糸井 |
俺、山崎まさよしが気になるなあ。
いいよね。詩が残るというか・・・。
あの感じは、真似して作ろうとしても
ぜったいにできないものですし。
あとで「自分が歌えるんだ」っていう自信を
持って詩を書ける
シンガーソングライターは、
ものすごく有利だと思います。
「俺があとで歌って何とかしてやる」
という立場で詩を作れるから。
井上陽水なんか、典型的にそうだもん。
自分があとで歌えるという自信があるから、
ああいう解釈さえ難しい詩を、
平気で書ける。 |
沼澤 |
山崎のコンサートをはじめて聴いた時には、
陽水さんに一番最初に出会ったのと
ちょうど似たような印象がありました。
山崎がギターを持って立っている姿が、
めちゃめちゃ面白かったです。
歌と声とギターが一緒になっていて、
彼がギターを弾いているからこそ
成立しているようなところを、
ものすごく感じまして・・・ただ、
山崎のギター、めちゃめちゃうまいですよ。
陽水さんの場合は、ギターがどうこうというより、
そういうものはもう超えちゃっていて、
あの人の場合は、何というか、もう・・・。
ぼくらがああだこうだって言っているレベルと
あまりにも違うところにいる人だから。 |
糸井 |
その話、陽水が聞いたら、
よろこぶだろうな〜(笑)。 |
沼澤 |
そういうふうに思ってる人は、
いっぱいいるんじゃないかなあ。 |
糸井 |
ま、陽水の場合は、そのほめ言葉が、
そのまま伝わらない耳を持っていますから。 |
沼澤 |
(笑)ぼくもあんまり、
お会いしてても、つっこまない。 |
糸井 |
だって・・・ほめにくいでしょう? |
沼澤 |
「すごいですね」って言っても
しょうがないってところがありますから。 |
糸井 |
「・・・ああ、そう・・・カッカッカ」
って言って、おわりでしょ? |
沼澤 |
(笑)そうかもしれない。
あんまりつっこめない。
というか、聞いてくれないですもん。
「いやあ陽水さん、
あの曲のあそこがですね〜」
って言ったとしても・・・ |
糸井 |
「・・・ところで君、その髪はどうなの?」
なんて明後日(あさって)なことを言うもんね。 |
沼澤 |
(笑)ほんとに、そう。
ぼくはこの前、イベントで
陽水さんに十年ぶりにお会いしたんです。
「陽水さん、ごぶさたしてます」
と真面目に挨拶をしたら、
「いやあぁ・・・元気そうでぇ・・・」って。 |
糸井 |
(笑)。 |
沼澤 |
「ほんと十年ぶりです。ごぶさたしてます」
とか言っても「・・・背、高くなった?」とか。 |
糸井 |
(笑)。 |
沼澤 |
「・・・高くなったよねえ?」みたいな。 |
糸井 |
ほら、そういう奴なんだよ〜っ(笑)。 |
沼澤 |
スガシカオ君と一緒に演った時だったから、
「今日は、スガ君と来てるんです」とか、
ある程度の話には、なるんですよ。陽水さんから、
「ビューティフルソングスやってるんでしょう?」
とか。 |
糸井 |
あの人、そういうのよく知ってんだ、また(笑)。 |
沼澤 |
「ビューティフルソングスは何本くらい演った?」
とか、普通の質問もしてきて、
ぼくがそれでまともにこたえると、
「・・・それにしても、背、高くなったねえ」。 |
糸井 |
(笑)。 |
沼澤 |
あれ? 今、俺、質問にこたえたんだけど、
何でそれに対する返しがそれなんだ、って(笑)。
その時は陽水さんのバンドにぼくらが入って
セッションをすることになっていたから、
陽水さんは、歌い終わったあとも残って、
ぼくらのステージをぜんぶ見てくれてたんです。
で、終わったら、いきなりこっちに来て、
「うまくなったねえ、ドラム」
とか言ってくださったから、もう嬉しくて、
「うわあ、ありがとうございます」と言うと、
「・・・背も高くなったし」
ってなるんですよ(笑)。
ほめていただいて、
めちゃめちゃ嬉しかったのに、
最後はそんな風な返しになる。 |
糸井 |
いやあ、でもそれは、
彼としては最大のサービスだと思うよ。 |
沼澤 |
十年前に演ったきりでお会いしたのに、
結局は「背が高くなった」という話で(笑)。 |
糸井 |
そこを例えばぼくが敢えて
陽水に「どういう意味なの?」って
何度もつっこんで聞いたとしたら、きっと
「あの子は昔は、もっと小さかった・・・」
と言いたいんでしょうね。
|
沼澤 |
そういうことでしょうね。
その場でも、陽水さんの言葉を、
ぼくはそういうようにも取りましたから。 |
糸井 |
「それは、彼には伝わっているはずで、
それをもう一回尋ねようとするあなたは野暮だ」
とか、そんな風にぼくには言うんでしょうね。
・・・あのお方は、
そんなことばっかりなんだよ〜っ! |
沼澤 |
そうです(笑)。
何かよくわかんない雰囲気を作るじゃないですか。
でも、陽水さんの気持ちはすごく伝わりますよね。 |
糸井 |
わかる。 |
沼澤 |
NHKでの糸井さんと陽水さんの対談を、
こないだたまたま深夜の再放送で見たんですけど、
まともに聞いているとわからないあの言葉を、
糸井さんがすごく通訳してくれてるな(笑)と。
糸井さんが次の話題につなげる質問をすることで
ああ、いま陽水さんは
こういうことを言ってたのか、と
字幕なしの通訳でぼくらに伝わるというか・・・。 |
糸井 |
(笑)だからぼくも、苦労が絶えない。
・・・いやあ、嫌ではないんですよ。
不快じゃあないし、とっても好きです。
でも、それは俺が男であって、
男としての歪みかたをしてきてるから
彼の歪みかたにも共振するということですよね。
俺が女だったら、この人について行こう、
とは思わないタイプだよね。
女だったら惚れることはない、と思うよ(笑)。
ややこしいもん、頭ん中が忙しすぎる。
ぼくは、矢沢永ちゃんと喋る時と、
陽水と喋る時とは、どういうわけか、
おんなじような感じなんです。
永ちゃんは、ぜんぶをストレートに言うでしょ?
でも、そのストレートな発言は、
ぜんぶを積み重ねると、とても複雑なんですよ。
これはこれで、頭ん中が忙しい。
陽水の場合は、ぜんぶねじ曲ったことを言うけど、
根にあるものはすごいストレートですから。 |
沼澤 |
ああ、わかります。
陽水さんの場合は、伝えたいことが
すごいはっきりしてるじゃないですか。
それをこう、あのひとの表現方法で
言っているものですから、
わかったようなわからないような感じで・・・。 |
糸井 |
まあ、陽水が墓場に入った時に、
敢えて墓碑銘を書くとしたら、ぼくは、
「ほんとはいい人だった」と書いてあげたい。 |