小野田 |
ぼくはずいぶん勉強しなかったから
親にも学校でも、叱られてばかりでしたよ。
でも、数学の先生で、
おもしろい人がいたんです。
「君たち、技師にでもなるんじゃなきゃ、
代数やなんかは必要ないんだ。
算術だけできればいいんだよ。
ま、頭のなかを練ったりしたいんだったら
やってみろ」
なんていっていましたね。
たしかにそのとおりなんだけど、
子どもでいる時期はとにかく
親に養ってもらっているおかげで
時間があるんだから、
何でも耳に入れてみれば、
覚えているものがあるかもしれない。 |
糸井 |
なるほど、
何か覚えているかもしれないから
聞いておけばいい。 |
小野田 |
ええ。
だから、せっかく学校に行っているんですから、
居眠りせんで、ね・・・。 |
糸井 |
そうなんですよね。
ぼく、高校時代に
居眠りばっかりしてたんだけど、
あれはつらくてつらくて
しようがないんですよ(笑)。
居眠りをする子どもはかわいそうだなと思う。 |
小野田 |
その数学の先生は、
初代の川崎造船の造船技師だったんです。 |
糸井 |
技術者だった。 |
小野田 |
ええ。
ちょっと体の調子が悪くなったからといって、
学校へ教えに来ているんですよ。 |
糸井 |
何だか
余裕があるわけですね。 |
小野田 |
ええ。
「代数なんて、銀行員にでもなれば
必要な計算方法かもしれないけど、
君たちにはそんな要らないかもしれないね。
でも、例えば99を99倍しろといったら、
君たち、どうやって計算する?
9×9=81、9×9=81と
位ごとにかけ算していくか。
数字を99にせんで 100にしたらどうだ。
100の99倍だったらだれでもできるだろう。
0をふたつつければいいんだから。
そこから99を引けばいいんだよ。
これが代数なんだよ」
というわけ。 |
糸井 |
ほぉ。
かっこよく聞こえますよね、子どもには。
そういう先生が
ちゃんといてくれたんですね。 |
小野田 |
「単なる計算問題だけじゃなくて
頭を使う学問なんだ。
せっかく学校に来ているんだから、
居眠りせんで聞けよ」
といわれた。 |
糸井 |
小野田さんはその話を
いまでも覚えていらっしゃるわけですよね。 |
小野田 |
覚えているんですよねぇ・・・。 |
糸井 |
僕もひとつ、覚えている話があります。
小学生のとき、
担任が女の先生だったことがあるんです。
その先生が体育の時間に急に
女の子たちに向かって怒り出した。
「女子はみんな、ここに並びなさい。
男子が跳び箱を跳ぶから、それを前から見ろ」
といったんですよ。
僕ら男子は、
何だかわからないけど、
とにかく順番に跳び箱を跳んだんです。
先生は
「さあ、これを見て、何を感じた?
男の子たちは、跳び箱を跳ぶときに
変な顔になっているでしょう。
女の子たちは、普通の顔のまんまで跳んでいる。
だから、跳べっこない。男の子たちを見習いなさい」
こういって、
女の子を叱ったんですよ。 |
小野田 |
へえ!
おもしろいこという先生ですね。 |
糸井 |
僕ら男子は、もうガキですから、
必死になって跳びますよね。
そういうところが女の子にないということで
先生は怒ったんですけど、
そのことを僕はいつまでも覚えていて・・・。
いまでも自分が
「顔がゆがむほど何かをすることがあるかどうか」
について考えるし、そのたび
その先生のことを思い出すんです。
それはいわゆる学科の勉強でも
なんでもないんだけれども、
確かにひとつやふたつ、覚えていますね。 |
小野田 |
そうですね。だから子どもは、
とにかくいろんなことを何でもいいから覚えて、
そのうちに、自分の好きなものを見つけて
取っつけばいいと思うんですよね。
少し極端ないいかたかもしれないけど、
好きなら、
それが経済的に恵まれる仕事でなくたって、
それでいいんじゃないかと思うんです。 |
糸井 |
好きな時間を得られるって、
すばらしいことですよね。 |
小野田 |
ええ。 |
糸井 |
忙しいニューヨークのビジネスマンが
フロリダに行って
釣りしている人に出会った、
という話があります。
自分も釣りが好きなので、
「いいなあ、おれも年とったら
釣りをやりたいんだよ」
といったら、
「いま、すればいいじゃないか」
といわれてしまった(笑)。
確かにそのとおりなんです。
お金に余裕ができたらやろう、とか
年をとったらできる、
と思っていて
後回しにしていることは、
だいたいできなくなっちゃうんですよね。
そういうことは
やっぱり家でも学校でも教えてくれないから
小野田さんは自然塾をはじめたんでしょうか? |
小野田 |
そうですねぇ・・・。
そうなんだと思います。 |
(続きます。)