CHILD
これでも教育の話?
どんな子供に育ってほしいかを、
ざっくばらんに。

第3回 時間に振り回されたら死ぬぞ

綾戸智絵さんのプロフィールはこちら。

綾戸 わたしは毎日寝る前に、自分の貯金を広げては、
10円玉を10枚ずつ積んで数えて、
「ああ、しっかりある」
と、確認するような子どもやった。

誰かにお金を盗まれるのが嫌なんじゃなく、
「納得」の時間を持つことと、
何というか、自分で定めた儀式のような
「決め」が楽しくてね・・・。

で、お金を計算するときには、
レコードをかけるんよ。
バーブ佐竹の
「俺とおまえの二つのグラス」
というやつを。
糸井 うわ、その曲わからねぇ!(笑)
綾戸 そういうのがあるのよ。
あれをかけると、
心が「シーン」ってすんの。
「♪俺とおまえの二つのグーラス〜」。
糸井 ああ、あった。その歌。
綾戸 これ聴くと、「シーン」として、それから、
10円玉を10枚、20枚と数えていく。
それはEP盤だったから、
すぐに1曲終わるの。
次は城卓也の「骨まで愛して」。
「♪ほねえまでぇ〜」で、今度は札を数える。
「板垣退助、あったあ、7,500えーん、チーン」。
糸井 (笑)それ、いくつくらいのとき?
綾戸 小学校2年とか3年(笑)。
お小遣いもらうと、きちんと貯めてた。
「全財産の2割って、いくら?」と計算して、
2割はどこに、3割はどこに貯めよう、
とか考えながら、アイロンかけたりしてた。
糸井 綾戸さんって、
どちらかというと繊細なんだよね。
意外と、線が細くて
しっかりしてるみたいなタイプでしょ?
綾戸 あ、そうかもしれん。
きっちりしてるしな。
糸井 だけど、多くの人がイメージする
「綾戸さん」って、その真逆だよね?
綾戸 そうだねぇ。なんでだろう?
やっぱりおふくろの影響が大きいね。
糸井 おふくろの裏を全部打っていったら、
こうなったんだ?
綾戸 うん。母は、
「ここに何かがあったら、もう動かすな」
という人なの。
「これがいちばん仕事しやすいんだから、動かすな」。
母は、ターッと手ぇのばしたら電話、
ターッと手ぇのばしたらお茶、という
小説家みたいな家が好きなんです。
・・・わたしはそういうのダメ。
糸井 綾戸さんは動かすもんね。
綾戸 わたしは何でも、毎回毎回、直す。
例えば電話機でも、
線を抜き直して、きれいする。
バッテリーまで交換しちゃうぐらい。
ちょろちょろ落ちたら、かなわんしね。
家具もなるべく少なく、きっちり。
糸井 はあ・・・。
でも、舞台を見てる人にとっては、
綾戸さんは自由に見えるでしょう?
「急に裸足になっちゃったねぇ」とか。
どこで爆発したの、「もうひとりの自分」は。
やっぱりアメリカなの?
綾戸 いや、これはねぇ・・・
「もったいないという気」やねん。

もったいないんよ、お金も時間も。
わたしはべつに、ケチじゃないけど
ウロウロしてるともったいない。
ただそれだけなのよ。

あのね、糸井さん、どうせ年はとる。
これは、自分の顔に
最初にシミができたときにわかった。
シミができたら、取れへん。
「ウワーッ、取れへん!」。
糸井 (笑)叫んだんだ。
綾戸 でも思った。
「こうやって騒いでても、何をやってても
 シミは増えていくんや」
それやったら、ほかのことしようと。
糸井 時間はない、と。
綾戸 そやねん。
だれが「時間よ、とまれ」というのを
言い出したのかは知らんけどね、
「ドラマでセリフを言うてた太田博之、
 おまえはようやった。あれは人間の願望やな」
と思った。

わたしがとまってても、時間は行く。
これぐらい情け容赦知らずな、相方はないで?
時間が自分を引っ張ってくれるときもあれば、
こっちが取り残されることもある。

こりゃあ、うかうかしてられんぞ。
こっちが時計の振り回しにかからんといかん!
時計に振り回されたら、死ぬぞ。
糸井 死ぬ?
綾戸 そうや。
時間のことを考えすぎて死ぬねん。
頭のええ人、死にはるやん?
「どうせこうだから・・・」という結論でね。
糸井 じっとしてて、考えて。
綾戸 なんか、おるでしょう? 
芥川さんとか、偉い人。
「レ・ミゼラブル」とちゃうけど、
そういうふうに、ならはるねんね。
・・・あ! これ、悪口ちゃうよ。
いろんな生き方があるやろし。

でも、せっかく親が痛い思いしたんだもん。
「あー痛い痛い痛い」って思わせて、
この世に出てきたんやったら、
考えまくって、脳みそだけで生きるのは嫌や。

全身を使いたい。
全身使って生きてやらんと
もったいないんよ。
糸井 ふむ。
指先までいっぱいに使わないと、
もったいないんだ。
綾戸 そう、もったいない。
頭だけで生きてたら、全身使えてないから、
筋肉は朽ち果てるでしょ?
脳みそばっかり大きぃなって、
で、死ぬこと考えるねん。
「ああ、どうせ、何を食べても、
 トイレ行って出して、アホみたい」

ちょっと待ってや、
「そりゃみんな、そうでんがな」
と、言いとうなる。
自然の摂理。
それを言い出したら、何もかも嫌になりまっせ。

そのすきに、時間は放って行きよるねん。
「おお、おまえは、何もせんのか。私は行くぞ」。
どうや、糸井さん。
糸井 それは、やだねぇ。
綾戸 「おお、おまえは追っかけて来るのか、
 おお、来い、来い。
 おお、おまえ、これもやった。
 あ、あれもやった。それもやったんか。
 おお、あんた、よく使いよるな、わしを」
と時間が言いよるわけ。
時間に喜んでもらうには、
やっぱり何やかんや、いっぱいせんとあかん。
糸井 時間に喜んでもらう、か。
綾戸 時間は、テレビも変えましたさかいな。
「クイズ タイムショック」。
ピッピッピッ、
「3と5足すと何でしょう?」
「速く答えなきゃ。あ、えっ・・・」、
「8と5足すと何でしょう?」
「あ、えー・・・」、
いすが回るねん。グウーッ。
「3と5ぐらい計算できるわ、あっちゃあ」
と思ってる間に、いすが回りよる。
「ああアカンわ、
 時計に負けよった、あのおばはん」(笑)。
賢いとかアホとかいうのやなしに、
「おまえは負けぇ」ということやね。
知ってる? 糸井さん、
田宮次郎の「タイムショック」。
糸井 (笑)知ってるよ。
綾戸さん、いくつのときだった?
綾戸 小学校の3、4年や。
糸井 そんなガキ時代の綾戸智絵が
思ってたんだ、テレビ見て。
「使えないことを考えてもしようがないんだな」と。
綾戸 うん。
「イリカワ」とかいう名前の、大阪のやつが
タイムショックですごい点取った回があった。
ばんばん答えるし、
だめなときにはサッとパスして次に行く。
こいつぅ、やるなあ思った。
糸井 時間の使いかたがうまいんだ。
自分もそれでいこうと思った?
綾戸 そうだよ。
糸井 綾戸さんの「のびのびぐあい」も、
もとはといえば、
「もったいない」という思いから来てるんだ。
綾戸 まったくそのとおりやね。
最初のシミも小学生で、できたし。
糸井 え、小学生のときにシミが?
綾戸 できるんよ、太陽でね。
もう、ショックやったわぁ(笑)。
(つづく)

2002-02-13-WED

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