Drama

第2回 こういうおとなになれたらいいな。



昨日からはじまった連載です。
ドラマーの沼澤尚さんとdarlingとの対談。
井上陽水さんについての話が続くところです。

あ、そうだ。沼澤さんには、前に「ほぼ日」で
もうすぐ対談をするよ、と紹介をした時から、
「楽しみだなあ」のメールが届いていたんです。
イントロダクションがわりに、まず、掲載するよー。

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>タカさんのプレイは本当に楽しそうなんです。
>テクニックとかグルーブとか
>そういうものをひとまずおいて、
>見てる人を楽しくするんです。
>心底音楽を愛してる、そんな空気で一杯になります。
>そしてそんな空気に包まれていると、
>見ているみんなに伝染するみたいです。
>
>私ももう沼澤さんのステージを8年ほど見ていますが、
>どんどん変化していくような気がしています。
>そして新しいことに挑戦していく姿勢も
>すごいと思っています。
>
>タカさんのプレイを見ると泣けてきます。
>”みんなひとりで、でも楽しんで生きてるよ”って
>そんな風に言われてるみたいで・・・。
>
>moto


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>私も、沼澤さんのドラム大スキです。
>身体全体で、ほんとうに楽しそうに音を
>出されてるのを見るだけで嬉しくなります。
>リズムや音も心地よい。
>生きてる感じがするのです。
>
>haruko


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>私が沼澤さんの醸し出す
>Grooveにひかれだしてからまだ
>1年半しかたっていないのですが、
>今は沼澤尚さん無しには私の音楽系統図は語れません。
>
>技術的なことはほとんど分からないのですが、
>何故私がこの人のドラムに惹かれるのかが
>沼澤さんの本を読むと分かったような気がします。
>沼澤さんの参加されている作品は、ほんとに幅広くて
>「特に興味ないなあ・・・」
>って思うジャンルのものもあるのですが、
>実際に手にとってきいてみると、いいんですよね。
>
>特に、マルコス・スザーノや
>パウリーニョ・モスカなどの作品は
>今までの音楽体験の中では、沼澤さんのソロアルバムを
>手に取らずにいたならば素通りしていたとおもうんです。
>本当に、沼澤さんの音楽の幅の広さにおどろいています。
>
>iku


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ほかにも、たくさんのメールをいただいています。
それでは、今日の対談にどうぞ。


糸井 観客のいない時の会話での井上陽水は、
すごく素直で、だから
戦友のように話せるんですよね。
沼澤 実は、むちゃくちゃ素直な人ですから。
糸井 うん、いろいろな出来事に、
絶えず心を痛めているんですよ。
似合わねぇけど、そういうところある。
沼澤 それで、まわりをものすごく観察してる。
糸井 でもさあ、あの人きっと、
9割くらいの人には一生誤解されていて、
あと9分くらいには「わからない」と言われて、
残りの1厘の人にだけ、
「ほんとはいい人だ」と思われるんだろうなあ。
なのに、誤解されながらも、好かれてるでしょ。
沼澤 日本のほとんどの人に、
「ものすごいいい曲を書いて
 ものすごいいい歌を歌ってる」
という、あの人の職業的な社会的な顔が
伝わっているのは、すごいですよね。
糸井 うん。
あの人、最近、
ちっちゃなツアーを積み重ねたんですよ。
きっと、何か突破したい気分が盛り上がって、
意識的にやったことだと思うのですが、
そのツアーのことを、こないだふたりだけで
話した時にも、やはり、会話の中に、
いい「詩」がたくさんありましたね・・・。
「図らずもさぁ」とか言いながら、
ちょっとホロリとすることしゃべっていました。

「図らずも」の後に、
ものすごい、平凡に近いくらい普通の
優しい男の子の部分が出てくるんだ。

だから今まで支持されて来ているんでしょうね。
本人が見せているつもりの
正体不明の男ってだけじゃ、
人はついてこないもん・・・。
沼澤 テレビでも、糸井さんと、
ものすごいしゃべってたじゃないですか。
糸井 ほんとはおしゃべりですよ、たぶん。
オレがおしゃべりだからかもしれないけど。
沼澤 普段のテレビでは、あんなに喋りませんから、
しゃべっているなあとも思ったし、
分かってもらおうとしているようにも見えた。
糸井 ああいう種類の生き物だと思ったら、
よく理解できるんですよ。
かっこいい生き物として見ると、
いろんな、
一見困難なタイプの人が見えてきますね。
標準化された人間ばっかり見てると、
変な人に見えちゃうんだろうけど、
標準化できない才能とか、思想とかの持ち主って、
別の言葉を、絶えず語ってるんだと思うんですよ。
もしかすると、沼澤さんもそうだったりして。
沼澤 ぼくは、陽水さんにはじめて会ったときに、
あ、こういうおとなになれたらいいな、と思った。

その時にはTシャツを着ていて、
ジーンズも破けちゃってて・・・。
破いたんじゃなくて、ポケットに何かが
ひっかかって、破けたんだろうなというやつで。

で、普通の靴を履いて歌を練習している姿を見て、
これはかっこいいなあ!と思ってた。
糸井 彼は、テレビをものすごく好きだよね。
ぼくが前にクイズ番組に出て楽しんでいたら、
そういうの、たぶん、ちょっと、
うらやましがるんだよ。
そういう
どうでもいいような楽しみを味わうのって、
むつかしいじゃないですか、あのへんの人って。
「・・・ぼくのほうに、
 声がかかってもいいんじゃないかなあこれは」
とか思うんですよ、きっと(笑)。
「・・・でも、声がかかって喜んで
 いそいそと出かけるような俺でもない、
 ということも、あるわけだし・・・」
沼澤 その陽水さんの感じ、わかる。
糸井 かならずこういうのが出るわけですよ。
「・・・で・・・・ぼくは、
 まあ・・・出ることについては・・・・」
沼澤 「・・・やぶさかではない」
糸井 そうそう(笑)。
という流れで、更に

「・・・意味的に言えば、
 まあ、ぼくが通る道路に、仮にまあ、
 赤いジュウタンがスッと敷かれていたら、
 ぼくがそれを拒否するということは、
 まぁまぁ、それはねぇ・・・
 ちょっとマナーに反する
わけだから・・・。

 要するに、そういうジュウタンみたいな
 仕組みがあれば、ぼくはもうほら、あれ、
 行かざるを得ない
立場にも、なるわけで・・・。
 そういう機会というのはさぁ、
 イトイさん、作れるんじゃないの?」(笑)
沼澤 そっくり(笑)。
井上陽水のモノマネとしては完璧ですよ。
糸井 まあ、ぼくイタコ(笑)です。

それでその時にどうなったかと言うと、
その番組の中で、特番ということで
「今日は特別な日ですから、
 井上陽水さんに来ていただきました!」って。
で、井上陽水、けっこう
悪い気はしないみたいにさあ・・・(笑)。
沼澤 ・・・出たんだ!(笑)
糸井 黒鉄ヒロシさんとチーム組んで。
沼澤 嬉しかったでしょうねえ・・・。
糸井 ははは(笑)。

あと、ダンディでしょ、あの人。
自分に元気がない時には、
人に会わないんですよね。
沼澤 ほんとにそうですよね。
糸井 で、元気が出ると、
「・・・どう?」って来るんですよ。
あれって、彼の美意識だし、
マナーなんだろうね。
やっぱり、ふたりといないひとだよね〜。
沼澤 ぼく、陽水さんとレコーディングした時の
当時のリハーサルのテープを、
ぜんぶとっておいてますよ。
糸井 それ、いいテープでしょうね。
沼澤 彼が合間に話すことを
とっとかないともったいないぐらいで。

レコーディングで、
雰囲気が悪くなった時があるんですよ。
「・・・もう一回やってくれる?」
と首をひねって言われることが何回か続いて。
で、ギターもドラムも何度もやるなかで、
演奏する側にいたぼくたちには、
「・・・これはひょっとして、陽水さんに
 気に入ってもらえていないんじゃないか?」
という雰囲気が、あったんです。
「次はもう少しうまくやって、印象をよくしよう」
とかぼくたちが思って、
完璧にやろうとするんです。
で、何回かそれをやったあとに、陽水さん、
「・・・『難しい』ということはわかった」
って言って。
気に入らないように見えていたけど、
ただ単に、わかりたいだけだったんだ(笑)。
糸井 (笑)だーから、
あのお方は、根が王様なんですよ。

(明日に、つづきます。
 次回は陽水さんの話の流れで、
 人と組んで何かをすることについてだよ)


2000-12-05-TUE
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