糸井 |
大後さんって、だめかもしれないと思った子が
急に檜舞台に上がって力をつけるなんて場面を、
何度も見ているんですか。 |
大後 |
ええ。 |
糸井 |
そういうときって
いったい何が起こっているんでしょう? |
大後 |
いろいろ、ですね。
たとえば、不慮の事故で
両親をいっぺんになくしたような、
そういう精神的なショックがあったりだとか。
・・・あるいは、
あいつのために頑張りたいとか、
自分の恋人のために頑張りたいとか、
自分のために頑張るという以上の気持ちを持つと、
グッとエネルギーを出すように思います。 |
糸井 |
わぁ、そうなんだ。 |
大後 |
自分自身のためにやることは
とても大切なことですけれども、
それだけでは、弱いんですよ。 |
糸井 |
「自分だけのためにやるのは弱い」。
・・・わかるなぁ。 |
大後 |
好きな女の子ができたら、
なんとか振り向かせようと
するじゃないですか。 |
糸井 |
うんうん。 |
大後 |
その気持ちが競技に向かうと、もう、
すごい強くなります。
例えばの話ですよ。例えばの話。 |
糸井 |
ま、恋愛すればいい、
っていうもんじゃ、ないですし。 |
大後 |
そう。
要は、気持ちの高ぶりを
経験することが大切だと思います。
最近の選手は、ちょっと、感受性が
足りないんじゃないかなと思いますから。 |
糸井 |
何かをする、って、感受性の問題ですよねぇ。
あのう、以前、野球の
藤田監督が言ってたことで、
大後さんの言葉に似ているものがあるんです。
連勝しているときに、藤田監督に
「調子いいですね」と言ったんです。そしたら、
「糸井さんねぇ、そう見えるときが
監督はいちばん頭が痛いんだよ。
だいたい、いいときには
悪い芽が全部育っているからね。
それがのちのち、どっと芽を出すんだよ。
逆に調子の悪いときは、全然気にしないんだよ。
何が悪いか見えるから」
とおっしゃって。この人は格好いいなあ、と思った。 |
大後 |
いや、まさしく
藤田監督のおっしゃるとおりですね。 |
糸井 |
藤田さんは
「みんなが『監督、つらいでしょう?』
と言うときは、
ぼくは『これから何をやろう』と思って、
楽しくてしようがないときだったりするんだよ。
そりゃあ嫌ですよ、調子の悪いときは。
だけど、やれることは全部わかるから、いいんだ。
いいときほど、やれることが見えなくて、
眠れないもんですよ」と。
きっと、そうなんでしょうね。 |
大後 |
調子の悪いときはね、小さいことでも、
とにかくいろいろグジグジ考えちゃう。
やっぱり、そういうときのほうが
成長しているんだなぁと思いますね。
いいときは、「ま、いいや」となるんですね。
その「ま、いいや」の
重大性に気がつかないんです。 |
糸井 |
「ま、いいや」は
後でツケとなって、回ってきますよね。 |
大後 |
「ま、いいや」が重なって、
何倍にもなって返ってきますもの。 |
糸井 |
今回、大後さんをお呼びしたのにも、
わけがあるんです。
とってもうまくいっているときによりは、
いろいろと悩んでいらっしゃるときに
お話を伺うほうがおもしろい。 |
大後 |
ハハハ。
むつかしくなってきているんですよ、
いろんなことが。 |
糸井 |
そういうときって、
うまくいっている会社だとか、
うまくいっているチームに
何があるんだろうか、ということを
知りたくなりますよね。 |
大後 |
なりますね。
まわりを見渡すようになります。
最近は、指導者主導でスパルタ式に
やっているところのほうが
成績が上がってきている傾向があるんですよ。 |
糸井 |
スパルタ式が? |
大後 |
本来、学生スポーツは、
学生の自主性を尊重しなきゃいけないものだった。
けれども、自主性を重んじた指導に
こたえられるだけの学生の精神的な部分が
育ってない年代になったのかもしれないですね。
10年、15年前に比べると。 |
糸井 |
なるほどなー。 |
大後 |
学生の自主性を尊重した指導で、
わたしはこれまでやってきました。
でもそれだけでは、
もう難しくなってきている・・・。
そんな壁を感じますね。 |
糸井 |
スパルタ式というのは、運動部で
ずうっと誤解されて正当化されていた部分で。
大後さんは、
それに対する大きな反発もおありだったし・・・。 |
大後 |
ええ、ありました。 |
糸井 |
大後さんは、
「自分の力をのびのびと発揮できる
学生のチームをつくってみせるぞ」
という意気込みをお持ちだった。
それが、スパルタのチームに負けたりすると、
揺るぎますよねぇ。 |
大後 |
揺るぐんですよ。
自分が甘いのかな? って。
いつも選手に選択肢を与えていることが、
実は、選手本人の甘えに
つながっているのかもしれない。
迷いますよ、ものすごく。 |
糸井 |
でも、大後さんの価値観のほうが
絶対いいんだということがはっきりできたら、
それに賛同する、
力のある選手が入ってきますよね。 |
大後 |
そうですね。
やっぱりずうっと
自分のスタイルで
やっていくしかないものですから。 |
糸井 |
ぼくは負けたくないんですよ、ここで。
そりゃ、ある種の恐怖政治というのは、
昔からのいちばん効率のいい、
コストのかからないやりかたですよね。
だけど、それは、何というか、
「先祖返り」だと思うんですよ。
だから、やりたくない。 |
大後 |
昔から、さんざん
使われていた方式ですもの。 |
糸井 |
例えば、野球でいうと、
いまのイチローにとって、
仰木監督という人が
非常に大きな存在だったと思うんです。
野球界にいた人たちが
「仰木さんはすごい」って
ものすごく言うんですよ。
「あの人、スパルタでもないし、
かといってただ甘いだけじゃなくて、
恐ろしいものがある」。
いつでも、いろんなところに
ヒントを指している人なんでしょうね。
イチローは、仰木監督の手を離れて
大リーグに行っちゃった。
そうすると、次のイチロー的な選手は、
スパルタのチームに入ったりしないで、
仰木監督のような人のいるところに入ったり、
大リーグに一気に行こうとしたり、
何かが変わってくると思うんです。 |
大後 |
選手が強くなる方法論が
変化していきますよね。 |
糸井 |
「ただがむしゃらに強いチームに入りたい」
というよりも、
その理念の旗の下に
人が集まるようになるんじゃないかな。
そうしたときに、
「スパルタでも何でもいいから、
おれは強くなりたいんです。
言われたとおりにします」
というやつのチームと、
そうじゃない、大後さんのようなチームが
ほんとに拮抗できると思うんだ。 |
大後 |
そうですね。
そこまで、がんばりたいなぁ。 |
糸井 |
前回の大会は
9位に終わったと聞きました。
それを聞いて
「ほう、そこまで行くか」みたいに
思ったんだけど、
「このサイズでは、
最大限の力を発揮しての9位なんだ」
と、アピールできるだけの自信があったら、
その次を続けていくような
すばらしい何かができるんじゃないでしょうか。
これは、自分にもあてはめて
しゃべっているんですけど。
・・・期待しちゃうんですよねぇ(笑)。 |
大後 |
いやぁ、
わたしもいろいろ迷っているんです(笑)。
自分の、自主性を尊重したやりかたで、
いままで扱ったことのないような
すごい選手も、育っているんですよ。
そこは、すごいと思っているんです。
ただ、チームの成績としては、奮ってない。 |
糸井 |
なるほど。 |
大後 |
でも、最小公倍数の
強化はできてないけれども、
ピンポイントではいい兆しがあるんです。
将来、このなかから、
オリンピックに行けるような選手も
出てくるんだろうと思うし。 |
糸井 |
おもしろいなあ。
チームプレーのつらさですね。 |
大後 |
そうなんです。
駅伝は、やっぱり結果がすべてですから。
|
(つづき)