「ほぼ日の健康手帳」が ニンテンドーDSi用のソフトになりました。  自分の健康について 考える道具。 岩田聡(任天堂社長)×本田美和子(医師)×糸井重里

糸井 DSiウェア『ほぼ日の健康手帳』の
話もしておきましょう。
岩田さん、結果的に、
けっこうな時間をかけましたね。
岩田 はい。
糸井 いったん形になったものを、
もう一度最初から作りなおしたり。
あのあたりのことをちょっと聞いてみたいと
思っていたんですよ。
本田 ええ、ぜひ。
岩田 そうですね。
まず、ソフトをつくる人は技術者で、
技術者っていうのは、基本的に
ある素材をできるだけ再現性高く移植したうえで
プラスアルファを加えたがるんですね。
具体的にいうと、
紙の冊子である「ほぼ日の健康手帳」を
できるだけ高いクオリティで
DSiウェアとして再現したうえで、
せっかくDSiはコンピュータなんだから、
コンピュータの取り柄を使って
いろんなことができるようにしよう、
という考えかたをしたがるわけです。
ひとことで言うと、欲張るんですね。
本田 あぁ、はい。
糸井 (笑)
岩田 その、欲張った状態から、
これを本当に触ってほしい人たちに
理解してもらえるものにするには、
どうしたらいいか。
その部分のすり合わせに
時間が必要だったんだと思います。
糸井 つまり、ただ載せるだけでもなく、
「全部載せ」にするのとも違うわけですね。
岩田 ええ。
糸井 本田さんも、途中の状態を知ってますよね。
本田 はい、見せていただきました。
糸井 何度も何度も新しいバージョンが
あがってきたのを覚えてらっしゃると思うんですが、
岩田さんはずーっと「まだですね」って、
言ってたんですよ。
本田 うかがってました(笑)。
糸井 そこは厳しかったけど、頼もしかったですねぇ。
岩田 やはり、どれだけ便利な機能がついても
ふだんコンピュータに慣れてない人に
理解できなかったら意味がないので、
そこに苦労しましたね。
だいたいゲームソフトをつくっている技術者は、
全員パソコンを使いこなすタイプの人たちですからね。
コンピュータの階層的なもののお作法だとか
こういうことが便利だということを
使う人もよく知ってることを前提にしてるんだけど、
それだと、ちがいのわかる人たちのための
狭いものになってしまう。
でも、この「健康手帳」はそうじゃなくて、
できることならパソコンなんかに触りたくない
っていう人にも使ってほしいものですからね。
本田 ええ、ええ。そうですね。
糸井 その意味では、『脳トレ』なんかに近い。
岩田 そうですね。
本田 あの、わたし、失礼ですけれど、
今回、ソフトのチェックをするとき、
はじめてDSiに触ったんですね。
DSiだけじゃなくて、
DSそのものに触ったことがなかったんです。
岩田 ええ、はい。
本田 スイッチの入れかたも知らなくて、
教えていただきながらだったんですが、
初期のバージョンを見せていただいたときは、
「ああ、こういうものかな」と思って、
いろいろお話をうかがって、終わったんです。
そのすぐあとで、
もう一度はじめからやり直すことになったと、
岩田さんがそういうご判断をされたとお聞きして。
岩田 はい。
本田 それから何カ月か経って、
次に見せていただいたときに、
わたし、驚愕したんです。
もう、ぜんぜん最初のとちがってました。
岩田 (笑)
本田 使いやすいというかなんというか、
こうやって使っていただきたいなと
思っている気持ちが
そのまま形になっているようで、
とてもうれしかったです。
岩田 二度目にご覧になったものは、
いまの最終形に近いものですね。
最初にご覧になったものと二度目では、
やっぱり、これを触ってくれる人に
求めるハードルの置きかたが、
ぜんぜんちがっているんです。
糸井 最初のは、言ってみれば、
本田さんが最初に持っていらした
分厚いバインダーのように
つくっちゃったんですよね。
岩田 ええ、お恥ずかしいですけど
そういうことですね(笑)。
本田 (笑)
糸井 つまり、わかる人には、
「ここまでやりました」って
わかるものなんだけど、
使う人に求めるもののハードルが高すぎたんです。
本田 あぁ、なるほど。
いろいろな改良をされたんだと思いますけど、
たとえば「リス先生※」が、
書き込むページの途中途中で、
「あとちょっとですから、がんばりましょうね」
なんて応援してくれたり。
(※イラストレーターの江田ななえさんによる
「ほぼ日の健康手帳」のキャラクター)

ああいうのが、すごくうれしいんですよね。
岩田 ああいう応援のメッセージは、
大多数の方がそろそろしんどくなるだろうなぁという
平均的な量なり時間なりがあるので、
そのタイミングで入れるようにしているんです。
糸井 そう、そういうのが大事なんですよね。
『Wii Fit』なんかも、
それがすごくうまく調整されている。
たとえば「この場で10分、足踏みしろ」
なんて言われてもふつうはできないというか
やる気にならないんですけど、
『Wii Fit』でなら、できるんですから。
どういうことなんだろうなぁー、って
自分でも不思議なくらい。
本田 へぇえ。
岩田 少し専門的なことをお話しすると、
人間って、自分がしたことに対して
フィードバックがあると、
それによって次の動機がうまれるんですね。
本田 ええ、なるほど。
岩田 逆にいうと、フィードバックのないことって
つづけられないわけです。
こうやって話をすることなんかでも、
目の前に聞いている人がいて、
うんうん、ってうなずいてくれるから
話しつづけることができるわけで、
これとおなじ長さの話を、壁に向かって
ひとりで話しつづけるのは無理ですよね。
本田 そうですね。
糸井 うまいこと言うなぁ(笑)。
岩田 人は、フィードバックという
ご褒美を得て動いているんです。
ビデオゲームの世界は、それを逆に利用して、
人間が何かするとフィードバックを返す、
ということを基本にしている。
そのときのフィードバックにも、
快適なフィードバックと、
快適じゃないフィードバックがあって
それをどう混ぜると
人はそれを続けて、おもしろがったり、
驚いたりしてくれるんだろう、と。
そういうことを常に考えながら
つくっているんです。
本田 はーーー、なるほど。
岩田 今回の「健康手帳」は、
いわゆるゲームソフトとはちょっとちがいますけど、
ビデオゲームの基本的なノウハウを活かして、
どうフィードバックを返せば
退屈せずに触ってもらえるものになるか、
ということをいろいろと考えてあるんです。
いってみれば、「退屈じゃないこと」を
なんとなくやっていたら、
そのうちじわじわと
自分のことを考えるようになっていて、
あるとき、お医者さんに
かからなきゃいけなくなったときには、
そこでのコミュニケーションに
役に立つこともある、
そういうものにできてるかなと思います。
(つづきます)

2010-04-23-FRI