3月に公開される議会資料を探すんですね。
市議会や県議会では、
避難所について承認を得るために
資料として提出しないといけませんので。
糸井
議会資料は、公開の義務があるわけですね。
山崎
そういうことです。
全国のいろんな自治体のホームページから
議会資料をかき集めてきて、
そこに載っている避難所の資料をまとめました。
データがきれいにまとまっていない自治体もあるので、
手入力で打ち込みをしたりもして、
震災から3ヵ月後の6月に、
ようやく、全国9万件のデータが集まりました。

糸井
その9万件は、ネットで集まったんですね。
あの、ちょっと僕にはわからないんですけど、
その「9万」という数字はきっと、
発表されている数としては少ないんですよね?
山崎
いえ、当時はその9万件がすべてだったんです。
いまはちょっと増えて、
11万件ぐらいになっています。
糸井
あっ、そうなんですか!
じゃあ、手入力やなんかをしていたら、
ほんとにスタートできたんですね。
僕はずっと勘違いしていて、
アプリを作りながら
どんどん増えていったのかと思っていました。
山崎
いや、最初にあった情報でした。
これで、2011年の7月になってようやく
iPhone版のアプリを公開できました。
すると、あっという間に
10万ダウンロードまで届く大反響でした。

ところがですね、公開後になって、
「位置が間違ってるよ」とか、
「この避難所はもうなくなったよ」とか、
「うちの目の前の公園が避難所になってるけど
 登録されてないよ」とか、
ユーザーからの問い合わせがバンバン届いたんです。
私どもとしては、避難所データも全部入れたし、
公開したら終わり、というイメージでいたんですが、
一体どういうことなんだろうと調べてみたら、
自治体が更新していないデータがあったんです。

糸井
ああ、そんなことがあるんですね。
山崎
データが間違っていたら、意味がないですからね。
下手すると、小学校の統廃合で更地になった場所も
アプリの情報では避難所になっていて、
ピンが立って位置を示すこともありえます。
このデータを最新にしていかないと、
かえって二次災害が起きるんじゃないかと思いました。
糸井
行ってみたら違っていた、ということですね。
山崎
そうなんです。そこに気がついて、
自治体で話を聞いてきたら、
「そういうの、けっこうあるよ」なんて言われて。
糸井
「あるよ」って言われてもね(笑)。

山崎
それで、最新データにしないとマズいことになるので、
全国の自治体に連絡を入れて、全国行脚を始めたんです。
糸井
ああ、そういうことでしたか。

(つづきます)

2016-06-05-SUN