世界の時刻やタイムゾーンを表示できる
アースボールの新コンテンツ「世界時計」。
もうお試しいただけましたか?
こんどは「時間」がテーマということで、
明石市立天文科学館の館長・井上毅さんに、
時間のこと、時差のこと、そして明石のこと、
全部まとめてうかがってきました。
なぜ世界の基準が「グリニッジ」なのか?
なぜ明石が「時のまち」になったのか?
地球をめぐる壮大な時間についてのお話です。
全5回、どうぞおたのしみください!
- ——
- 日本人は時間に正確なイメージがありますが、
きっと昔は違いましたよね。
- 井上
- 江戸末期に日本を訪れた外国人の日記には、
「日本人は時間を守らない」
と書かれていたりしますからね。
- ——
- いまみたいな時間感覚は、
どうやって身につけてきたんでしょうか。
- 井上
- 1872年に西洋の暦と時刻制度が導入されて、
まちの中に「時計」が置かれるようになりました。
そこで初めて「1時間」という単位を、
人々が意識するようになっていきました。
それと同じ時期に、
鉄道では「分」という単位が使われています。
標準時が導入されたことで、
鉄道の時刻表もより正確になり、
一般の人々の中にもすこしずつ
「分」という単位が入っていったんです。
- ——
- 時計の歴史を語るうえで、
やっぱり鉄道の影響は大きかったんですね。
- 井上
- ただし、「秒」というものに関しては、
この頃はまだ身近に感じることのない単位で、
理論上の存在みたいなものでした。
日本人が「秒」を意識するようになったのは、
1920年に「時の記念日」というのが
制定されてからだと思います。
- ——
- 「時の記念日」?
- 井上
- 6月10日なんですけど、
西暦671年の6月10日に天智天皇が
「漏刻(ろうこく)」という水時計を使って、
日本ではじめて時を知らせたと
「日本書紀」に書いてあることに由来します。
ちなみに、この天文科学館が開館したのも、
1960年の6月10日なんです。
- ——
- 明石の人にとっても大事な日ですね。
- 井上
- 1920年に「時の記念日」が制定されるのに先立ち、
同じ年に「時(とき)展覧会」というのが開催されました。
東京の御茶ノ水に
「湯島聖堂」というのがありますよね。
昔、あそこに「教育博物館」というのがあったんです。
今の上野の国立科学博物館の前身の博物館です。
その館長だった棚橋源太郎という人が、
時間をテーマにした「時展覧会」を企画したんです。
そのときの「時展覧会」では、
東京天文台の資料や、
昔の暦のような珍しいものを展示したり、
女性が一生でお化粧に使う時間を計って、
それを図にして見せたり、
時をテーマにしたさまざまな展示をしました。
そうしたらそれが大人気になって、
2ヵ月間で20万人以上が来場したそうです。
- ——
- 20万人! すごい人気ですね。
- 井上
- それで、これだけ成功したんだから、
もっと多くの人に時間の大切さを
知ってもらおうということになって、
天智天皇が時を知らせたという
6月10日を「時の記念日」に制定したんです。
その最初の「時の記念日」では、
「時間を大切にしよう」という内容のビラを撒いたり、
東京中で正午になった瞬間に、
一斉に時報を鳴らすということもしたそうです。
正午に大砲のドーンという音を聞いたら、
鐘を叩こう、汽笛を鳴らそう、
ということを東京中でやって、
正午の瞬間に東京が「響きの都」になったという
記録が残っていたりします。
- ——
- おぉ、一大イベントだったわけですね。
- 井上
- 棚橋源太郎は正午になるタイミングで、
博物館の前に集めた子どもたちに
「時間を守ろう」と書いた風船を持たせて、
時報が鳴るのにあわせて、
みんなでいっせいに空へあげる
ということもしています。
おそらくこれが日本で初めての
カウントダウンイベントだったと思います。
- ——
- あー、なるほど。
そこで初めて日本人が「秒」を意識したと。
- 井上
- そのあと1925年にラジオ放送が始まり、
急速に一般の人にも「秒」というものが
浸透していくんですけどね。
2020年は「時の記念日」が制定されてから、
ちょうど100周年ということで、
上野の国立科学博物館とこの明石天文科学館で
「時展覧会 2020」が開催されました。
できれば100年後の2120年にも、
「時展覧会」をやってもらいたいですよね。
- ——
- そう考えると、
日本人が「秒」を意識しはじめてから、
まだ100年ほどしか経ってないんですね。
- 井上
- この100年間、秒を意識することが、
人間の能力を花開かさせてきたとも言えます。
100年前はストップウォッチで
計れるのは0.2秒までだったんですが、
いまは1000分の1秒まで計れます。
- ——
- スポーツの世界にとっても大きな進化ですよね。
- 井上
- 目盛りが細かくなればなるだけ、
その短い時間の価値が上がりますからね。
0.2秒刻みと0.001秒刻みでは、
レース競技では劇的な違いがあります。
- ——
- 今後、時間の単位は、
さらに細かくなっていくんでしょうか。
- 井上
- すでにかなり細かくなってますよね。
例えばカーナビやスマホの位置を測る
GPS衛星というのは、
原子時計というのを積んでいて、
1億分の1秒というレベルで、
正確な時刻を計ることができます。
- ——
- GPSと時間が、
あんまり結びつかないのですが‥‥。
- 井上
- GPSの仕組みというのは、
原子時計を使って時刻の差を計ることで、
位置の測定を行っているんです。
スマホの時計は正確なのも、
GPSを利用しているからです。
将来実現しそうな車の自動運転というのも、
こういう時間のコントロールそのものなので、
時の精度が上がるというのは、
まだまだすごい可能性を秘めていると思います。
- ——
- まだまだお話をうかがいたいのですが、
そろそろ時間がなくなってきてしまいました。
時間の話をうかがっていると、
まさに時が経つのを忘れてしまいます(笑)。
- 井上
- 雑談のようになってしまいましたが、
こんな感じで大丈夫だったでしょうか。
- ——
- ものすごくおもしろかったです。
知らないことだらけで、すごく勉強になりました。
きょうは本当にありがとうございました。
- 井上
- ありがとうございました。
時間のおもしろさを
実感(ジッカン)していただけたならなによりです。
- ——
- 時間だけに(笑)。
(おわります)
2022-10-09-SUN
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