浅草今昔展 編

その1 昔菓子の「評判堂」ご主人、冨士滋美さんの浅草

江戸東京博物館で開催中の『浅草今昔展』。
その担当学芸員の沓沢博行さんから
たのしくわかりやすく、お話をうかがってまいりました。

さて、そうやってお話を聞いているうちに、
浅草に対する興味は、むくむくとふくれあがり‥‥
「せっかくの機会、“今”の浅草の人々にも、
 直接お会いしてみよう!」
という流れになりました。

これから、5人の浅草の男性に会いにゆきます。
※都合により、お話をうかがうかたは4名になりました。

威勢のいいおじさんに叱られたりはしないかと
じゃっかんの不安を抱きつつ、ひとりめにお会いするのは、
冨士滋美(ふじしげみ)さんという男性です。
約束の時刻、『浅草大観光祭』でにぎわう浅草寺境内。
冨士さん、和服姿でのご登場です。
そのやさしそうなたたずまいに、ひとまずほっとしました。

── きょうはよろしくお願いします。
冨士 こちらこそ、よろしくお願いします。
── いやあ、すごいにぎわいですね。
冨士 このあたりは昔、奥山と呼ばれていまして。
── はい、見世物小屋などがたくさんあったという。
冨士 そう、それをここに再現しているわけです。
── なんですかいろんな出店が‥‥。
冨士さんは、この奥山の催しの責任者だそうで。
冨士 ええ、役割分担で私はここを。
のちほど、さっとご案内しますね。
── ありがとうございます、たのしみです。
ええと‥‥それでは、すばらしい江戸風情の中で
まずおうかがいしたいのは
お仕事のお話なのですが‥‥お菓子屋さんで。
冨士 はい、「評判堂」という菓子屋を。
── ここに来る途中、仲見世にあった、あの、
冨士 はい、あそこでやらせていただいてます。
── いつごろからのお店なのですか?
冨士 『あさくさ仲見世の史話』という本が
出てるんですけれども、それをみますと
明治18年に仲見世がいまの形に
なりましたということが書いてまして、
── はい、ええ。
冨士 そのときのイベントで
売り上げ競争というのをやったときの記録に
「売り上げ一番、評判堂」とあるんです。
── 明治18年にはあった、と。
冨士 そうですね、正確なところは
戦争で記録が焼けちゃってわからなくて‥‥。
ちなみにこれは、私が生まれる前、
昭和初期の店の写真です。
── ああ、わざわざお持ちいただいて。
ここで、ずっとお菓子屋さんを。
冨士 ええ、いまは雷おこしですとかお煎餅、
あられが中心で、飴もやったり、いろいろです。
── 失礼ですが冨士さん、おいくつで?
冨士 ことし、ちょうど60になりました。
── はー、そうですかぁ。
いや、冨士さんを紹介してくださったかたが
「男前が出てきますよお」
と言われてたんで、たのしみにしてたんです。
冨士 それは、どうでしょう(笑)。
── あの、冨士さんにとって、
浅草のいちばん古い記憶というと?
冨士 古い記憶、そうですね‥‥。
2つか3つくらいでしょうか、
まだこのあたりは戦後の爪痕がのこってまして。
仮の本堂がありましたけど、雷門はない、
宝蔵門はない、五重塔もありませんでした。
── いまここから見えるものがほとんど、ない。
冨士 ええ。それで、いま雷門がある場所にね、
池がふたつあったんですよ。
── へえ〜。
冨士 そこでよく遊んだのを覚えてます。
で、しばらくして雷門が復活して、
もうしわけ程度に仲見世のゲートができてね。
本堂でセレモニーがあったのも覚えてますよ。
鬼瓦が、こう、引っぱり上げられていって‥‥。
── そうですかあ。
冨士 それと、子どものころには、
「あそこには行っちゃいけない」って言われてた
なにか怪しげな路地みたいなものが
あっちこちにありましたね。
── 子どもだから、行くことはできませんよね。
冨士 ええ、行けなかった。
垣間見ることはありましたけど。
── 垣間見る(笑)。
冨士 あのね、怪しげな物売りがいましたよ。
なんかシクシクシクシク泣いてね、
前に万年筆を並べといて。
── はい(笑)。
冨士 すすけちゃってる万年筆をこう磨きながらね、
シクシクやってんですよ。
するとそこに男の人がきて、
「どうしたんだい?」 ってたずねると、
「文房具の会社が火事で倒産しちゃって、
 給料のかわりに万年筆をもらいました。
 これが売れないと、おくににも帰れない」
── ‥‥それはもしかして。
冨士 次の日になると、おんなじ場所でね、
泣く人とお客の役が逆になってる。
── ははははは。
偽客、さくらってやつですね。
冨士 あとは瓦をね、こう、素手でばっと割って、
「これをやりたかったらこの本買え」
みたいなのもありましたねえ。
小屋の裏に行くと、瓦を金づちで叩いて
ヒビ入れてるやつがいるんです(笑)。
── (笑)
冨士 そういうのが、まだこのへんにいました。
── 奥山と呼ばれていたあたりに。
冨士 ちょっと、歩いてみますか(立ち上がる)。
── はい、ぜひ(立ち上がる)。
ほんと、平日だというのに、にぎやかですねえ。
冨士 あ、そういえば、そこで、
荒井さんが店を出してますよ。
── ‥‥荒井さんといいますと、
たしか3人目にお会いする、扇子職人さんの?
冨士 そうそう。
── そ、そうですか。じ、実はですね、
正直を言いますと、その荒井さんというかたは
ちょっとこわい男性なのかなあ、と‥‥。
冨士 (笑)ご紹介だけしときましょう。
左に座ってるのが荒井さんです。
荒井さーん! この人、糸井さんのところの。
── は、はじめまして!
荒井 はい、こんちは。
── のちほど、おてやわらかにお願いします!
荒井 あのさ、この前もらったファックス。
── は、はい。
(※取材依頼のファックスを送ったのです)
荒井 なに書いてるか、わっかりにくくてさぁ!
あれじゃ、こっちはなに話しゃいいんだか。
── そ、そうでしたか、申し訳ないです!
のちほど、のちほどまたうかがいますので!
荒井 あいよ、がんばってね(笑)。
── ひゃあ〜。
冨士 (笑)昔っから、あいつはあんな感じで、
私と同い年の同級生なんですよ。
さっき話した池でね、一緒に遊んだり、
自転車の乗り方を教わったりね‥‥。
それからしばらく、冨士さんに解説をしていただきながら
「浅草奥山風景」をぶらぶらと歩きました。

赤い緋毛氈(ひもうせん)が風情たっぷりの食べ物屋さん。

デンキブランで有名な「神谷バー」の出店には

5代目の社長がいらっしゃいました。
お名前を訊ねたら、「神谷です」というお返事が。

職人さんが実演されている出店もたくさん。
こちらは刃物の職人さんですね。

ブラシをつくる職人さんや、

江戸文字を書いてくれるお店も。



敷地内の舞台では、はなやかな出し物が。

陽気な唐辛子屋さん。

骨董品の出店もあれば、

弓矢で遊べるお店も。

両替所で1枚300円の小判を買えば、
これを使って、この場所でお買い物ができるんですよ。

などなどなど‥‥こんな具合でたのしいお店が、
敷地のなかに約60も並んでいるのです。
しかもその裏手には、なんと歌舞伎小屋が!



2カ月間の特別興行が行われている「平成中村座」では
11月25日まで、こちらを上演しています。l
いやはや、冨士さんのご案内で、
すっかり浅草寺を満喫させていただきました。
冨士さん、ありがとうございます!

これにて、浅草の男性、ひとりめへの取材はぶじ終了。
引き続き、おふたりめへとまいりましょう!

(つづきます)

「評判堂」

東京都台東区浅草1ー18ー1
年中無休
お店のHPはこちらからどうぞ。
2008-11-03-MON

 

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