糸井 |
綾戸さん、「努力してる」って
言ったけど、その努力のポイントって、
発見をしていくわけなんですか? |
綾戸 |
やっぱりお客さんに気づかせてもろて、
やらさせてもろて、また気づかせてもろて。
・・・これはほんま、嘘とちゃうねん。
わたし、ステージで努力しようとして
無理に努力してるんやない。
ふつうにやってるねん。
やっぱり、面倒くさいことは面倒くさいんです。
だけど、なんで努力するかといったら、
お客が見るから。
それは単なる「ウォッチング」じゃなく、
観察の「観る」もあるのね。
みんなの「見る」が全部わたしに来てるのよ。
そうするとアホできへん。努力するねん。 |
糸井 |
「アホできへん」と思ったら、
そこを埋めたくなるの? |
綾戸 |
うん、何かで埋めたい。
人が嫌な気持ちにならないことで埋めたい。
こっちからちゃんと投げると、
お客さん、みんな喜んでくれはるねん。
そんで、私またやる。もうイヌ状態。
ウワーン「もっといこう!」って。 |
糸井 |
お客さんがいなかったら、
綾戸さんはきっと、昔のままだったんだ? |
綾戸 |
そのまんまやわ、たぶん。
人間、ちょっとやそっとじゃ進歩せん。
そんな簡単に努力できない生きもんや。
そりゃもう、お客さんのおかげやな。 |
糸井 |
お客さん以外に影響を受けた人は? |
綾戸 |
たくさんいるけど、
まあ、事務所の社長かなぁ。 |
糸井 |
社長は綾戸さんを褒めるの? |
綾戸 |
褒めるねぇ。けど、
いやなこともちゃんと言う。
あのおっさんとは相性がいいみたいやね。
しゃべりやすいもん。 |
糸井 |
社長と綾戸さんは、
漫才のコンビみたいだよね。 |
綾戸 |
わたし、嘘ないねん、あの人には。
もう、全部言うねん。
ちょっと、お母ちゃんにも
言えんようなことでも言うとくねん。
何ぞあったときに、
「この人は助けてくれる」という気があるから。
命を救ってくれるという意味とは違うて、
ビジネスにおいて。 |
糸井 |
誰かにきちんと言っておくことで、
あらゆるものに関して
自分で悩まなくてよくなる部分が
出てくるんだよね。渡せちゃうから。 |
綾戸 |
そうやねん。
いっこずつ渡さないとね。
こんだけ仕事させてもろうてたら、
ちょっとずつ責任をみんなにわけて、
「信頼」で進めんと、やっていけないし、
成功しないと思う。
ひとりで全部を負ったら、どうなります?
百貨店の帰りと一緒よ。
袋いーっぱい持ちすぎてたら、
どこかで1個ぐらい落としてしまう・・・。
全部持ったらあかん。
これはあの人、これはあの人、というかんじで、
預けな、いかん。
ひとりで抱えてて
「どっか行ったあ!」って騒いでも
誰も助けてくれないからね。 |
糸井 |
じゃ、その「荷物」を預ける人が
まわりにいなかったときは、
自分ひとりで抱えたんだ? 重かった? |
綾戸 |
重かったぁ。
いまは、預けられへんのは家に関することだけ。
あとは全部預けられるな。 |
糸井 |
家のことはきちんとしてるほうなの? |
綾戸 |
いやぁ、これだけは他人に譲れませんわ。 |
糸井 |
あいかわらず、たんす整理とか・・・。 |
綾戸 |
バッチリです。 |
糸井 |
(笑)生活はものすごく守るんだよね。 |
綾戸 |
守る。
きのうも大阪でコンサートがあって、
みんなは1泊したけど、わたしは帰った。
洗濯物の取りこみから何から、
やっぱりちゃんとしておかないと。
「晴れ」が何日続くか、計算してるし。
「そろそろ雨やな」とか、考えたり(笑)。 |
糸井 |
それって、ふつうは
「そんなに考えて、気苦労でしょう?」
と言われるようなことだよねぇ(笑)。
綾戸さんには、平気なことなの? |
綾戸 |
というよりも、
「やっときたい」わけ。 |
糸井 |
やってないと気分悪いんだ。 |
綾戸 |
うん。
女だからとか、主婦だからとか、
そんなもんじゃなく、自分の問題。
家のことをきちんとやっておかないと、
安心して歌えない。 |
糸井 |
歌姫じゃなかったら、
すっごい口うるさいババアになったかもね。 |
綾戸 |
こうやって誰かが水を飲もうとして
コップをもち上げると、
その瞬間にわたしはテーブルを拭くからね。
もう、餅つきだよ。
上げたらポーン、掃除されてる。 |
糸井 |
病気に近いですね。 |
綾戸 |
だからわたし、絶対に
息子の嫁と同居しないもん。
いまからそう決めてるもん。 |
糸井 |
綾戸さんは、そういうしつけを
誰かから厳しく受けたりしたの? |
綾戸 |
ぜんぜん。 |
糸井 |
じゃあ、なんでなの、それ。 |
綾戸 |
そういうことを、
おふくろが一切しないから、
それがすごく嫌だったの。 |
糸井 |
反面教師ってこと? |
綾戸 |
そう。
例えばね、おふくろは、
目刺しをついこの前買ったのに、
また買って、新しいほうを食べてる。
「冷蔵庫の中で目刺しをつくるなよ」
と言いたいぐらいよ、わたしは。
古いほうがカリカリになっちゃっててね。
もう「very目刺し」になってる。
もったいなくて、わたしはいつも
古いほうを隠れて食べてた。
「捨てなさい!」と言われても、
「もったいない!」って言い返して食べてた。 |
糸井 |
すごい。言い返して古い目刺しを食べる子ども。 |
綾戸 |
それにね、たんすをあけると、
パンツが一枚も入ってないのよ?
洗濯物のとこに全部、山積みにされてる。
おふくろは、株の情報を見ながら
「平和不動産 300、ザルバ 200……。買いや!
ウワァーッ、こら天井やなぁ!」
とか、叫んでる(笑)。 |
糸井 |
おふくろは、男なんだ(笑)。 |
綾戸 |
小学生のわたしが、
「お母ちゃん、パンツないねんけど」と言うと、
「買うたらええがな、もうけてるねんから」。 |
糸井 |
すごいわ。 |
綾戸 |
わたしは、
「ウワーッ、そんなことできへん」
って思ってしまって、それからは自分で
ちゃっちゃっと、何でもするようになった。
子どものころから何でもやってるから、
仕事は早いんよ。 |
糸井 |
・・・この対談のテーマは、
綾戸さん、知らないかもしれないけど
「教育について」なんだよね(笑)。 |
綾戸 |
ああ、そしたらちょうどいいねぇ。 |
糸井 |
つまり綾戸さんの少女時代からわかる教訓は、
「いい子にしたかったら、何も教えるな」(笑)。 |
綾戸 |
そうやな(笑)。 |
(つづく)