Drama

第6回 沼澤さん、素直だったんでしょうね。



沼澤尚さんとdarlingの対談をお届けしています。

アメリカにドラムを勉強しにいったのが、
沼澤さん23歳の頃。大学を卒業してすぐ、だった。
もともと日本でバンドを組んでいたわけでもなくて、
ほんとに1からのスタートだったようなんですよ。

沼澤さんの話を聞いていると、
23歳という、遅いとさえ言える時期に、
突然アメリカに行くという特殊なことが、
別に「ヘン」には思えないのが、不思議でした。

前回のひきつづきで、その頃の話から、
今日の対談は、はじまります。

あ。本文に入る、その前に・・・。
メールがたくさん届いていますので、
そのうちの1通を、ここでご紹介します。

>沼澤さんの連載が始まっているではありませんか!!
>雑誌「プレイヤー」誌上での
>沼澤さんのドラムセミナーを毎号
>楽しみに読ませていただいております。
>私は趣味でベースギターをやっておりますが、
>沼澤さんのセミナーは楽器のパートを超えた
>音楽に対する姿勢、愛情、感謝が
>ビシビシ伝わってきて読んだあとに
>とても幸せな気持ちになり「俺も頑張ろう」と
>勝手に思わせてくれます。
>今日から欠かさず読ませていただきます!!
>
>doi

そういうふうに、
分野が違っても参考になるという雰囲気で
この対談を読んでもらえると、うれしいです。

今日の後半には、誰とどう仕事をするのかの
キャスティングに関する本気の話に移りますよ。
では、今日の本文を、お楽しみください。


沼澤 ぼくがアメリカに行ったのは、
ちょうどやり直しのきかない時で。
大学卒業直後にぼくは行ったんですけど、
普通はもっと早い時期か、
あとは逆にドラムをだいぶやって、
じゃあ、もうちょっと本格的にやろうとか、
そういう時期に行く場合が多いと思います。
糸井 他の人には、逃げ場があるんだね。
戻る場所があるというか・・・。
沼澤 大学を出て1年目くらいで教えだすと、
今度はぼくよりも子どものくせして
ぜんぜんドラムのうまい奴がいるんです。
その子たちとは、喋っているだけでも面白かった。
教えた経験ができると、
「次はこういうことをやるクラスを
 持ちたいんだけど、どうだろう?」
「いいじゃん、それでやりなよ」
って、他の先生とは違う勝手な授業をやってた。

そうなっていくと、例えば
ジェームスブラウンを聴いてドラムを説明する時、
当然、事前に自分でも聴いてみますよね。
その時に、10年前に聴いた時と
全然違って聞こえたりするわけです。
「あれ、こういう曲だったっけ?」
と気づかされたり。
糸井 「俺はもっと薄っぺらな解釈をしてたな」
とか思う時も、あったんだ?
沼澤 ものすごいありました。
自分が音楽を好きになったきっかけの
レコードについて語ろうとしたら、
技術的なことにも触れる必要があって、
じっくり聴いてみると、
うわ、実は左手をこうしてたんだ、とか・・・。

あとは実際にファンだったバンドと演奏をすると、
例えばアースウインド&ファイヤは、
自分が好きで聴いていた時にはこう思ってたけど、
実際にはこのギタリストとこう演奏することで
成立している、というようなことを、
授業で説明していました。
糸井 沼澤さん、素直だったとも言えますよね。
俺はもうできてる、とか思っている人は、
そうやって気づけないもん。
沼澤 ぼくは日本で音楽活動を
いっさいしないままアメリカに行ったし、
いま思えば、ぼくには、自分の成長を
助けてくれるような人に会えるチャンスが
とてもたくさんありました。
この人に会えたから今こうなっているんだ、
と言えるようなチャンスがいっぱいありました。
糸井 誰でもいろいろな人に会うけど、
「ためにならない」と思いこんで
人に会っていたら、絶対に、
誰に会ってもためにならないですよね。
沼澤 はい。
ぼくはとにかく、ありがたいと思ってました。
「それ教えておいくれて、
 ほんとうにありがとうございます!」
みたいなことが、いま思うとたくさんあります。
ただ、教える立場になると、生徒が見えるので、
「ああ、こいつはこの先生の影響を受けてるけど、
 あの先生についたほうがいいのになあ。
 得意なところを伸ばせないで、惜しいなあ」
というようなことが逆に分かってきました。
糸井 沼澤さん、そうやって時々、
「引いたカメラ」で、ものを見れるのね。
沼澤 そうやって観ていると、結局は、
自分のことになってくるわけです。
生徒のことをそう観てそう思うということは、
絶対に自分にかえってきて、
「じゃあ、自分は誰にどう影響を受けているのか」
と絶対に思うので、そうすると、
自分の出会いや、やった仕事だとかが見えます。
やっぱり、ラッキーなことが多かったですよね。
糸井 沼澤さんの成長は、日本じゃなかったことが
大きかったように思います、話を聞いていると。
沼澤 それはそうですね。
ぼくが宇宙の果てのように思っていた
遠い遠いすごいドラマーでも、
おんなじレベルで話してくれるし・・・。
丁寧な言葉はあるけど敬語はないし。

だから今の仕事でも、
ぼくの仕切りでやる時には、
大前提としてそういう雰囲気です。
糸井 そのことを分かっている若い子だとか
外国人を入れていくと、
うまくできるんでしょうね。
沼澤 そうできると、年齢がまちまちのまま
めちゃめちゃ楽しくできますよね。
たぶん、キャリア的には長い人が、
そうではない人にどう接するかが問題で。
糸井 思えば、雰囲気って、
年齢的には上の人の態度によって
決まっていくわけですもんね。
沼澤 年齢やキャリアは関係ないよ、というのを、
口で言うのではなく、そういう空気を
自然に作ってくれたら、全然スタート地点が違う。
いつでもできるわけではないですけど・・・
当然、同等というだけではなくて、
遊びでやっているんじゃないよということも
ある程度ふまえるし・・・。
お客さんにしては5000円を払って来ているので、
そこは来て良かったなあというものを
絶対に出していかなければいけないと思うから。
糸井 その意味では、沼澤さんの考える
フラットなバンドとか組織とかって、
ある意味ではエリートの集まりなんですよね。

いま沼澤さんが言ったようなことを
ぜんぶ理解している人を集めるから
そういうことができるのであって、
「自由だよ」とは言っても、そう言った途端に
どこかに行っちゃうような人がいたら
沼澤さんのやることは成り立たなくなりますよね。

仮に、だめなレベルのものでも
「これでいいよ、俺はこれで楽しいもん」
って言ったら、チーム全体が乗る船が、
そいつの態度によって沈められちゃうし・・・。
そこの問題は、もう既に、最初に、
ことをはじめる前のキャスティングで
もう決まってたりすると思います。
沼澤 人選で、99%の仕事が終わっていますから。
糸井 最近、どこの世界でも、
ぼくがいいなあと思う人は、
そんなようなことを言っているよな〜っ!
沼澤 ぼくも、ほんとにそう思いますね。


(ちょっと、核心っぽくなってきた。
 このままの流れで、明日につづきます)

2000-12-09-SAT
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