糸井 |
島で、ギリギリの毎日を
経験してきた小野田さんにとって
いま、楽しみは何ですか。 |
小野田 |
うーん・・・
生きているということが
いちばん楽しいんじゃないかなぁ。
というのは、
自分のやりたいことがやれるから。 |
糸井 |
生きていれば
やりたいことがやれる。 |
小野田 |
戦死した人たちはみんな、
何かやりたいことがあった。
あるいは、やれる能力があったのに
死んでいったんですよね。
みんな能力があって、
それが一瞬にしてなくなったんだから、
かわいそうなんです。
たしかにいろいろ苦しいこともあり、
嫌なことがあっても、
生きているから
自分がやりたいことがやれるんでしょう?
生きているということは
いちばんありがたいですよ。
生きているんだから、
苦しいことがあって当たり前なんですよね。 |
糸井 |
苦しみも、含めてね。 |
小野田 |
伸びていくために、
生きていくために
困難にぶつかるのは
当たり前だと思えば、別に何でもない。
何か新しいことをしようというときに、
失敗はあたりまえ。
はじめからできるわけはないんですよね。
生きる楽しみというのは、
その試みと失敗と成功を
次から次からやっていけることだと
思うんですけど。 |
糸井 |
まるで碁盤を眺めている
碁打ちみたいなお話ですけど、
そうなんでしょうね、きっとね。 |
小野田 |
いまの子どものなかには、
「誰が生んでくれって頼んだ」
なんてことをいう人もいるらしいんですけど、
それ、ぼくもいいました(笑)。
そしたら母親が
「おまえが生まれたいって、いったから」
って。 |
糸井 |
親もほんとに
うまいこといいますね(笑)。 |
小野田 |
「おまえがおなかのなかで
『生んでくれ』といったから、
だから、死ぬ思いで産んでやったんだよ。
おまえは世のなかへ出て
自分で力いっぱいにやりたいというから、
だから、産んでやった」 |
糸井 |
ああ・・・
いい言葉ですね。 |
小野田 |
「そんなこといった覚えない」
「じゃ、おまえに聞くけど、おまえ、
おしめかえてもらったの覚えているか?」 |
糸井 |
かえてくれっていいましたよね、
オギャーオギャーとね。 |
小野田 |
でも、覚えてないね。
「それ、見ろ。
それより1年前に
おまえは世のなかへ出たいって
いったんだぞ。
覚えてないだけなんだ」
って。 |
糸井 |
いやいや、
小野田さんの性格は
やっぱり遺伝だわな。 |
小野田 |
「いまさら何いうか、嫌なら死になさい、
とめはしないよ。
生まれて嫌だというんだったら
死になさい、決してとめない」。
禅問答みたいですけどね、
そういうことをいう母親だった。 |
糸井 |
人間の孤独の喜びと悲しみを
知っていらっしゃいますね。 |
小野田 |
母親のいうとおりなんです。
もう生まれてきちゃったんですよ。
しようがない。
勝手に親が産んだんじゃないです。
やっぱり自然の摂理で、
母親に体力もあったから、
「生まれたい」
って出てきちゃったんですよね。 |
糸井 |
お母さんは、また
どういう育ちをしたんでしょうね、と
たどりたくなりますね。 |
小野田 |
母親も、なかなかですよ(笑)。
みんな生まれてきたんですよね、
やっぱり死にたくないんだから。
生きるということを忘れちゃ、
もうおしまいですよね。 |
糸井 |
ベネッセのパンフレットに
そっくりそのまま
載せたいような・・・(笑)。 |
小野田 |
簡単にいえば、
人間は、死にたくないんです。
だから、生きることを考えるんだから。 |
糸井 |
人間、そういうふうにできている。
で、ろくでもないことを考えるやつも
ちゃんといるということも
わかっているし・・・。 |
小野田 |
そう。もっと因数分解で
簡単に考えればいいんです。 |
糸井 |
・・・ですよね。いや、そうなんだあ。
これで、いま聴いている
ベネッセのスタッフたちも、
ぼくがぜひ小野田さんを
ゲストに招きたいといった理由が
わかったでしょう? |
ベネッセ |
(うなずく) |
糸井 |
でも、ほんとにおもしろかった!
・・・ここまでとは。
おもしろかったあ。
このお話、たき火を前に聞いたら、
もっと心にしみたでしょうね。
この部屋じゃなくて、
真っ暗やみで
火をたきながら話していたら・・・。 |
小野田 |
そう、こういう話は
ほんとはキャンプファイヤーなんかでやると、
いちばんいいんですよ。 |
糸井 |
今度、ぼく、企画しますから、
ぜひ・・・。
大人を呼んで、
そしてキャンプファイヤーをやって、
小野田さんが好きなようにしゃべる。
どうでしょうか? |
小野田 |
ええ。やりましょう。 |
糸井 |
じゃ、ぜひ、お願いします。
いつだかはちょっとわかりませんけど。
暖かいときに、ですね。
ああ、楽しみです。 |
(おわり)