CHILD
これでも教育の話?
どんな子供に育ってほしいかを、
ざっくばらんに。

第4回 自主性尊重かスパルタか

糸井 大後さんって、だめかもしれないと思った子が
急に檜舞台に上がって力をつけるなんて場面を、
何度も見ているんですか。
大後 ええ。
糸井 そういうときって
いったい何が起こっているんでしょう?
大後 いろいろ、ですね。
たとえば、不慮の事故で
両親をいっぺんになくしたような、
そういう精神的なショックがあったりだとか。

・・・あるいは、
あいつのために頑張りたいとか、
自分の恋人のために頑張りたいとか、
自分のために頑張るという以上の気持ちを持つと、
グッとエネルギーを出すように思います。
糸井 わぁ、そうなんだ。
大後 自分自身のためにやることは
とても大切なことですけれども、
それだけでは、弱いんですよ。
糸井 「自分だけのためにやるのは弱い」。
・・・わかるなぁ。
大後 好きな女の子ができたら、
なんとか振り向かせようと
するじゃないですか。
糸井 うんうん。
大後 その気持ちが競技に向かうと、もう、
すごい強くなります。
例えばの話ですよ。例えばの話。
糸井 ま、恋愛すればいい、
っていうもんじゃ、ないですし。
大後 そう。
要は、気持ちの高ぶりを
経験することが大切だと思います。
最近の選手は、ちょっと、感受性が
足りないんじゃないかなと思いますから。
糸井 何かをする、って、感受性の問題ですよねぇ。

あのう、以前、野球の
藤田監督が言ってたことで、
大後さんの言葉に似ているものがあるんです。

連勝しているときに、藤田監督に
「調子いいですね」と言ったんです。そしたら、
「糸井さんねぇ、そう見えるときが
 監督はいちばん頭が痛いんだよ。
 だいたい、いいときには
 悪い芽が全部育っているからね。
 それがのちのち、どっと芽を出すんだよ。
 逆に調子の悪いときは、全然気にしないんだよ。
 何が悪いか見えるから」
とおっしゃって。この人は格好いいなあ、と思った。
大後 いや、まさしく
藤田監督のおっしゃるとおりですね。
糸井 藤田さんは
「みんなが『監督、つらいでしょう?』
 と言うときは、
 ぼくは『これから何をやろう』と思って、
 楽しくてしようがないときだったりするんだよ。
 そりゃあ嫌ですよ、調子の悪いときは。
 だけど、やれることは全部わかるから、いいんだ。
 いいときほど、やれることが見えなくて、
 眠れないもんですよ」と。
きっと、そうなんでしょうね。
大後 調子の悪いときはね、小さいことでも、
とにかくいろいろグジグジ考えちゃう。
やっぱり、そういうときのほうが
成長しているんだなぁと思いますね。

いいときは、「ま、いいや」となるんですね。
その「ま、いいや」の
重大性に気がつかないんです。
糸井 「ま、いいや」は
後でツケとなって、回ってきますよね。
大後 「ま、いいや」が重なって、
何倍にもなって返ってきますもの。
糸井 今回、大後さんをお呼びしたのにも、
わけがあるんです。
とってもうまくいっているときによりは、
いろいろと悩んでいらっしゃるときに
お話を伺うほうがおもしろい。
大後 ハハハ。
むつかしくなってきているんですよ、
いろんなことが。
糸井 そういうときって、
うまくいっている会社だとか、
うまくいっているチームに
何があるんだろうか、ということを
知りたくなりますよね。
大後 なりますね。
まわりを見渡すようになります。

最近は、指導者主導でスパルタ式に
やっているところのほうが
成績が上がってきている傾向があるんですよ。
糸井 スパルタ式が?
大後 本来、学生スポーツは、
学生の自主性を尊重しなきゃいけないものだった。
けれども、自主性を重んじた指導に
こたえられるだけの学生の精神的な部分が
育ってない年代になったのかもしれないですね。
10年、15年前に比べると。
糸井 なるほどなー。
大後 学生の自主性を尊重した指導で、
わたしはこれまでやってきました。
でもそれだけでは、
もう難しくなってきている・・・。
そんな壁を感じますね。
糸井 スパルタ式というのは、運動部で
ずうっと誤解されて正当化されていた部分で。
大後さんは、
それに対する大きな反発もおありだったし・・・。
大後 ええ、ありました。
糸井 大後さんは、
「自分の力をのびのびと発揮できる
 学生のチームをつくってみせるぞ」
という意気込みをお持ちだった。
それが、スパルタのチームに負けたりすると、
揺るぎますよねぇ。
大後 揺るぐんですよ。
自分が甘いのかな? って。
いつも選手に選択肢を与えていることが、
実は、選手本人の甘えに
つながっているのかもしれない。
迷いますよ、ものすごく。
糸井 でも、大後さんの価値観のほうが
絶対いいんだということがはっきりできたら、
それに賛同する、
力のある選手が入ってきますよね。
大後 そうですね。
やっぱりずうっと
自分のスタイルで
やっていくしかないものですから。
糸井 ぼくは負けたくないんですよ、ここで。
そりゃ、ある種の恐怖政治というのは、
昔からのいちばん効率のいい、
コストのかからないやりかたですよね。

だけど、それは、何というか、
「先祖返り」だと思うんですよ。
だから、やりたくない。
大後 昔から、さんざん
使われていた方式ですもの。
糸井 例えば、野球でいうと、
いまのイチローにとって、
仰木監督という人が
非常に大きな存在だったと思うんです。

野球界にいた人たちが
「仰木さんはすごい」って
ものすごく言うんですよ。
「あの人、スパルタでもないし、
 かといってただ甘いだけじゃなくて、
 恐ろしいものがある」。
いつでも、いろんなところに
ヒントを指している人なんでしょうね。

イチローは、仰木監督の手を離れて
大リーグに行っちゃった。
そうすると、次のイチロー的な選手は、
スパルタのチームに入ったりしないで、
仰木監督のような人のいるところに入ったり、
大リーグに一気に行こうとしたり、
何かが変わってくると思うんです。
大後 選手が強くなる方法論が
変化していきますよね。
糸井 「ただがむしゃらに強いチームに入りたい」
というよりも、
その理念の旗の下に
人が集まるようになるんじゃないかな。

そうしたときに、
「スパルタでも何でもいいから、
 おれは強くなりたいんです。
 言われたとおりにします」
というやつのチームと、
そうじゃない、大後さんのようなチームが
ほんとに拮抗できると思うんだ。
大後 そうですね。
そこまで、がんばりたいなぁ。
糸井 前回の大会は
9位に終わったと聞きました。
それを聞いて
「ほう、そこまで行くか」みたいに
思ったんだけど、
「このサイズでは、
 最大限の力を発揮しての9位なんだ」
と、アピールできるだけの自信があったら、
その次を続けていくような
すばらしい何かができるんじゃないでしょうか。

これは、自分にもあてはめて
しゃべっているんですけど。
・・・期待しちゃうんですよねぇ(笑)。
大後 いやぁ、
わたしもいろいろ迷っているんです(笑)。
自分の、自主性を尊重したやりかたで、
いままで扱ったことのないような
すごい選手も、育っているんですよ。
そこは、すごいと思っているんです。
ただ、チームの成績としては、奮ってない。
糸井 なるほど。
大後 でも、最小公倍数の
強化はできてないけれども、
ピンポイントではいい兆しがあるんです。
将来、このなかから、
オリンピックに行けるような選手も
出てくるんだろうと思うし。
糸井 おもしろいなあ。
チームプレーのつらさですね。
大後 そうなんです。
駅伝は、やっぱり結果がすべてですから。
(つづき)

2002-02-01-FRI

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