糸井 |
小野田さんの部隊は、
退却戦をやっていたわけですよね。 |
小野田 |
そうです。
相手の軍のいないところを
いろいろ潜って歩いて。 |
糸井 |
だから、
あれだけうわさがあったわけですもんね。 |
小野田 |
ええ。 |
糸井 |
その辺になると、笑うしかないですね。
想像できないんですもん。 |
小野田 |
島民にいわせれば、
「この島をいちばんよく知っているのは
小野田だ。
こんなところを探したって、いっこないよ。
いまごろは、遠くへ行って
うまいものを食って
休んでいるんじゃないの」
もう島民は、そのぐらい
よく知っているんです。 |
糸井 |
(笑)プ!
・・・ふ、吹いちゃいました。 |
小野田 |
捜索隊が現地でそれほど
情報を得ていなかったから。 |
糸井 |
だから、地元では、
名前がわからなくても有名人ですよね、
何だか、そういうヤツ(笑)として。 |
小野田 |
ええ。
ぼくの名前は知らないけど、
顔は知ってますよね。
向こうの軍隊の大隊長だとか、
町長なんかは、ぼくのことを
「山の王様だ」といっていましたよ。
「何を思っとるんだろう、
本当に自分の好きなことをやっている」
というかんじで見てた。
何が目的でやっているか
彼らにはわからないかもしれないけど、
とにかく好きほうだい、
「そんなことせんでもいいのに」
ということをやる。 |
糸井 |
宮崎駿さんの「もののけ姫」の
あの、「オッコトヌシ」といわれている
動物がでかくなったやつみたいだな(笑)。 |
小野田 |
住民の家に
ガッと押しこんで行ったって、
「おまえ、貧乏だなぁ」なんていって
帰っちゃうんだから。 |
糸井 |
そういうお話は、
ほんとにいくらでも聞けるし、
おもしろかったり、
いろんなことを考えられるんだけど、
普通はどこかで想像が届かなくなるんですよ。
でも、子どものときからの話を聞いていると、
そのころからそういう人だったんだ、
ということがわかって。 |
小野田 |
だから、まとめていえば、
「らしくあった」んですよね。 |
糸井 |
「らしくあった」(笑)。 |
小野田 |
結局、
子どものときは子どもらしかったし。
暴れ馬でね。
軍隊に入れば、軍人らしくしたのです。 |
糸井 |
何度も聞かれたかもしれないですけど、
フィリピンにいるとき、
じゃあ、ここで終わりにしようと説得されたときに、
何が変わったんですか。 |
小野田 |
ここで終わりにするというのは
・・・何の話? |
糸井 |
つまり、
ずうっと見つからないままに来たのに、
捜索隊が来てしまったにせよ、
意地っ張りとしては、
試合をそこで終わりにしたわけですから。 |
小野田 |
我々の肉体的な能力からいくと、
60歳になったら無理だろうと・・・。 |
糸井 |
そこも、理詰めなんですね。 |
小野田 |
やはりだんだん体力が落ちるのは
わかっていました。
銃でしとめた牛の肉40キロを
5時間も6時間も背負って歩いて、
山で乾燥させないと
我々は生きていけないんですよ。
食糧の獲得という点で
それ以外に、生きていく方法はなかったんです。
だから、それが
30キロしか背負えなくなったとしたら、
もう生きていけない。 |
糸井 |
(笑)いやぁ・・・まるで、
野球選手の引退理由みたいですね。 |
小野田 |
だから、
ずうっとそのまま命令をもらえなきゃ、
まあ、60歳で終わりだろうと思ってた。 |
糸井 |
その覚悟もあったわけですね。 |
小野田 |
だから、60歳までに弾がなくなって
終わりになっちゃ困るから、
撃ちたい弾も我慢して、
年間60発以上は撃たないことにしていたわけ。
だから最後に、
52歳で 600発という弾が
残っちゃったんです(笑)。 |
糸井 |
ハハハ。
計算づくなんだ。 |
小野田 |
これははじめから考えてたんだけど、
ほんとはね、最後は、
ありったけの弾を撃ちまくって、
敵にハチの巣のように体に穴をあけてもらう。
それで終わりはどうかな、と。
でも、まだ命があって元気があるのに、
わざわざ首をくくることないですよねぇ。
というのは、
もともとの戦略は
中国大陸で戦闘する計画だったから、
後方を牽制するために
軍事基地があったその島へ
強者を入れたんです。
そこは離れ小島だったから、手を抜いたら、
敵の遊撃隊が島の滑走路を占領する
心配がありますからね。
ところが、朝鮮戦争がはじまったでしょう。
もうスービックだとか、
クラークの飛行機が動きますよね。
もちろん、島のなかにはレーダーの基地がある。
軍事基地のなかにいたんだから、
アメリカの本国が丸見えといえば丸見えなんですね。
でも、その戦争の相手が
てっきり日本軍だと思っていたわけ。
日本本土が占領されるかもしれない
という前提で
たてられた戦略が頭にあったからね。 |
糸井 |
そこだけが大きな誤解だったわけですね。 |
小野田 |
そうです。
戦争が終わったから
そんなことはだれもいわないけど、
本当は、上陸されたら国内を遊撃する。
それで、大陸での戦争を長引かせて
戦争をやめさせてやろうと
思っていた。
大陸で有利に戦うために、フィリピンに
そういう部隊を残していった。
ところが、船があるわ、漂流物があるわ、
爆撃機は飛ぶわ、
「ああ、向こうでやっているんだから」と思ったら
こっちも頑張りますよね(笑)。
何にもないところだと、
「あれ? こりゃ、どうなっているんだ、
これ、ずいぶん長いなぁ」
ということになるかもしれないけど、
目に見えて上で戦争しているから
いけなかったんですね。 |
糸井 |
ちょうどその場所がまた
誤解を生みやすいところで。 |
小野田 |
そうなんですよ。
相手は違ったけど
アメリカは戦争していたんですよね。 |
糸井 |
活字のなかでそういう要素は
たくさん書いてあるんですけど、
実際に声で聞いたときの、そのリアルってすごいです、
やっぱり。 |
(続きます。)