●枝? 苔? 花?
|
糸井 |
あ、コノハムシですね。
|
海野 |
そうですね。
昆虫っていうのは、敵が多いので、
隠れるのが一番だということで、
擬態して身を隠します。
|
糸井 |
ふざけてるよなあ(笑)。
|
海野 |
これは、コノハチョウですね。
翅の表、派手な模様は自分の仲間向け、
裏の枯れ葉模様は、敵向けです。
枯れ葉があれば枯れ葉になる。
コケがあればコケになる。
これは、苔にそっくりなキリギリス。
*ほかにも苔をまとったような
「サルオガセギス」もご覧ください!
|
ほぼ日 |
え! これがキリギリスですか?!
|
海野 |
(動画の擬態するキリギリスを見ながら)
苔のある木に留まって、完全に苔になりました。
もっと苔になるためには
どうしたらいいか、考えます。
後ろ足がちょっと目立ちますよね?
そうすると、後ろ足を翅の中に隠して、
完全に苔になりきりました。
|
ほぼ日 |
うわ、隠した!
わからない〜〜!!
|
糸井 |
くっくっくっくっ。
|
海野 |
するともう、どこにいるかわからないですね。
|
ほぼ日 |
なんだこれは‥‥。
|
糸井 |
くっくっくっくっ。
|
海野 |
これは、ハナカマキリ。
チョウなんかは、花と間違えて、
勝手に寄っていっちゃうんですよね。
だからこれは、だまし絵というか、
偽物の花なんですけれども、
偽物のほうが本物より本物っぽく見えるんです。
これも実は、紫外線がからんでます。
|
ほぼ日 |
あ、またでかいチョウが寄ってきた!
花かと思ったら‥‥、
ああぁ! やられた。
これはすごいなあ‥‥(ざわざわざわ)。
*チョウを捕らえるハナカマキリの動画を、
こちらからご覧ください。
(「海野和男のデジタル昆虫記」
「高速度撮影カメラの世界」より)
|
海野 |
こわいでしょ?
ぼったくりの店みたいでしょ?(笑)
|
ほぼ日 |
きれいだと思ってちょっと寄ったら、
しまった! みたいな感じですね(笑)。
|
海野 |
カモフラージュ(擬態)している虫って、
みんな、ゆっくり歩くのが特徴です。
そうなっちゃうんですね。
虫の世界はうまくできているので、
これで早く歩けば、ばれちゃう。
でもこれで普通に早く歩けたら、
もっと繁栄するじゃないですか。
繁栄しないんですよ、こいつら、全然(笑)。
一見、映像がスローに見えると思いますけど、
こういう歩き方なんで、
普通は歩いてても気付かないんですよ。
|
●虫にとって、「見える」とは?
|
海野 |
次のカマキリは、
普通のカマキリに見えるんですけども‥‥。
|
糸井 |
関根勤。
|
ほぼ日 |
‥‥関根勤さん、
確かに昔、カマキリ拳法という、
素晴らしい芸を披露されておりましたが‥‥。
|
海野 |
このカマキリ、小枝になるんです。
|
ほぼ日 |
‥‥わ! 枝になった。
枝でしかない‥‥、すごい。
*枝になりきるカマキリは、こちらをご覧ください。
「昆虫の擬態」海野和男(平凡社)より
*オオカレエダカマキリというのもいますよ。
|
海野 |
次は、触ると、
パッと目玉を出すガですね。
|
糸井 |
これは威嚇ですか?
|
海野 |
威嚇です。
触ると前の翅を広げて、
後ろ翅の目玉を見せて脅かすんです。
|
海野 |
次のトビナナフシは、
触ると大きくなるんですよ。
|
糸井 |
トカゲみたい。エリマキトカゲ。
|
海野 |
そう、これはトカゲのマネをしているんですね。
エリマキトカゲではないんですが、
トビトカゲっていうのがいて、
それがこんな翅の模様をしているんです。
|
糸井 |
肉食のマネをしているんですね。
すごいね〜。
睥睨(へいげい)しているんですかね?
|
海野 |
うん、とりあえず怒ってる。
|
糸井 |
とりあえず、怒ってるんですか(笑)
|
海野 |
次は、センストビナナフシ。
結構大きい虫です。
「昆虫の擬態」海野和男(平凡社)より
|
ほぼ日 |
確かに、艶やかな扇子みたいですね。
|
海野 |
「センストビナナフシ」って、
僕が勝手に名付けたんですが、
トビナナフシのグループです。
そういうところだけは科学的にしておいて、
その上につく形容詞は、
勝手につけちゃえばいいんです。
学名は勝手に付けてはいけませんよ。
でも和名は、いいんです。
昔、私が付けた名前の虫に、
「ヒョウモンカマキリ」というのが
いるんです。
豹みたいな柄だから、
そういう名前をつけたんですけど、
もっと後ろ翅のことを、
名前につけりゃ良かったな、と思ってます。
|
糸井 |
そういえば、ユカタンビワハゴロモって
いるじゃないですか?
顔がワニなんだよ、
あれは本物見てみたいな〜。
|
海野 |
セミの一種で、頭が出っ張ってて、
そこにワニの模様があります。
|
糸井 |
大きさもなにもかも全部違うのに、
「俺はワニだから。」って顔してんの。
|
海野 |
そう、「俺ワニだから」って顔してる。
|
ほぼ日 |
どこに行ったら見られるんですか?
|
糸井 |
ユカタン半島あたり。
|
海野 |
あとね、ほんとの蛇に見える
ガの幼虫ってのもいる。
(と、写真を見せてくださる海野さん)
|
一同 |
ええ????
|
海野 |
ちょっとかわいいでしょ?
ビロウドスズメです。
でも毒ヘビのマネですよ。
|
糸井 |
その、虫にとって、
「見える」って何のことなんでしょうね?
自分(虫)の視線からは、
その他の景色が見えるわけだから、
自分の姿を確認しようがないじゃないですか。
見たことがないわけですよね、自分の姿形を。
それは、他者からの視線を基にして、
自分の姿をつくる、ということですよね。
自分を見ている誰かが、
インプットされているわけでしょ?
前々からそのことについては、
不思議で不思議でしょうがない。
|
海野 |
ほんとうに、擬態はとくに面白いですよ。
|
糸井 |
モニターのないことを、
生物がしていることがほんとうに素敵ですね。
|