小野田 |
ぼくは、金属バット事件が起こったときに、
「ああ、子どもたちがかわいそうだな、
追い詰められてるのかな」
と思いました。
親と意見が合わないんだったら、
ぼくみたいに家を飛び出すとか、
やってみるといいんだね。
「そのかわり、親には
もう一銭もいただきに来ませんから」
と言い切って、家を出る。
そうすれば、
金属バットで親を殴り殺す事件は
起こらないんですよ。
結局はね、
暴力に訴えるうちは、まだ甘えがあるんですよ。
親が気に入らないんだったら、
自分で独立すればいい。
たとえ何歳であろうと、
自分で働いて食えばいいんですよ。 |
糸井 |
そうですね。
親に依存しているわけですもんね。 |
小野田 |
依存しているから、親に向けて
ストライキをやったり、
デモンストレーションをやるんです。
それがああいう形になってしまう。 |
糸井 |
たまたま、
かたいものがそばにあると、
死んじゃったりするわけですね。 |
小野田 |
そうです。
甘えさせる親にも責任があるかもしれないけどね。
そんなに親が嫌で、
殺したいほど、しゃくにさわるんだったら、
とっとと家を出ればいいと思うんです。 |
糸井 |
「逃げる」じゃなくて、
「別れる」ですよね。 |
小野田 |
ぼくは、17歳のときに
そういって家を出ましたよ。
生意気だったから。 |
糸井 |
「生意気」を教える授業が欲しいですね。
たとえ親子でも
おまえとおれは違う、ということです。
「生意気」といういいかたもできるし、
「誇りある」といういいかたもできる。 |
小野田 |
そうなんだよ、誇りなんですよ。
でも、親はわかってくれないもので。
どれほど説明しても、
親は昔から
「お金に走る人間なんかが
うちの家から出ては困る」
というんですよね。
「家が貧乏だから、ぼくみたいなばかができる」
と、口ごたえをしたりして。(笑)。 |
糸井 |
「貧乏は知恵の泉だ」と
企画会議でぼくは
よくいうんですけどね(笑)。 |
小野田 |
「それをあくまでだめだというんだったら、
家を出るから。
そんなおやじをぼくのほうから勘当したい。
そのかわり、
心配しなくたって
一銭もいただきに来ませんから」。 |
糸井 |
小野田さんがそうおっしゃると、みなさんは
「小野田さんは強いから」って
思いますよね、きっと。 |
小野田 |
いや、違うんだな。
家を出るときは、
おやじを怒らさなきゃだめなんだよ。
そこまで考えてやらないと。
そうでないと、
こっちが当てにされちゃうんですよ。
「一銭もいただきに来ません。
そのかわり、自分ですべてやる。
だからお父さん、
借金を残さんようにしてくださいよねぇ」なんて
いったら、怒った、怒った。 |
糸井 |
(笑) |
小野田 |
怒らせたら、
「あのやろう、帰ってきたって、
びた一文だってくれるもんじゃないぞ」といって、
おやじも頑張りますよね。 |
糸井 |
両方が頑張る。 |
小野田 |
そうなんですよ。
だから、家を出るときだって
うまいことやらなきゃいけない。 |
糸井 |
いつだって、
ちゃーんと考えていますよねぇ・・・。 |
小野田 |
親もずいぶんてこずったと思うんですけど、
「おまえ、自分でそう思うんだったら、
自分が思うようにやればいい。
親からブレーキやいろんな制限を
決して受けないんだから、
自分の思うようにやるんだ。
だけど、大きくなって、
親に面倒を見てもらって育った
ほかの兄弟とくらべて
見劣りのするようなことがあったら、
おまえは『うぬぼれていた』ということが
はっきりわかるんだぞ。
それだけははっきり覚えておけ」と。 |
糸井 |
いいこといいますねえ。 |
小野田 |
だから、
親におしりを押してもらって
学校に行ったりした兄弟より
絶対に負けちゃだめなんですよ。 |
糸井 |
「うぬぼれ」というのは、
自分の力を見誤っているということだから、
工学部畑の小野田さんとしては、
自分の力の数値が違っているよ、
ということですよね。 |
小野田 |
ええ。 |
糸井 |
すごいな。
・・・やっぱり親から違うな。 |
小野田 |
向こうもなかなか
ただもんじゃない(笑)。 |
糸井 |
すごい戦いですね。
そのときに
「甘え」みたいな気持ちは
残ってはいなかったんですか。 |
小野田 |
そこまでけんかすると、
「甘え」なんてないですね。
自分ひとりで食わなきゃいけないんですから、
天涯孤独みたいなものですよ。 |
糸井 |
孤独を
とっても早く知ったわけですね(笑)。 |
小野田 |
みずから孤独にしちゃったんですよね。
あんまり我が強いというか、
わがまますぎるんですよねぇ。 |
糸井 |
おもしろいなあ。 |
小野田 |
個性が強すぎるんでしょうかね。
だから、僕、中学校へ行ったって
先生をからかってばかりで。
「こんな成績で、勉強してないんだろう」
と先生がいえば、
「2時間やっています」
「2時間も勉強してできないはずがない」
「いえ、先生、早合点しちゃいけません、
週に2時間ですよ」
これで、また先生が
怒って、怒って(笑)。 |
糸井 |
そんな、一休さんみたいなことを(笑)! |
小野田 |
週に2時間というのも、ちゃんと
根拠があるんですよ。
漢文という科目がありますね。
あれだけはちょっと予習してこないと、
読めないんです、
漢字ばっかりですからね。
漢文だけは、先生に
「おい」と指されたときに困るから。
漢文は、週に2回授業があったから、
前日に1時間ずつ。
「先生、早合点しちゃいけない、
漢文だけだ」(笑)。 |
糸井 |
(笑)おっもしろいなぁ。
昔の人のほうがもっと
上下関係が厳しかったはずなんだけど、
上下に対して
ぜんぜん無視していらっしゃいますね。 |
小野田 |
そうなんです。
とにかく抵抗しちゃうんですよ。
相手の先生、負けましたもの。
理に合わんことだったら、
上の人間であっても
いつもけんかになるんです。
とにかく理に合っていれば、
「はい、そうですか」ですけど、
理に合わないと、
反発するんですよね、
自分が納得できないと。 |
糸井 |
ああ、そうなのか・・・。 |
小野田 |
結局、僕は
人にああだこうだと
押しつけたくないんですよ。
自分が押しつけられたくないから。
自由で思うようにやったらいい、
右から行こうと左から行こうと
自分の行きたいほうから行けばいい。
だけど、行くんだから、時間までにきっかり
そこへ行けよ、と。
これだけは責任をとってやらなきゃいけない。
だから、後に
ほかの兄弟とくらべて見劣りしたら、
それは、だめなんですよ。
それぞれの人が、自分で目的だけをちゃんと
はっきりさせていれば、
途中に何が起ころうと、
あんまりやかましく
いわなくたっていいんです。
そういうやりかたが結局いちばん能率が上がるし、
みんな、やりやすいと思う。 |
糸井 |
寄り道、
回り道はオーケーで。 |
小野田 |
ええ。
左の人に「右でやれ、右でやれ」といったって、
困りますよね。
左の人は、やっぱり左でやることを
まず認めてもらわなきゃ。 |
糸井 |
その人が生まれてきたということを
肯定されてないといけない
ということですね。 |
小野田 |
その人の個性とか特徴、性質は
認めてあげないと、
「角を矯めて牛を殺す」ようなものでね。
ただ、我々は一緒に並んでいるんだから、
他人に迷惑をかけないことだけが
最低の条件であって、
それ以外、どうでもいいじゃない。 |
糸井 |
戦時下では、
そばに部下のかたがいらっしゃいましたよね。
部下に対しては、
どのような関係を持っていたんですか。 |
小野田 |
まあ、兄弟分というんだろうかね。 |
糸井 |
・・・はあ。
自分が上になったときも
上だと思わないで、
兄弟分といういいかたになっちゃう。 |
小野田 |
子どもと接するときと同じように、
やってはならないことをしたときは、
それはきちんといいます。
それ以外は、だめなことがあったって、
別にいいんです。
まあ、そんなばかなことは
そうそうしないですよね、
同じ場所でずっといっしょに
やっているんだから。 |
糸井 |
つまり、小野田さんご自身が
なかなか人のいうことを聞く人間じゃないから、
それがわかっているんですね。
「暴力や権力で縛っても、
人はいうことなんか聞くものじゃない」
ということを
最初から知っているんですね。 |
小野田 |
そうなんです。 |
糸井 |
重要なことですね。 |
小野田 |
人間だから、やっぱり
おどかしつけて使えるなんて、思いませんよ。
おどかしたら逃げちゃいますよ。ねぇ。
やっぱり何でも納得してやらないと。
その任務を納得してやってくれなきゃ、
だめですよ。 |
糸井 |
ローマ古代史の先生と話していて、
ポンペイの展覧会に行ったら、
ぐるぐる回して粉をひく
石うすがあったんです。
それを指差してぼくが、
「こういうことを奴隷がやっていたんですね」と
知ったかぶりして、何げなくいったら、
「いいえ、奴隷もやるんですけど、
それは、罰としてやるんです」
と説明してくださった。
「こんな労働ばかりを奴隷がしていたら、
奴隷が反乱を起こすし、逃げちゃう。
映画のなかで目にするような奴隷の労働というのは、
基本的には罰としてやらせる労働を
大げさに現しているだけです。
奴隷に対して厳しくしてばかりいたら、
自分の身が危ないですから」。
もう古代に答えはあったんですよね。 |
小野田 |
そうですね。
人間のことですからね。
同じなんですよ。 |
(続きます。)