糸井 |
福武さんがベネッセに名前を変えた当時も、
「ソフト社会」ということを
書いた本はさんざん出ていましたけど、
本を読みおえて
パタっと閉じたときには、もうみんな忘れて、
「じゃあ、いくら安くなるんだ?」
みたいな旧来の発想をして動いていたわけで。
あのベネッセが出たときに、
「これはどういうふうになっていくんだろう?」
と、思わされたんじゃないでしょうか。 |
福武 |
実はそのコンセプトには、
やはり直島が関係しているんですよ。
直島という島には、
海はあるし、空気はきれいだし、
しかしコンビニはないし、
ファーストフードもないわけですよね。
電波は悪くはないけど、
ホテルにテレビを置いていないですから。
電話も通じているし、テレビ会議もあるけれども、
テレビを置かないように
最初から配慮したんですよ。
そこの気持ちのよさというのを、
だんだん感じたんでしょうかね。 |
糸井 |
それは直観的に思って。 |
福武 |
いや、イナカの人間ですから。
しょせん。岡山の。
だから、そうしたかっただけです。 |
糸井 |
ああ、なるほど。
「少年時代」みたいなことですか。 |
福武 |
糸井さんはどちらですか。 |
糸井 |
ぼくは群馬なんですけど、
群馬というのはハンパなところで、
東京に来れば来られる100km圏なんですよ。
ですから、都会に従属しちゃうんですね。
「都会のよさ」に対する妄信があるんです、逆に。
ちょうどニューヨークで
出版とかマスコミにかかわっている人の
生まれたところが、
そういう場所だというんですけど、
まあ自分に関しては、見事にそうですね。 |
福武 |
岡山はちょっと違うでしょうね。
岡山は、どっちかというと
豊かな地域なんです、食べ物も気候も。
天変地異はそれほどないし。
岡山という地域だけで
生活しても、じゅうぶん成立するんです。
だから逆に言えば、
そこの中に閉じこもっている人もいるし、
我々のように外に出かけていって
岡山のよさを気づく人間もいるわけです。
私の場合は、どっちかというと、
外に出ていったから、岡山の
ものすごいポテンシャルというのを感じたわけです。 |
糸井 |
へぇー。 |
福武 |
特に、瀬戸内海が近いでしょう?
ベルリッツなんかを買収したから、
世界じゅうに行って、
「福武さん、日本が世界に誇れる美しい場所、
あなた、どこか知ってるの?」と言われます。
最初は、答えられなかったですものね。
「奈良や京都かなぁ・・・」
「何いっているんだ、瀬戸内海だ」
みんな、言っていましたね。
その瀬戸内海の美しさみたいなものが、
たまたま直島を買って、もっとわかりました。
ベルリッツの買収が93年ですから、
そういうのも前後していたんでしょうね。 |
糸井 |
グローバルな視点と、
超ローカルな視点とが並行しているんだー。 |
福武 |
生意気な言いかたをすると、
東京という大都会には、
世界に通用するスタンダードが
なかなか見つからないんです。
イナカのほうが、よっぽど
世界に通用するスタンダードが
見つかるような気がするんですね。
東京のやっているようなことが
群馬にもなかなか通用しづらいでしょう?
もちろん、岡山にも。
しかし、田舎のやっていることが
世界に通用する可能性ってあるじゃない。
逆にいえば、そういう意味では
イナカにいるのがよほど国際的だという、
イナカモンの人間の、東京に対する
そういう気持ちがあったんでしょうかね。
それはイナカに帰れば帰るほど、
ますます大きくなって……。 |
糸井 |
「東京で懲りた」
とかということはないですか? |
福武 |
それはないです、ぜんぜん。
東京も大好きだし。 |
糸井 |
いつも、両極端を
一緒にやっていらっしゃいますよね。 |
福武 |
ただ、「懲りた」というのは、
東京支社を移転したんです、九段から多摩へ。
通勤が嫌だったんですね。
・・・あの通勤は耐えがたかったから。
もう少し地盤のいい場所に
持っていこうと思って、西部にしたんですね。
みんな、信じられんかったでしょうね。
やはり「情報の中心は神田だ」とか
どうとかいう考えが、あるじゃないですか。
でも、まあ離れたら離れたなりに、
みんな感じることはあるでしょう。
僕はよかったと思っているけど、
みんな、どうなんですかね?
家族の会話は、たぶん増えたと思いますよ。
通勤は楽だしね。 |
糸井 |
社員の皆さんに聞くと、
「満足してます」と言いますね。 |
福武 |
・・・と、思うんですけどね。 |
糸井 |
東京に出かける喜び、
みたいなものが生まれてるんですね。 |
福武 |
そうそう。
だから今日もワクワクして。 |
糸井 |
東京に来る用事をつくるとか。 |
福武 |
そうそう。 |
糸井 |
仕事の日常の延長じゃない状態で
東京を見られる、という意味では
移動が、おもしろいのかもしれないと思います。
ただ、あれだけの人数が一遍に動いたから
おもしろいなんでしょうね。
小さい会社で10人で動いても、
どうしようもないもの。 |
福武 |
また東京にもいずれつくると思います。
そういう意味では両極端あって、2つの場所。 |
糸井 |
また今度も、ローテーションの発想ですね。 |
福武 |
そう、行ったり来たりして。 |
糸井 |
「ローテーション」
というのが、お好きですね? |
福武 |
ええ。一つの型は苦手だね。 |
(つづきます)