「ほぼ日の健康手帳」が ニンテンドーDSi用のソフトになりました。  自分の健康について 考える道具。 岩田聡(任天堂社長)×本田美和子(医師)×糸井重里

糸井 岩田さんとぼくの話をしてきましたけど、
本田さんご自身のことについては
さかのぼってみると、どうですか?
本田 えっ、わたしですか?
糸井 ええ、アメリカにいて、
毎日忙しくしていた
時代を考えると。
本田 ああ、あのころ。
糸井 当時、本田さんから届く原稿を読んでいると
えらいことになっているというか、
お医者さんなのに、自分が倒れそうなほど
忙しそうな生活をしてるじゃないか、と。
本田 あ、そんな感じでした?
糸井 うん(笑)。
本田 はぁー、そうなのかな。
それはあまり考えたことがなかったです(苦笑)。
糸井 自分のことは、気づかない(笑)。
本田 病院でレジデントとして働いてるときは、
決められたスケジュールに沿って
働くしかないので。
周りもみんなそうですし、
とくに疑問にも思わずに。
なんというか、いま考えると‥‥
これ、ふさわしい表現では
ないかもしれませんけど、
戦場に行ってるみたいな。
糸井 はい。
本田 友だちはみな、おなじようにしてる戦友みたいなもので、
「お互いにたいへんだよね」と言いながら、
うちに帰ったら、もう、寝るだけみたいな日々で。
疲れて帰ってテレビをつけると、
『ER』(病院を舞台にした人気海外ドラマ)
とかやってて、
「絶対見ない!」ってテレビ消して(笑)。
一同 (笑)
本田 「ほぼ日」に出合って、思いがけなく、
コラムを書かせていただくことになってからは、
なんて幸せなことを
わたしはやってるんだろうと思いながら、
読んだり書かせていただいたりして。
アメリカでの生活のなかでは、
それが至福のときでした。
糸井 (笑)
本田 いま考えるとおかしいですね。
糸井 うん、いや、なんていうんでしょう、
必死に誰かを助けている自分が
「あなた大丈夫?」って言われてるわけですよね。
思うに、そこって、ちょっと、
美意識に触れるんじゃないかと思うんですよ。
他者のためにとか、自分の属してる集団のために、
我が身を捨てて、ある種、
自己犠牲的に働くみたいなこと。
本田 いえいえ、自己犠牲なんて、
そういう意識はまったく‥‥。
糸井 うん。本人としては、そうなんでしょうけど。
岩田 あの、倒れたときのわたしも、外からは
そういうふうに見えたかもしれないんですね。
糸井 そうそう、そういうことですよね。
岩田 どうして本人にだけ
それがわからないかというと、
じつはそういうときって、
本人はそれなりに
たのしかったりするんですよ。
糸井 はぁーーー。
岩田 だって、休みはないかもしれないけど、
自分がやることで、明らかに
物事が前進するのがわかるわけですから。
糸井 なるほどなぁ。
岩田 そういう状態のときって、
なにか、きっかけがないとやめられないんです。
本田 そうですねぇ。
糸井 そうかぁ、たのしさがあるのか。
いや、でも、わかるわ、それは。
岩田 それはそれで、たのしいんですよ。
というか、たのしいから
そんなムチャな状態が続くんです。
本田 ええ。
岩田 だけど、やっぱり、
一歩引いて見るということが、
できてないですよね。
どう考えてもよろしくない‥‥
ってことが、まったく見えてない。
糸井 と、岩田さんは言ってますが、
本田さんは振り返ってみて、どうですか。
本田 どうだったんでしょうね(笑)。
気がついてないだけなのかも
しれないですけど‥‥。
糸井 ぼくも、「ほぼ日」を始めた当初っていうのは、
やっぱりちょっと、目を三角にしないと
やっていけなかった時期があるんです。
なんたってその当時、前田日明さんが、
「糸井さんは最近怖い」って言ったんですから。
本田 それは、すごい(笑)。
糸井 周囲では「人が変わった」って、
言われていたらしいです。
本田 ほんとに?
糸井 ええ。だけど、わかんないんですよ。
それは自分には。
本田 そうか、そうですよね。
糸井 そんなになりながら、ぼくはその時期に、
「休みのクリエイティブ」ということを、
ものすごく書いてるんです。
岩田 目を三角にしながら、
「休みのクリエイティブ」
についての原稿を(笑)。
糸井 何度も書いてるんです。
つまり、あたまではわかってるわけです。
でも、ぜんぜんできてない。
岩田 はぁー。
糸井 つまり、口ではそう言いながら
きちんと向き合ってなかったんですよ。
ほんとうに「休みのクリエイティブ」が
なかったんです。
さっき岩田さんが言った、
「他の方法が思いつかなかった」っていうのも、
ノークリエイティブだ、ってことですよね。
岩田 その通りですね。
糸井 いまは、もっとはっきりと
言えるようになってるんですよ。
消費とか、休みとか、そこに
クリエイティブとコストをかけるということを、
ちゃんとやっておかないと、
必ず後からツケが回ってくるぞ、って。
本田 なるほど。
糸井 それをずーっと考えて言ってきたわりには、
ノーアイディアだったんですよ、ぼくも。
で、やっと去年、ダイエットをきっかけに
「虫歯ゼロの会社」という
ゲームをつくったんですから。
ダイエットだって、そうですよ。
たのしいゲームとしてでないと続かないから、
原稿に書いたりグラフをつけたりしてるんです。
岩田 そういうクリエイティブ。
糸井 ええ。
本田 ああ、なるほどー。
糸井 おどかしながらやるんじゃなくて、
ゲームの基本ともいえるアメとムチ、
ご褒美と緊張感みたいなことを
うまく利用しながらね。
これを取り戻したら、
みんなのためになるぞ、っていう。
「健康手帳」のこともそうなんです。
そういう思いが、ぼくの中にはあります。

(つづきます)

2010-04-22-THU