- ──
- ECフィルムって、そもそもは
研究や教育的な目的で使用されていたと
いうことなのですが‥‥。
- 川瀬
- ええ。
- ──
- ここにお集まりのみなさんの雰囲気って、
ちょっと、違いますよね。
冒頭でも言いましたが、
貴重な映像をおもしろがってるというか、
もっと言うと
みんなで「ツッコミ」入れてるというか。
- 下中
- そうかもしれません(笑)。
- ──
- そのようすが、すごく、おもしろそうです。
- 下中
- ECフィルム自体は、
すごくアカデミックなものなんですけどね。
- ──
- それを、みんなでワイワイ言いながら見て、
わかんないからこそ、
いろいろ想像しながら楽しんでらっしゃる。
- 川瀬
- 科学の枠組にこだわらない、
むしろ科学の文脈からズラしてしまうのが、
大きな魅力だと感じます。
- 下中
- そうですね。
- 川瀬
- 下中さんたちがつくっている
ECのサイトには、このように書かれてます。
「上映会は、ECフィルムを
今に生きる私たちの目線で読み直して、
虫干しして、
多彩な分野の人々との対話を通して、
新しい息吹を吹き込む試みである。
これらの映像の中に、
未来に必要な宝物が見つかるかもしれない」
- ──
- 上映会には、毎回、
いろんなゲストを呼んでらっしゃいますね。
- 丹羽
- はい、第一回の「屠畜」を上映したときは
北出新司さんという
大阪の精肉屋さんに来ていただいて‥‥。
- ──
- あ、少し前のドキュメンタリー映画の、
『ある精肉店のはなし』の?
- 丹羽
- そうです。当時、制作中だった
『ある精肉店のはなし』のラッシュフィルムも
同時上映しつつ、
ノルウェーのサーミ人の
トナカイの解体のEC映像を見ながら
日本での屠畜方法との違いなどを
北出さんに、語っていただいたんです。
持ってきてくださった
お仕事道具の使い方とかも交えながら、
お肉屋さん目線の、
めちゃくちゃマニアックな話が聞けて。
- ──
- それは、おもしろそう‥‥。
- 丹羽
- ドイツ語の解説がついている映像も
多いのですが、
もう「見たらわかる」ので、
上映会によっては
翻訳しなくてもいいか、となったり。
- 下中
- そうそう(笑)。
- 丹羽
- ちなみに、フィルムの解説には
歴史など学術論文的なことが含まれていて、
本当に理解するためは
本来は翻訳が必要なんですけれども、
専門家に見てもらえれば、
言葉がわからなくても、
あるていど理解できたりするんです。
- 佐藤
- あと、予想だにしなかったものに、
ふいに出くわすことも、大きな魅力ですね。
今の時代、調べたいことがあったら
パソコンで検索すれば事足りますけれど、
ECが映し出す
「得体のしれないもの」との出会いって、
すごくドキドキするので。
- ──
- 検索では出会えない映像ですよね。
- 下中
- ECを見ていると、現代の映像の
「わかりやすさ」の「うそくささ」が
逆に、浮き彫りになってきます。
- 佐藤
- 解説的ですね、おしなべて、現代の映像は。
- 下中
- 早送りしちゃうような工程も、
ECでは、端折らず、すべて撮ってますし。
- ──
- もうこの場面わかった、くらいな?(笑)
- 丹羽
- 私は第11回の「子ども」をテーマとした
上映会のときに
「これは修行だ‥‥」と思いました。
- 下中
- ははは(笑)。
- 丹羽
- ひたすら世界各地の子どものようすを撮影した
動物行動学的な映像で、
ゲストも会場も「シーン‥‥」としちゃって、
「これ、どうなるんだろう、
いつ終わるんだろう‥‥修行だ!」(笑)。
- 下中
- あまりに淡々としてたんだよね、映像が。
- 丹羽
- でも、子どもたちが
ぼーっとしているところが映し出されたとき、
ゲストの保育園の園長先生が
「私たち大人って、
いつも
何かやらなきゃいけないと思ってますよね」
とおっしゃったんです。
- ──
- ええ。
- 丹羽
- それ、まさに今の私たちじゃないかと(笑)。
- ──
- なるほど(笑)。
それに「映像には何かが起こるべきだ」って、
思いすぎているかもしれないですね。
現実の場面では、
何にも起きないことがほとんどにも関わらず。
- 佐藤
- ECについて、僕が興味深いなあと思うのは
異なる分野の専門家同士が
同じ映像を見て話ができることです。
子どもの映像の回は
保育園の園長先生の齋藤紘良さんが
「これって異年齢保育ですよね」
などと教育的観点からお話される一方、
もうひとりのゲスト、
映像人類学者の分藤大翼さんは
ECの撮影法についてお話されていて‥‥。
- ──
- ええ。
- 佐藤
- でも、最終的には、それぞれの視点から、
大人の背中を見ながら
子どもが育っていくことの重要性、
みたいなところへ話が収斂していって、
とても刺激的でした。
- 下中
- そういう場面に立ち会っちゃうと、
やめられないなぁって、思います。
- 佐藤
- 会場には、
保育士さんと映像が好きな方々と
両方いらして、
たがいに会話していたのも印象的でした。
放っておいたら、
ひとつの場所で語り合うことなんかも、
なさそうな集団同士なので。
- ──
- 映像を見ながら
「ああじゃないか、こうじゃないか」って、
お客さん同士がしゃべり出すのも、
おもしろい雰囲気ですよね。
ふつうの映画館の場合は、
むしろ「おしゃべり禁止」なわけですし。
- 下中
- 実際にフィールドワークに行くと、
解説も早送りも何もない
淡々とした現実の中から、
何かを発見していくわけですよね。
見方によって
いかようにでも深く読み解ける。
何だか、それに近い。
- ──
- なるほど。
- 下中
- だから、私たちは、こういう見方を
「映像のフィールドワーク」と呼んでます。
- ──
- 何か、目の前で起きているできごとについて
みんなでワイワイ話すのって、
野球観戦しているみたいだなあと思いました。
- 下中
- あ、そう。そんな感じします。
- ──
- 川瀬さんは、どんな映像が好みですか?
- 川瀬
- 僕が好きなのは、アフリカの音楽映像。
- 下中
- あ、王女さまの映像、見たことあります?
ただ朗々と歌っている‥‥これこれ。
(と、映像を再生する)
- 川瀬
- うわ、え、すごい。これは、はじめて見る。
なんだ、アフリカンアメリカンのブルース?
黒人霊歌のようなフィーリングを
ビンビン感じる‥‥。
これはカッコいい!
ブルージでファンキーだ。すごい!
- ──
- 王女さま、なんですか。この方?
- 下中
- そうみたい。
- 川瀬
- いや、よくブルースって
「アフリカとつながっている」って
簡単に言われるけど、
一部の研究をのぞいて、じつはなかなか、
そのつながりが実証されていないんです。
でも、この映像を見ると、
音階や歌いかた、フィーリングなんかも、
ブルースにすごく近いし、
とても強い関連性を感じます。
- ──
- そうなんですか。
- 川瀬
- いやあ‥‥これは、カッコいいわ‥‥。
ああっ、いまのところギターソロ入れたい!
- ──
- 先生、そんなに興奮されて‥‥(笑)。
- 川瀬
- 明らかに、
ブルースのペンタトニック・スケールです。
- 下中
- じゃあ、こんど、
映像とセッションしてみてくださいよ。
- 川瀬
- できます、それはもう簡単にできます。
これくらいの音の揺れ幅なら。
ウーン‥‥これは、じつにヤバいな。
僕のなかのブルース魂が
いま、はげしく揺さぶられています。
Oh Yeah, I smell the blues, man!
- ──
- 英語‥‥(笑)。
これまで理路整然としていた川瀬先生を
こんなにも豹変させるとは。
- 下中
- んんっ? あれ‥‥あの子は‥‥なんだ?
ああー、終わっちゃった。
- ──
- 今みたいに、見終わってなお、
疑問が残るところも、おかしいです(笑)。
- 下中
- そう、映像が途中で
バツッと終わっちゃうことも、あるんです。
「え、で、今の何なの?」みたいな
解けない謎が残るのも、おもしろいですね。
- ──
- 話が膨らむのも、
そういう「謎」なところなんでしょうね。
- 丹羽
- 今、話してて思い出したのですが、
私、自分にまったく知識のないジャンルの
ECを見ることになったとき、
「あ、あの人と見たい!」
というイメージがふくらむことがあって。
- ──
- なるほど、
「あの人なら、こんなことを言いそう!」
みたいな。
- 下中
- 誰と観るかというのも、
ECの楽しみ方のひとつだと思います。
- ──
- でも‥‥今のような盛り上がりは、
ドイツの人たちは、
まったく想定していなかったでしょうね。
- 下中
- うん、してないと思う(笑)。
- 丹羽
- 映像には制作に関わった研究者による
ドイツ語の論文がついていて、
必要に応じて訳したりもするのですが、
訳してしまったら、
読めてしまったら、
その文脈でしか見られなくなる、
ということもあります。
- ──
- だからこそ、解釈や
楽しみかたの可能性が、豊かなんですね。
「正確にはわからない」ことによって。
- 下中
- でも、それこそが現実だとも、思います。
現実って、本当は、もっと豊かですよね。
誰かが編集や解釈したものじゃない、
「生のままの現実」というのは、いつも。
<つづきます>
2016-11-01-TUE