── |
もともと大きな盛り場だった場所に、
吉原というものがやってきて、
さらに人々が集まるようになるわけですね。 |
沓沢 |
1657年に明暦の大火という
大火事がありまして、
その後、吉原遊郭は浅草田圃に移されて、
移転後の吉原は「新吉原」と呼ばれました。
当時の江戸区域でいえば、
浅草ってけっこうはずれの場所なんですよ。 |
── |
そうだったんですか。 |
沓沢 |
ほんとに隅田川の端っこですから。
それはやっぱり、なんといいますか、
江戸の中心にそういう場所があってはならない、
という上の考えがあったのだと思います。 |
── |
なるほどお。
‥‥あの、無学で恐縮なのですが、
前の吉原はどこにあったんでしょう? |
沓沢 |
日本橋の葺屋町、現在の人形町ですね。 |
── |
それは、浅草にくらべれば、もう‥‥。 |
沓沢 |
江戸のど真ん中です。
こちら、ご覧ください。
▲新改 吉原細見花車 館蔵
※各画像は、クリックすると大きくなります。 |
── |
これが、新吉原ですか。 |
沓沢 |
1716年のもので、当時のガイドブックですね。 |
── |
ガイドブック! |
沓沢 |
お店の名前から、遊女の名前まで。 |
── |
こんなにびっしり‥‥。 |
沓沢 |
やっぱり、ちゃんと紋の入ってるところは
大きなお店なんですね。
この地図、上に入り口のようなものが
ありますでしょ? |
── |
はい、すこし飛び出た部分が。 |
沓沢 |
ここが「大門(おおもん)」といって、
新吉原の唯一の出入り口なんです。
葛飾北斎もここの様子を描いています。
▲新板浮絵新吉原大門口之図 葛飾北斎/画 館蔵
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── |
へえ〜、そうだったんですかあ。
みなさん、江戸のあちこちから、
吉原までは、交通手段は何を‥‥? |
沓沢 |
ですから、それはもちろん。 |
── |
‥‥あ、ああ! 舟。 |
沓沢 |
はい。 |
── |
そうか、舟で行ってたんですね、吉原へは。 |
沓沢 |
もちろん陸の道もあるのですが、
舟で行くのが「粋」だったようです。
遠くから舟でくる人もいれば、
深川あたりまで歩いてから舟という人も。
いずれにしても隅田川からお堀に入って、
この大門にやってくる。 |
── |
いやあ、その舟の上では、
たのしかったんでしょうねえ。 |
沓沢 |
まあ、そうでしょうね(笑)。
これは、大きな絵なんですけど、
妓楼(ぎろう)の様子が描かれたものです。
あ、妓楼というのは遊女を置いて
遊ばせる店のことです。
▲青楼二階之図 歌川国貞/画 館蔵
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── |
遊んでますねえ(笑)。
‥‥すみずみまでみていくと、
あちこちでいろんなことが起きていて‥‥。
あ、料理もゴージャスですね。 |
沓沢 |
料理を売りにくる人たちもいたんですよ。 |
── |
へえ〜。
‥‥いやはや、いけません、
これはずっと見入ってしまいます(笑)。 |
沓沢 |
吉原にはその、
遊女たちと遊ぶためにくる人たちが
もちろん多いのですけれど、
そればかりではなくて、
年中行事みたいなものもけっこうあるんです。
そのひとつが、吉原の桜ですね。
▲新吉原の桜(『江戸名所花暦』より)
岡山鳥/著、長谷川雪旦/画 館蔵
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── |
歌舞伎の舞台でよくありますよね、
吉原で桜のシーン。 |
沓沢 |
ええ。で、この桜っていうのがおもしろくて、
レンタルなんですよ。 |
── |
え? |
沓沢 |
3月の初めに借りてきて植えて、
花が散ったら全部撤去されるんです、毎年。 |
── |
はあ〜。 |
沓沢 |
この周りにあるお茶屋さんなんかでは、
その2階からちょうど桜が一面みえるような
サイズのものを選んで借りて植えるっていう。 |
── |
すごい、ぜいたくなことを‥‥。 |
沓沢 |
これも吉原の桜なんですが、
▲影からくり浮絵 吉原仲之町 館蔵
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── |
影からくり、とありますが、これは? |
沓沢 |
裏から光をあてると、
提灯とか、透ける部分が何カ所かあって、
それで夜桜の風景になってるんです。
裏のあかりをけして表を照らせば、昼の桜。 |
── |
すごい‥‥。 |
沓沢 |
こういうのを何か箱で工夫して、
見世物にしていたようです。 |
── |
そうですか、吉原は桜でも有名で。 |
沓沢 |
あとは玉菊燈籠(とうろう)といって、
鶴ですとか、いろいろなかたちのデコレーションや
提灯をつるして楽しむ行事が7月にあったんです。 |
── |
へえ〜。 |
沓沢 |
9月には、にわか狂言という、
なんていうんでしょう‥‥
早い話がパレードみたいなことなんですが、
男性はダルマだの、鯛だの、獅子舞だの、
いろんな格好をして、
女性は踊りながら吉原を巡るという、
にぎやかな行事が行われていました。 |
── |
けっこう、イベントがあったんですね。 |
沓沢 |
そういうイベントがあるときは
一般の人もみにきて楽しんでたといいます。 |
── |
あ、遊女目当てじゃない人も。
‥‥あの、ズレた例えかもしれませんが、
吉原に行くということは、
京葉線に乗るのにちょっと似てると思いました。 |
沓沢 |
京葉線? |
── |
あの、ほら、ディズニーランドにいくとき、
京葉線に乗るとそれだけでワクワクしますよね。
別世界につながっている電車のようで。
吉原に向かう舟に乗っているときも、
そんな気持ちがしたのかなぁと思って‥‥。
すみません、妙なこと言って。 |
沓沢 |
いやいや、日常から離れるっていう意味では
東京の中心から東に適度な距離ですし、
乗り物に1回乗ることで、区切るというか、
そういうものを感じる部分は
あったのかもしれないですよね。 |
── |
ありがとうございます(笑)。
‥‥ですが、家族が等しく楽しめる
ディズニーランドとはやっぱり違いますよね。
年中行事があったにしても
吉原は基本的に、男性の遊び場でしょう。 |
沓沢 |
まあ、そうですね。
いろんなことを調べてて思うんですけど、
浅草なんかはとくに、
「参拝に行く」っていうのが
いちばんいい口実になるんですよ。 |
── |
なるほど(笑)。
「参拝に行く」といって、吉原に。
やはり男性の口実で。 |
沓沢 |
いや、でも‥‥女性の口実にもなりますね。 |
── |
え? それは、どういう? |
沓沢 |
お芝居見物。歌舞伎です。 |
── |
ああ、そうか!
浅草には歌舞伎がありましたね。 |
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(つづきます) |