糸井 |
観客のいない時の会話での井上陽水は、
すごく素直で、だから
戦友のように話せるんですよね。 |
沼澤 |
実は、むちゃくちゃ素直な人ですから。
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糸井 |
うん、いろいろな出来事に、
絶えず心を痛めているんですよ。 似合わねぇけど、そういうところある。
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沼澤 |
それで、まわりをものすごく観察してる。 |
糸井 |
でもさあ、あの人きっと、
9割くらいの人には一生誤解されていて、
あと9分くらいには「わからない」と言われて、
残りの1厘の人にだけ、
「ほんとはいい人だ」と思われるんだろうなあ。 なのに、誤解されながらも、好かれてるでしょ。
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沼澤 |
日本のほとんどの人に、
「ものすごいいい曲を書いて
ものすごいいい歌を歌ってる」
という、あの人の職業的な社会的な顔が
伝わっているのは、すごいですよね。 |
糸井 |
うん。
あの人、最近、
ちっちゃなツアーを積み重ねたんですよ。
きっと、何か突破したい気分が盛り上がって、
意識的にやったことだと思うのですが、
そのツアーのことを、こないだふたりだけで
話した時にも、やはり、会話の中に、
いい「詩」がたくさんありましたね・・・。
「図らずもさぁ」とか言いながら、
ちょっとホロリとすることしゃべっていました。
「図らずも」の後に、
ものすごい、平凡に近いくらい普通の
優しい男の子の部分が出てくるんだ。
だから今まで支持されて来ているんでしょうね。
本人が見せているつもりの
正体不明の男ってだけじゃ、
人はついてこないもん・・・。 |
沼澤 |
テレビでも、糸井さんと、
ものすごいしゃべってたじゃないですか。 |
糸井 |
ほんとはおしゃべりですよ、たぶん。 オレがおしゃべりだからかもしれないけど。 |
沼澤 |
普段のテレビでは、あんなに喋りませんから、
しゃべっているなあとも思ったし、
分かってもらおうとしているようにも見えた。 |
糸井 |
ああいう種類の生き物だと思ったら、
よく理解できるんですよ。 かっこいい生き物として見ると、
いろんな、
一見困難なタイプの人が見えてきますね。
標準化された人間ばっかり見てると、
変な人に見えちゃうんだろうけど、
標準化できない才能とか、思想とかの持ち主って、
別の言葉を、絶えず語ってるんだと思うんですよ。
もしかすると、沼澤さんもそうだったりして。
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沼澤 |
ぼくは、陽水さんにはじめて会ったときに、
あ、こういうおとなになれたらいいな、と思った。
その時にはTシャツを着ていて、
ジーンズも破けちゃってて・・・。
破いたんじゃなくて、ポケットに何かが
ひっかかって、破けたんだろうなというやつで。
で、普通の靴を履いて歌を練習している姿を見て、
これはかっこいいなあ!と思ってた。 |
糸井 |
彼は、テレビをものすごく好きだよね。
ぼくが前にクイズ番組に出て楽しんでいたら、
そういうの、たぶん、ちょっと、
うらやましがるんだよ。
そういう
どうでもいいような楽しみを味わうのって、
むつかしいじゃないですか、あのへんの人って。
「・・・ぼくのほうに、
声がかかってもいいんじゃないかなあこれは」
とか思うんですよ、きっと(笑)。
「・・・でも、声がかかって喜んで
いそいそと出かけるような俺でもない、
ということも、あるわけだし・・・」 |
沼澤 |
その陽水さんの感じ、わかる。 |
糸井 |
かならずこういうのが出るわけですよ。
「・・・で・・・・ぼくは、
まあ・・・出ることについては・・・・」 |
沼澤 |
「・・・やぶさかではない」! |
糸井 |
そうそう(笑)。
という流れで、更に
「・・・意味的に言えば、
まあ、ぼくが通る道路に、仮にまあ、
赤いジュウタンがスッと敷かれていたら、
ぼくがそれを拒否するということは、
まぁまぁ、それはねぇ・・・
ちょっとマナーに反するわけだから・・・。
要するに、そういうジュウタンみたいな
仕組みがあれば、ぼくはもうほら、あれ、
行かざるを得ない立場にも、なるわけで・・・。
そういう機会というのはさぁ、
イトイさん、作れるんじゃないの?」(笑) |
沼澤 |
そっくり(笑)。
井上陽水のモノマネとしては完璧ですよ。 |
糸井 |
まあ、ぼくイタコ(笑)です。
それでその時にどうなったかと言うと、
その番組の中で、特番ということで
「今日は特別な日ですから、
井上陽水さんに来ていただきました!」って。
で、井上陽水、けっこう
悪い気はしないみたいにさあ・・・(笑)。 |
沼澤 |
・・・出たんだ!(笑) |
糸井 |
黒鉄ヒロシさんとチーム組んで。 |
沼澤 |
嬉しかったでしょうねえ・・・。 |
糸井 |
ははは(笑)。
あと、ダンディでしょ、あの人。
自分に元気がない時には、
人に会わないんですよね。 |
沼澤 |
ほんとにそうですよね。 |
糸井 |
で、元気が出ると、
「・・・どう?」って来るんですよ。
あれって、彼の美意識だし、
マナーなんだろうね。
やっぱり、ふたりといないひとだよね〜。 |
沼澤 |
ぼく、陽水さんとレコーディングした時の
当時のリハーサルのテープを、
ぜんぶとっておいてますよ。 |
糸井 |
それ、いいテープでしょうね。 |
沼澤 |
彼が合間に話すことを
とっとかないともったいないぐらいで。
レコーディングで、
雰囲気が悪くなった時があるんですよ。
「・・・もう一回やってくれる?」
と首をひねって言われることが何回か続いて。
で、ギターもドラムも何度もやるなかで、
演奏する側にいたぼくたちには、
「・・・これはひょっとして、陽水さんに
気に入ってもらえていないんじゃないか?」
という雰囲気が、あったんです。
「次はもう少しうまくやって、印象をよくしよう」
とかぼくたちが思って、
完璧にやろうとするんです。
で、何回かそれをやったあとに、陽水さん、
「・・・『難しい』ということはわかった」
って言って。
気に入らないように見えていたけど、
ただ単に、わかりたいだけだったんだ(笑)。
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糸井 |
(笑)だーから、
あのお方は、根が王様なんですよ。
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