小野田 |
だけどね、人間はやはり
覚悟は決めておくべきですよ。
誰だって100歳以上生きられないんですから。
これははじめから考えておかなきゃいけない。
まあ、100歳まで生きた人はないから、
女性だったら88かな、
男だったら75かなぐらいで……。 |
糸井 |
そういうところも
理科系ですね、完全に(笑)。 |
小野田 |
そうだね。 |
糸井 |
でも、ものすごくお元気そうですよね。
勝手に生きていることが
元気の秘訣でしょうか? |
小野田 |
自分の肉体的な丈夫さは、
自分で相談しなきゃしようがないですよね。
まあ、いつ死ぬかもしれない、
だけど、そのために
頑張って死なないようにしているんですけど。
島では毎日毎日、
座ったりするときにいちいち
「もし敵が来るとすれば、こちらだ。
こちらから来れば、こうする、ああする」
と全部お膳立てして座っていたんだから。 |
糸井 |
頭をずうっと使っていたから、
さびなかったんでしょうね。 |
小野田 |
そうですね。
自分で手を抜いたところから攻められて
死ななきゃいけないというのは、
ちょっと残念ですよね。
やっときゃ死なんですんだと思ったら、
ねぇ、そりゃイヤだ。 |
糸井 |
(笑)・・・「ねぇ」って。
言いかたが、
子どものときのまんまですね。 |
小野田 |
だけど、自分としてはもう、
やるべきことはやって、
それで途中で死ぬんだったら
しようがないですよね。
相手のほうが強かったんなら
しようがないですね。 |
糸井 |
果たし合いをして
負けるんですね、その場合は。 |
小野田 |
そうです。
自分の手抜きで死ぬのは
やっぱり嫌だから、
とにかく一生懸命
毎日最善を尽くしていたんです。
最善を尽くしているんだから、
死ぬときは
「おお、おれもやっぱり
これしか力がなかったんだ」
と、納得して死ねると思ったんですよ。
「やっておけば死なんですんだ」
なんて、いいたくない。 |
糸井 |
勝ち負けは
とっても大事なんだけれども、
勝ち負けの前に大事なことが
もうひとつある。
それは「悔いを残さない」。 |
小野田 |
うん、「悔いを残さない」。
いつ死んでも悔いを残さない。 |
糸井 |
ルールとしては
勝つためにやっているんだけれども。 |
小野田 |
そうです。
終局の目的は
勝つためにやっているんですけど、
途中で力及ばずということがあるわけです。 |
糸井 |
絶対勝つということは
いえないわけですね。 |
小野田 |
そうです。 |
糸井 |
これも非常に
工学部的な発想ですよね。 |
小野田 |
そうですね(笑)。
人間のことだから、
いつどうなるかは知れないんです。
たまたまニューヨークに行っていたから、
テロ事件に巻きこまれるという、
そういうことも、あるんですよ。
だけど、
自分としての最善をちゃんと尽くしておけば、
やはり覚えてくれている人もいるでしょう。
やつはこうだったな、
毎日よくやった男だったなと
覚えておいてくれる人がいますよね。 |
糸井 |
ひとりの人の心のなかで残っていれば、
それは、生きていますよね。 |
小野田 |
来年、いよいよ80になるんですけど、
ああ、ずいぶん長生きしたもんだな
と思います。
我々人間の根本は
「生きる」ということに
あるんですよね。
死にたいは人はだれもいない。
死にたいなんていう人は、
何か事情があって行き詰まったから
首をくくるわけであって。
おれが1億やるから、2億やるから、
といったら、首、つりませんよ。 |
糸井 |
そうですよね。 |
小野田 |
・・・ねぇ。 |
糸井 |
借金をたくさん抱えた芸人さんたちが
話をしているテレビ番組があって、
「死のうと思ったことありますか?」
という質問に
「あります」といったんです。
次に、
「そのときどういう気持ちだったのですか?」
と聞かれたら、その人はこう答えたんです。
「楽になりたいんです。
生きているほうがつらいんだなと
思ったときに死のうと思うので、
死にたいんじゃないんです。
生きているより死ぬほうが楽だなと思うから、
楽な道を選ぼうとして
柵を乗り越えるんですよ。
でも、楽じゃなくても
生きたいと思う心が勝って、
僕はいま、ここに生きているんです」
と。確かにそうですねえ。
だから、小野田さんは意地っ張りだから、
楽になりたいよりも大事なことが
うんとあったんですよね(笑)。 |
小野田 |
ぼくの仲間が死後15年ぐらいたってから
山の奥で遺骨で発見されたんです。
土に埋めたんですけど、そしたら部下に、
「かわいそうになあ。隊長、
早く死んだやつのほうが楽だったですね」
といわれた。 |
糸井 |
そんなことをいわれたら、
なんて答えたらいいのか
わからないですよね・・・。 |
小野田 |
ほんとに。
ギリギリの線で生きていて、
「あと何年」て保証もないんです。
それで、うっかりすると、
その人みたいに
骨になる心配があるんですよね。 |
糸井 |
死体が隣にいるんですもんね。 |
小野田 |
その状況で、ずーっと、ね。
早く死んだやつ、楽ですよね(笑)。 |
糸井 |
でも、そうなると、
敵の思うつぼですよね。
「死んだほうが楽だ」と思ったときには、
敵が勝ったということですよね。 |
小野田 |
そう。 |
糸井 |
スポーツでもそうですもんね。 |
小野田 |
僕もずっとそんなことを考えていましたよ。
我々はこれだけギリギリのことをしているのに、
いったいいつになったらケリがつくのか、
生きて帰れる保証はどこにもないし。
60になったら終わりだ。
だけど、まだ弾もあるしなあ、と
考えた。
僕は、弾があるのが
とにかく気にかかった。
撃ちたい弾もがまんして撃たないでおいた。
とにかく弾を撃ち切ったら、
もう60まで生きられないんだから。 |
糸井 |
「弾」って何だったんでしょうね。 |
小野田 |
・・・何だったんでしょう。
「まだ弾もあるしなあ」って
いつも思っていた。
死ぬときは弾を撃ち切って
死にたいんですよね。
「矢玉が尽きる」というけど、
そうなったら、しようがないですよね。
そしたら周りの部下が
「まだ元気ですし、隊長、
やってみなきゃわからないでしょう」
といってくれた。
非常にうれしかったですね。
やってみなきゃわからないんですよ。 |
糸井 |
それは小野田さんみたいな
意地っ張りの変わり者の影響を受けた人が
育っちゃったということですね。 |
小野田 |
もうほんとに
同じ性質になってくれたんですよね。 |
糸井 |
なっていたんでしょうね。
後までずうっといっしょに
残っていたかたがたですよね。 |
小野田 |
・・・その部下の言葉で。 |
糸井 |
それを聞いただけで
生きる気になりますね。 |
小野田 |
うん。まだやってみなきゃわからない。
ほんとにやってみきゃ
わからないですよね。
まだ生きる能力があるんだから、
わざわざ死ぬことはないです。 |
(続きます。)