Drama

第5回 相手が本当に吸収してくれると、うれしい



ドラマーの沼澤尚さんと、darlingの対談です。
たくさんの感想メール、どうもありがとうございます。
そのうちの2通を、今から、紹介してみますね。

------------------------------------------

>タカさんの連載、どんどん
>話が深みに降りていってますね。
>どきどきしてきました。(笑)
>
>タカさんがどうしてこんなにも
>人のこころに響く音を出せるのか、
>とても知りたいのですが、
>やっぱりこれまでいろんな人と
>一緒にやってきたこと総てが
>スティックひと振りづつに滲み出ているのでしょうね。
>タカさんの音からは人生の豊かさを感じています。
>いろんな経験を糧にして、ひたすら前向きに
>心の思うまままっすぐ目標に向かうタカさんの姿勢は
>私のお手本です。
>
>タカさんのように年を重ねていけたら、と憧れます。
>この連載が終わることなく続いたらいいのになぁ。
>タカさんもかなりおしゃべり好きな方のようですから
>長い長い対談だったのではないかと
>想像しておりますが。(笑)
>
>明日も続きが楽しみです。
>
>おきょう

----------------------------------------

>私がタカさんのドラムを聞くようになったきっかけは、
>スガシカオ氏のライブに行くようになってからですが、
>それ以降ほんとにタカさんのドラムには
>躍らされっぱなし、腰砕けっぱなしです。
>
>なんていうか...柔らかいんです。
>無理強いされないんです。
>自然に体が揺れてしまうし、
>リズムはしっかり体に響いてくるのに
>音の痛みがちっともなくって、
>ほんとに気持ちいいんですよ〜。
>
>明日からの話の展開も非常に楽しみ!
>
>HINAKO

-----------------------------------------

ちゃんと受けとめてくれている人がいるんだなあ。
・・・あ、今言ったこの言葉が、ずばり、
今日の対談の話の内容になっているんでした。
人と話していて、受けとめてくれたり、
吸収したりすること、についての話だよ。

では、本文を、お楽しみくださいませ。


沼澤 音楽を職業にしているから、
確かにそれでお金をもらっているので、
生活と切り離せなくもなるんだけど、
それだけになっていくと終わるぞ、という例を、
ぼくはほんとにたくさん観てきました。
糸井 わかる。
それと、また逆に、
ボズ・スキャッグスのように
「俺は芸能だ、客を呼ぶぜ」みたいで、
「さ〜あ、金くれ!」と言って歌った人のうたが、
どんなに純粋な魂を語る人よりも
よかったりするところも、ありますもんね。
やっぱ、居て良かったなあと
思わせるものがあるといいよねえ。

なんやかやぶつぶつ言って
世の中を不自由にしている人がいなくなって、
みんなが音楽家になれば、少しは変わりますよね。
沼澤 自分のやりたいことができたら、楽しいですから。
まあ、逆に、こういう人たちがいて、
こういう違うことをしてくれているから、
ぼくがこういうことをやれてるんだなあ、
と思う時もありますけどね。
糸井 しかも、難しいのは、
若い子がとにかく
まずは何かやりたいと思ったら、
学ぶ方法としては、
しょうがない人たちからのほうが
学びやすいんですよね。
「もっと速く」「もっと正確に」
というほうが、やるだけでいいから
言葉が簡単になるんですよ。

でも、ぼくと沼澤さんが
今しゃべっていることは、
聞いていても、わからない人には
絶対にわからない話になっているわけで、
でも、わかる人には当たり前のことを話してて。
「ともかく、いま何をしたらいいんですか?
 ぼくは、どうしたらいいんですか?」
という人は、「もっと正確に!」と言われないと
困惑してしまうかもしれないじゃないですか。
沼澤 自分が他のドラマーにしていたように
誰かの目標にされることもよくわかるし、
例えば「こういうことを知りたい」と
聞かれる時もあるんだけども、その時には、
この人はほんとうにそういうことを
聞きたいのかどうかは、伝わってきますので。
糸井 うん、そうだよね。だいたい、わかるよね?
沼澤 あることがその時にその人に伝わるなあ、
っていうのが分かった時にだけは、
ほんとうに思っていることを
ぼくは話しますね。
まあ、伝わらなくても、嘘は話しませんけど、
これを言ったら、この人には
とても意味があることなんじゃないかなあ、
という時があるんですよ。
糸井 そういう質問が出た時は、沼澤さんにとって、
ラッキーとも言える機会ですよね。
他の時には、
「この人は、質問をしているふりをしているけど、
 結局は演説をしたいだけなんだな」
とわかるんですよね。
そういう時には、それ用のこたえをしますよね。
沼澤 はい、思いっきりしますね。
失礼にならないようには、しますけど。
でもたぶん、そういう人は、将来に
ぼくと会ったことさえ忘れていると思う。

・・・言うのが難しいけど、
ドラムはすごい技術職ではあるんですが、
精神的な面が、それ以上に・・・姿勢とか。
糸井 できることなら、ドラムセットを
前にしないで、ドラムのことを教えたいですよね。
沼澤 もう、全然そうですよね。

相手がほんとうにぼくのしていることを
吸収したいと思っているのがわかった時には、
ぼくはぼくの情報を、すごく言いますね。
糸井 嬉しい瞬間ですもんね〜。
沼澤 その時には、話すのが楽しいんです。
こいつは、分かってくれているんだ、じゃあ、
このレコードのここがさあ・・・わかる?って。
それは、ぼくが楽しいんです。
糸井 更に、自分の言葉で
自分が勉強になったりするからね。
沼澤 ぼくは外国で教えていましたから、
特にそうだったですね。
糸井 外国でも質問の種類は、
わかっているやつと演説との
ふたつに別れるものなんですか?
沼澤 もう、完璧にふたつに分かれますよね。
冷やかしに来ているだけというのは、
それは彼のプレイを観ればわかるんですよ、もう。
興味があると言いながらも、
彼のパフォーマンスのクラスで演奏を観てみると、
あ、別にどっちでもいいんだな、と分かる。

ぼくは音楽を英語だけで学んで、
演奏していて喋る言葉も英語だったから、
音楽のことについて英語でしゃべるのは
そのほうがやりやすいくらいなんですけど、
でも、教える時には、習ったままではなくて、
自分の解釈というものを入れて
教え直さないと全員に対する説得力が
まったくなくなりますよね。
今日説明することは、ぼくなりには
こうわかっていて、こう説明するよ、
というのを、自分なりに
すごい用意していかなければならなくて、
それがすごい勉強になりました。
糸井 アメリカで教えはじめたのは、何歳くらいから?
沼澤 23歳くらいからアメリカに行って、
24歳の時の夏期講習から教えはじめました。
糸井 すごいスピードですね。
沼澤 思えばそうかもしれないですね。
何も知らない状態で
アメリカに行ったにしては。
糸井 それは、天賦のドラムの才能があったの?
沼澤 ラッキーだったのは、
23歳という年齢で行ったことかなあと思います。
  理解力があって、行ったってこと?
沼澤 はい。
だから、そこまでして海を渡って、
自分が貯めたお金と親が援助してくれたお金を、
ムダにしてはいかんと思って。
糸井 決意が強いんだよね、年上の留学だから。


(明日につづきます。
 次回は、沼澤さんが、アメリカで
 ドラムを教えていた経験についてだよ。
 とてもおもしろいので、楽しみにしててね)


2000-12-08-FRI
BACK
戻る