糸井 |
井上陽水って、あの方、
根が王様なのに、それでいて、
売れる売れないってことを、
ちゃんと重要なこととして気にするんですよね。
売れないったって、俺らから見れば、
あの人の「売れる・売れない」の波なんか、
すごい上空のほうの話なんだけれど。
やっぱり、あれは、作り手として、
もっと言えばプロデューサーとして、
「なぜ、届かなかったんだろう」ということが、
知りたくなるんだろうなぁ。
王様じゃないぼくなんかは、
そういうこと、いつも気になってるけれど、
彼は王様だからねぇ。
いわば、美空ひばりの次元の人だから・・・・。
・・・でも、こうして喋ってると、
懐かしくなってくる人だね。妙に(笑)。 |
沼澤 |
(笑)はい。
若いミュージシャンたちが、無条件に
ものすごく尊敬しているアーティストですし。
山崎とかスガくんは、
ほんとに陽水さんを尊敬してますよ。 |
糸井 |
陽水のほうは、
「みんなはぼくを
好きじゃないんじゃないか?」
と、思っているんじゃないか(笑)。 |
沼澤 |
さっき言った、
陽水さんと同じイベントに出た時、
スガくんが
「何で(陽水さんじゃなくて)
自分たちがトリなのよ」と・・・。 |
糸井 |
そこを敢えて、
「トリじゃないところで
ぼくが出るから意味がある」
みたいに陽水は考えてるんだろうね。
顔が想像できるなぁ。 |
沼澤 |
そういう感じです。
ぼくら、陽水さんが歌っている時に、
前で待っているわけです。
そしたらそれが、スガくんが、
「何で本気になるんだよ〜っ」
と言うくらいにすごくって。 |
糸井 |
陽水って、いざはじめると本気になるのよ。
ずるいくらいに本気なのよ。
あの人、時々、いまの自分が、どのくらいの
力量を持っているのかを、知りたくなるんですよね。
で、発作的に若い奴に会いたくなったりする。
奥田民生くんと大槻ケンヂくんとデーモン小暮と、
いっぺんに呼んで会ったみたいだよ、前に。
あと、みうらじゅんにちょっと会って、
「そのうちまた」なんて言っていたら
「・・・いま、近くにいるんだけどさぁ」
って陽水からの電話が入ったとか・・・。
それって、勝負師の手合わせみたいな気分が、
根っこにあるんじゃないかしらね。
伝説の手塚治虫さんのように。
新人のうちの自分の認めるやつと、
剣をまじえたい。 |
沼澤 |
「近くにいるんだよ」って(笑い)。 |
糸井 |
みうらが言ってたけど、
「あなたがディランが好きなわけでしょ?
若いのにねえ・・・」なんて話すわけで。
ほんとは若くないんだよ、みうらは(笑)。 |
沼澤 |
山崎くんとは、今度NHKで競演するって言ってた。 |
糸井 |
若い人と組むことに、ものすごく積極的ですよ。
どっかーっと、ケモノが飛びつくみたいな、
そういう動きが、陽水はすごいよね。 |
沼澤 |
海外のアーティストは、ものすごくで、
ディランにしてもストーンズにしても
エリッククラプトンにしても、
いまものすごく売れている人と組んで
新しいアルバムを出したりするじゃないですか。
日本はそういうのほとんどないから、
陽水さんは、自分より若い人に何かを感じた時に、
積極的にものを作りに向かう姿勢としては、
日本で唯一ぐらいだと感じます。 |
糸井 |
奥田くんと陽水の組んだレコードを、
なんかひねくれたかたちで批評していた人がいて、
ぼくのほうが、代理みたいな気持になっちゃって
すっごい腹が立ったことがあるんですよ。
そんなことを言っちゃったらさあ、
もう、友達なんて世の中にひとりもいないじゃん。 |
沼澤 |
そうですよね、日本では、割と、なぜか
一発売れた人は、次からぜんぶ自分でやってて。
アニタ・ベイカーが誰かと組んで、だとか
ホイットニー・ヒューストンが誰かと、だとか、
そういうのが、日本の土壌にはまったくないのに、
なのに陽水さんはやるんですよ。 |
糸井 |
あと、実はその対極みたいだけど、
永ちゃんもそうなんです。
有名になる寸前の人が、永ちゃんのバンドで
ギターを弾いていたりするんですよ。 |
沼澤 |
陽水さんと糸井さん、同い年くらいですよね? |
糸井 |
うん。同い年ですね。
同い年のぼくらの、あえて似てるところは、
人と組むのが好きなところですよね。
それをやっかむ奴らは、
「利用してうまいことやってる」
とか言うんだなぁ。ったく。
別に組んで得をしたいわけでもないし、
得をするわけでもない。
それよりも、ただ単純に、ぼくは、
自分に持っていないものを持っている人を見ると、
嫉妬するんですよ。
人間にというよりは、そのナニカに嫉妬するの。
奴にあって、ぼくにないものは何だろう?
それを知りたくて組むというか・・・。
それが、マゾで気持がいいんだ、また。 |
沼澤 |
ぼくもすごくそうです。
なんでこんなに若いのにこんなに表現できるの?
それは、もちろん音楽だったら
一緒に何かやんない?ってことになるし・・・。 |
糸井 |
もてるやつが、
女の子いたら声かけたくなるのとおなじで、
ぼくたちが人と組む時も、
「ふたりでいたら何ができるのかなあ?」
というところで、やっぱり、仕事を通しての
共通の子どもをつくりたくなるんですよね?
その子どもが不良化しようが、どうでもいいし、
種はあるんだから、あとで育てようと思うし、
また今度何かやろうよっていうのもあると思うし。
ぼくは、そこのところは、
誰とどう組もうと、自分が本当に思ったことを
やっている限りは大丈夫だと感じているんですよ。 |
沼澤 |
ある程度、自分に自信があればいいですよね。
自分のやることに意味があるわけだから、
「こういうことが、ぼくのやることで、
だからぼくは、君と組んで何かをするんです」
ということをアピールしないといけないわけで、
人と組むことによって、
より自分の持っているものを
明確に出さないといけなくなりますよね。
そういう意味では、相手が乗ってくるくらいに、
「いいよねえ、それ!」と思われるものを
出していかないと、要らないと思われるから。 |
糸井 |
そう、その過程では、テクニックも出すし。
組みかたとしては、5分の2だけ組むやり方も、
自分が6を出して相手が4というやり方も
いろいろあるし、その時の呼吸ですよね。 |
沼澤 |
人によりますよね、ほんと。
その人が、自分とどういう関わりを
持ちたいか、持たせてくれるか、
主導権は、どこで誰がとるのか・・・。 |
糸井 |
そこでの変化によってやることが変わって、
そういうのって、楽しいよね〜っ。
ビジネスの世界って、みんな、
お金を介してそういうことをやってるんだよね。
でも、沼澤さんやぼくのように、
ビジネスを介さないでそういうことばっかりやると
人からは、珍しく見えちゃうんでしょう。
やっぱり、陽水は、珍しいもん。
あの人は、何になるかはわからないけれども
人に会って、新しい血を入れますよね。 |
沼澤 |
ぼくの場合、自分のために
人と組むというのは、大前提です。
自分が楽しいとか、何かを吸収できるというか、
山崎くんにしても民生くんにしても
ものすごく魅力を感じるから組んでるし。
そうしたら、その中で、普段はできないことを
できたりだとか、結果的にみると、自分が更に
どこかにいけるためのきっかけになってますね。 |
糸井 |
そういうのが、好きでやってるんだもん。
組むってことについて、
あれこれと言いたがる風潮ってのは、
なんなんだろうなぁ。
ぼくの組むっていうのは、
まったくの素人とだって組むし、
絶頂期のアイドルとだって、老人とだって、
めちゃくちゃに組みまくるもん。 |
沼澤 |
たぶん、そのへんを批評したがるのは、
そうでもしないと、批評家たちは、
自分が仕事しているとは思えないから、
という場合も、あるんでしょうね。
(明日に、つづきます) |