沼澤 |
ぼくがアメリカに行ったのは、
ちょうどやり直しのきかない時で。
大学卒業直後にぼくは行ったんですけど、
普通はもっと早い時期か、
あとは逆にドラムをだいぶやって、
じゃあ、もうちょっと本格的にやろうとか、
そういう時期に行く場合が多いと思います。 |
糸井 |
他の人には、逃げ場があるんだね。
戻る場所があるというか・・・。 |
沼澤 |
大学を出て1年目くらいで教えだすと、
今度はぼくよりも子どものくせして
ぜんぜんドラムのうまい奴がいるんです。
その子たちとは、喋っているだけでも面白かった。
教えた経験ができると、
「次はこういうことをやるクラスを
持ちたいんだけど、どうだろう?」
「いいじゃん、それでやりなよ」
って、他の先生とは違う勝手な授業をやってた。
そうなっていくと、例えば
ジェームスブラウンを聴いてドラムを説明する時、
当然、事前に自分でも聴いてみますよね。
その時に、10年前に聴いた時と
全然違って聞こえたりするわけです。
「あれ、こういう曲だったっけ?」
と気づかされたり。 |
糸井 |
「俺はもっと薄っぺらな解釈をしてたな」
とか思う時も、あったんだ? |
沼澤 |
ものすごいありました。
自分が音楽を好きになったきっかけの
レコードについて語ろうとしたら、
技術的なことにも触れる必要があって、
じっくり聴いてみると、
うわ、実は左手をこうしてたんだ、とか・・・。
あとは実際にファンだったバンドと演奏をすると、
例えばアースウインド&ファイヤは、
自分が好きで聴いていた時にはこう思ってたけど、
実際にはこのギタリストとこう演奏することで
成立している、というようなことを、
授業で説明していました。 |
糸井 |
沼澤さん、素直だったとも言えますよね。
俺はもうできてる、とか思っている人は、
そうやって気づけないもん。 |
沼澤 |
ぼくは日本で音楽活動を
いっさいしないままアメリカに行ったし、
いま思えば、ぼくには、自分の成長を
助けてくれるような人に会えるチャンスが
とてもたくさんありました。
この人に会えたから今こうなっているんだ、
と言えるようなチャンスがいっぱいありました。 |
糸井 |
誰でもいろいろな人に会うけど、
「ためにならない」と思いこんで
人に会っていたら、絶対に、
誰に会ってもためにならないですよね。 |
沼澤 |
はい。
ぼくはとにかく、ありがたいと思ってました。
「それ教えておいくれて、
ほんとうにありがとうございます!」
みたいなことが、いま思うとたくさんあります。
ただ、教える立場になると、生徒が見えるので、
「ああ、こいつはこの先生の影響を受けてるけど、
あの先生についたほうがいいのになあ。
得意なところを伸ばせないで、惜しいなあ」
というようなことが逆に分かってきました。 |
糸井 |
沼澤さん、そうやって時々、
「引いたカメラ」で、ものを見れるのね。 |
沼澤 |
そうやって観ていると、結局は、
自分のことになってくるわけです。
生徒のことをそう観てそう思うということは、
絶対に自分にかえってきて、
「じゃあ、自分は誰にどう影響を受けているのか」
と絶対に思うので、そうすると、
自分の出会いや、やった仕事だとかが見えます。
やっぱり、ラッキーなことが多かったですよね。 |
糸井 |
沼澤さんの成長は、日本じゃなかったことが
大きかったように思います、話を聞いていると。 |
沼澤 |
それはそうですね。
ぼくが宇宙の果てのように思っていた
遠い遠いすごいドラマーでも、
おんなじレベルで話してくれるし・・・。
丁寧な言葉はあるけど敬語はないし。
だから今の仕事でも、
ぼくの仕切りでやる時には、
大前提としてそういう雰囲気です。 |
糸井 |
そのことを分かっている若い子だとか
外国人を入れていくと、
うまくできるんでしょうね。 |
沼澤 |
そうできると、年齢がまちまちのまま
めちゃめちゃ楽しくできますよね。
たぶん、キャリア的には長い人が、
そうではない人にどう接するかが問題で。 |
糸井 |
思えば、雰囲気って、
年齢的には上の人の態度によって
決まっていくわけですもんね。 |
沼澤 |
年齢やキャリアは関係ないよ、というのを、
口で言うのではなく、そういう空気を
自然に作ってくれたら、全然スタート地点が違う。
いつでもできるわけではないですけど・・・
当然、同等というだけではなくて、
遊びでやっているんじゃないよということも
ある程度ふまえるし・・・。
お客さんにしては5000円を払って来ているので、
そこは来て良かったなあというものを
絶対に出していかなければいけないと思うから。 |
糸井 |
その意味では、沼澤さんの考える
フラットなバンドとか組織とかって、
ある意味ではエリートの集まりなんですよね。
いま沼澤さんが言ったようなことを
ぜんぶ理解している人を集めるから
そういうことができるのであって、
「自由だよ」とは言っても、そう言った途端に
どこかに行っちゃうような人がいたら
沼澤さんのやることは成り立たなくなりますよね。
仮に、だめなレベルのものでも
「これでいいよ、俺はこれで楽しいもん」
って言ったら、チーム全体が乗る船が、
そいつの態度によって沈められちゃうし・・・。
そこの問題は、もう既に、最初に、
ことをはじめる前のキャスティングで
もう決まってたりすると思います。 |
沼澤 |
人選で、99%の仕事が終わっていますから。 |
糸井 |
最近、どこの世界でも、
ぼくがいいなあと思う人は、
そんなようなことを言っているよな〜っ! |
沼澤 |
ぼくも、ほんとにそう思いますね。
(ちょっと、核心っぽくなってきた。
このままの流れで、明日につづきます) |