CHILD
これでも教育の話?
どんな子供に育ってほしいかを、
ざっくばらんに。

第5回 オーラのある人材

大後 ひとりひとりの能力を見たら、
やっていることは間違ってないんです。
ただ、チームとしてまとまっていく何かが、
いまは、足りてないんですよ。

それが何なのかということを、
常に模索していて・・・。
それは、たぶん、
「人材」なんじゃないかと思うんです。
糸井 実力のある人ではなく?
大後 ええ、そうです。
いろいろ意見を言う選手はいるけど、それを
「よし! こういう形でいこうじゃないか」
と、最終的にまとめて出る人間が欲しいんです。
糸井 そういう人材ですね。
・・・よく、甲子園なんかで、
背番号が2けたのキャプテンって
いるじゃないですか。
ああいう人、欲しいですよね。
大後 ああ、まさにそうです。
ぼくはどちらかというと
主役を育てるよりは
名脇役を育てていきたいという、
強い気持ちがあるんですよ。
自分がそういうところでやってきましたから。
糸井 チーム全体が
背番号2けたのキャプテンに
従う理由は何なのかというと、
あれって・・・昔の言葉でいうと
「徳がある」んですよね、やっぱり。
大後 そうなんですよ。
オーラが出ているんですよ。
糸井 ねえ?
で、機能としては
選手になれないやつなんです。
大後 ええ。はい。そうなんですよ。
糸井 そういう子がいっぱいふえるのが
全体をいちばん活性化させますよね。
選手としてもだめだし、
勉強もできないヤツかもしれない。
でも、何かの力がある。
大後 そういう星の下に生まれて、
何かを持っているんですよね。

よく、名門のチームを率いた指導者が
後を引き継いでもらう人材を探すときに、
「努力だけでは決してつくることのできない、
 オーラがあるヤツを引っ張ってこないと
 どうにもならん」と言いますね。
糸井 でも、オーラが急に出るようになる
ケースも、あるじゃないですか。
大後 そうなんですかね?
糸井 いや、というのもね、自分は、
どっちかというと、オクテだったんですよ。
さかのぼって考えると、どこかのところで、
何回も変わっているという自覚があるんです。
そのときにはわからないんだけど。

ぼくとしては、
変わってきたその都度に、
自分なりの小さなオーラを
補強してきたような気がするんです。
・・・オーラを補強するのは
きっと、「失敗の数」なんですね。
まともに失敗できたら、それは大財産ですから。
大後 いやぁ、
今日は勇気づけられます、わたし。
糸井 自分でも、ミーティングのときなんかに、
「いいよ、失敗しても。
 ただ、ぶつかる寸前で横に避けたりすると、
 財産にならないから。
 真っ正面からぶつかって、
 とのくらい痛かったか、
 どのくらい迷惑がかかったか、
 被害があったか、
 それを、しまった! と
 心から思うような失敗だったら、しろよ」
と言うんです。
失敗ってね、みんなするんだ、また(笑)。
その場しのぎでうそを言ったり、
逃げちゃった子には、
何も残らない。
大後 財産にならないんですね。
財産をいっぱい持っているやつが
背番号2ケタのキャプテンになるんだなあ。
糸井 以前、大後さんがおっしゃっていたことで、
ぼくがしょっちゅう、ことあるごとに
使わせていただいている言葉があるんです。
「神大の先生がいっていたことだけどね」
っていうふうに(笑)。

「レギュラーの選手の指導よりも、
 レギュラーになれそうな選手の指導が
 いちばん大事だ」って。

大後さんはいつも
「補欠のトップや2番のあたりのところを
 しっかり指導すると、
 レギュラーの選手たちが刺激されて
 前に走るし、後ろの選手も希望がわく」
という話をなさっていますよね。
・・・あの理論は、ぼくはもう、
永遠のものだと思うんです。
大後 ありがとうございます。
それはわたしが、選手上がりではなくて、
マネジャーあがりの
指導者だからだと思いますね。
わたしは最近、やっぱりそこが
自分のオリジナリティーかなあと、
やっと思うようになったんです。

ですから、自分の生きる道は、
いい選手を育てることと同時に、
いい選手をサポートするマネジメントを
しっかりできる人間を大学で育てること、
かもしれないと、考えはじめています。

マネジメント人材育成のための
システムづくりを、いま、
大学でやっているぐらいですから。
糸井 大後さんの、
「2軍選手を大切にする精神」というのは、
どういうところで
つちかわれたものなんですか?
大後 学生時代です。
糸井 え、学生時代?
大後 ええ。
わたしは、日本体育大学出身なんですよ。
当時、日体大の駅伝チームには、
メンバーが130人いました。
とにかく、全国の高校から
よりすぐりの連中が集まるチームですから、
そうそうレギュラーのランクにはなれない。

ぼくはチームのいちばん下のほうにいて。
しかも、そのなかにいて、
とうとう、ケガをしちゃったんです。
「どうしようか、これじゃ
 体育大学にいる意味もないなあ」
と、思いはじめたんです。

もともと教員になりたかったんですけども、
もう、ケガによって、自分の存在価値が
どこにあるのかわからなくなって。
その時に、
「スタッフに回ってみないか」
と声をかけられました。1年生の冬です。
糸井 それで、マネージャーをやることに
なったわけですね。
大後 そうなんです。
当時、実は、日本体育大学って、
監督がいなかったんですよ。
上級生がいろんなことを
全部取り仕切っていたんです。
ヘッドマネジャーも、すごいたいへんで、
いま、ぼくがやっている監督のような仕事を、
学生の身でありながらやっていたわけですよ。
外部との交渉から、お金集めから全部。
糸井 それは、鍛えられますね。
大後 ええ。
自分も3、4年生になると、
そういう任務を負うようになる。
いまの自分がしていることは、
あのときやっていたことがベースになっていて。

監督として、いまやってることは、
当時とたいして変わっていない。
同じことをして、
いまは給料がもらえるわけで。
「こんないい仕事はないな」
って、思っているんですけど(笑)。

ぼくが4年になったときも、
まだ監督がいなかったから、
自分たちで何でもしなきゃいけなかった。
それで、箱根駅伝に出場して、
最終的には2位になったんです。
糸井 学生だけのチカラで
2位をとったわけですね。
大後 ええ。
箱根駅伝というのは行きと帰りがありますけど、
行きは優勝したんですよ(笑)。

そのときの、チームの力を押し上げた
「秘密」があるんですよ。
糸井 わぁ、何なんですか?
大後 日体大は、12月も10日ぐらいになると、
冬休みとして、
レギュラーメンバー以外、全員家に帰すんです。
10人か15人ぐらい残して、
120人ぐらいを帰します。
それで、箱根駅伝に向けて
レギュラーだけ、集中させて練習するんです。

ところがね、その年の12月25日ぐらいに、
大雪が降ったんです。
ものすごい雪が。
それで、グラウンドは
使いものにならなくなってしまった。

ふだんだったら、部員が130人いますから、
雪かきなんか、すぐできるんです。
でも、そのときはレギュラーの十何人しかいませんから、
1日かかっても、グラウンド全部の雪かきはできない。
糸井 非常事態が起こったんですね。
練習が、できないんだ。
大後 ええ。
ところが、家に帰っていたひとりの補欠の4年生が、
関東近辺に住んでいる連中に
かたっぱしから電話して、
「レギュラーで残って練習しているやつら、
 たぶん、雪かきで困ってるから、
 全員集まるように」
と、集合をかけてくれて。
25人ぐらいだったかなぁ・・・集めてくれたんです。

日体大ってすごく封建的な大学で、
4年生がグラウンド整備するなんて
絶対あり得ないことなんですよ。
糸井 あり得ないことをしたわけだ、
その4年生が。
大後 もう、爪に土を入れながら
雪かきをしてくれたんです。

それをレギュラーの下級生が見ているわけです。
涙流しているわけです。
「上級生がこんなことまでしてくれている」って。

それが、引き出したんですね。
チームの力を。ビャーッと。
糸井 ああ、すごいな、それは。
大後 学生のとき、そういう経験をわたしはしました。
涙が流れるような感動を与えられたら、
選手は自分の力に、
絶対にブレーキをかけられないんです。

だから、補欠の気持ちをわかっている選手は
必ず強くなるんです。
「あの先輩のために自分は走らなきゃいけない」
「何かのために自分は頑張らなきゃいけない」
という気持ちになれたときに、能力は
発揮されるんじゃないかと思うんです。

学生のときに経験できたことが、
わたしの財産ですし、
そういうことをみんなに教えたいですね。
糸井 雪のおかげですね。
大後 ええ、雪のおかげ(笑)。
だから「補欠の哲学」といいますか、
いつもいつも二番煎じで
甘んじている連中の哲学というのを
大事にしたいです。
それは必ず違う世界で、
成功をおさめる要因になるはずです。
糸井 いいねぇ、
その話、とってもいいですねぇ。
大後 ふふふふ。
箱根駅伝に出場している
15校のなかで、マネジャー出身の監督は
わたしだけなんです。
あとはみんな、一流の選手が監督に座っていますから。
だから、ひとつのモデルとして、
頑張らなきゃいけないなと思います。
糸井 すごいねぇ。
はじめて聞いたよ、いまの。
はあぁー。
具体的に、そういうことがあったんだ。
大後 うん。
あの経験がすべてです、わたし。
学生時代4年間の経験が、すべてです。
糸井 そうなんだぁ。
(つづき)

2002-02-03-SUN

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