糸井 |
「犬も先生だ」
というところまでいった綾戸さんだけど、
音楽については、ほかに
どんなことが「先生」になった? |
綾戸 |
やっぱりシナトラとか
ディーン・マーチンの映画かな。 |
糸井 |
ほぅ、そうくるんだ? |
綾戸 |
うん。あの時代の映画だね。
ボブ・ホープとか。 |
糸井 |
綾戸さん、
ぼくより古いこと言うね。 |
綾戸 |
おませだったのよ。
ちょっと年代が上の人と
話が合うもんな。 |
糸井 |
そうとう変ですよね。
実は、前世からそのまま生きてるとか? |
綾戸 |
2度目やねん、この人生(笑)。
フランク・シナトラを聴きながら、
ブランデーグラスにグレープジュースを入れて、
おふくろの、ポーズだけ真似してた。 |
糸井 |
こわい子どもやなぁ(笑)。 |
綾戸 |
シナトラ聴きながら、
鉛筆持って「オー、イエーッ」言いながら、宿題する。
で、「あ、7時や」と思ったら
テレビの前にバーッと走っていって、
「狼少年ケン」を見るのよ。
「ボボンボ、ボンボン、・・・狼少年ケーン!」
終わったらすぐさまシナトラに戻って
「オオオ〜♪」(笑)。 |
糸井 |
スイッチが
チャカチャカ変わるんだ。 |
綾戸 |
そうそう。 |
糸井 |
そういえば、
ステージも展開が早いもんね。 |
綾戸 |
なりきりが早いねん。 |
糸井 |
きっと、お客さんが
置いていかれることも
あるんだろうね。 |
綾戸 |
あるある。
スタッフによく言われるんよ。
「おれはウケてるけど、
ちょっと早いです、綾戸さん」。 |
糸井 |
「もうさっきのとは違うでぇ」
っていうかんじで、
ガンガン次に行くものね。
でも、お客さんは、
どこかへ連れていかれる楽しみがある。
だから、それに慣れると
たまんなくなるんだよね。 |
綾戸 |
でも、じつはわたし、
恥ずかしがりなのよ。 |
糸井 |
やってることが全部
恥ずかしくない、みたいに見えるけど(笑)。
たしかに「照れ」みたいな部分は
あるよね、綾戸さんの中に。 |
綾戸 |
ポッと赤くなったりするんよ。 |
糸井 |
かわいい男を見たら? |
綾戸 |
(笑)そうそう。ポーッ。
はじめてエッチなビデオ見たときには、
そりゃびっくりしたわ。 |
糸井 |
プッ(笑)、
恥ずかしかったんだ? |
綾戸 |
好きな人の前で
いちばんできへん格好ですやん?
あんなん、大事な、尊敬する、
愛する人とできへん。
みんな、ようするわ、と思った。
嫌なやつの前やったらできるけどな(笑)。
でもね、やっぱりね、
できるようになるねんね、
びっくりやわ、ハハハ。 |
糸井 |
学んでしまったんだ、
エロビデオから(笑)。 |
綾戸 |
いや、すごい格好やで、あれ。
でも、どんどんそれを、
エクスタシーのなんとかとか
思うようになったら
できるようになってきたけど。 |
糸井 |
それ、この年の人が言うには、
うぶな気も・・・。 |
綾戸 |
恥ずかしいわぁ。 |
糸井 |
エロビデオからも学ぶ綾戸さんですが(笑)、
停滞することってないんですか。 |
綾戸 |
・・・生きてる以上は、ないなぁ。 |
糸井 |
ずーっと動いてるんだ。 |
綾戸 |
うん。
わたしって、胃袋みたいなもんや。
睡眠中も動いてる。
夢で思いついたことがあったときは、
ふっと起きて、書くもん。 |
糸井 |
起きられるんだ。すごいね。 |
綾戸 |
よっしゃ、答えが出たぞ、
ワーッと書く。
それで、またクーッと寝る。 |
糸井 |
便利だねぇ(笑)。
ぼくは綾戸さんと共感できる部分が多いんですよ。
「生きてるかぎり、すべてが先生だ」
というのも、そうだし。
それに、綾戸さんは、
何事にも飛び込んでいくけど、
「恥ずかしがっているだけじゃだめだ」
という自覚があって、
実際は我慢して、息をとめてから、
ポンと飛び込むわけですよね。 |
綾戸 |
そうです、じつはね。 |
糸井 |
実際、そういうところには、
自然に飛び込めるものではない。
きっと勇気みたいなものが要る。 |
綾戸 |
うん、それは、ものすごくね。
「1、2、3、ドーン」みたいなの。 |
糸井 |
そうですよね。
1、2、3は必要だ。 |
綾戸 |
うん。 |
糸井 |
ぼく、スカイダイビングを
やったことがあるんですけど、
そのときの合図が
「レディー・セット・ゴー」
というんですよ。 |
綾戸 |
いいですねぇ! |
糸井 |
「レディー」で飛行機から足を下に垂らして、
落ちる格好をするんですよ。
覚悟を決める。
おもしろいのは、
次の「セット」で
いったん後ろに下がるんですよ。 |
綾戸 |
勢いをつけてからね。 |
糸井 |
うん。
で、「ゴーッ!」と叫んで落ちる。
「レディー」のときにもう
覚悟が決まっちゃうんだけど、
「セット」で間を取らないと、
決めた覚悟がほんとかどうか、わからないじゃない? |
綾戸 |
それやな。 |
糸井 |
よくできてるなと思ってねぇ。
おれ、ものごとがわかんなくなったときには、
とにかく「レディー・セット・ゴー」を
思い出すんですよ。
おれはそんなにどこへでも
飛び込めるタイプじゃない。
実はだれとも会いたくないような人間なんですよ。
そこをなんとかやっていくためには、あの合図は
ものすごい助けになる。 |
綾戸 |
よくわかります。 |
糸井 |
技術だよね、一種の。 |
綾戸 |
うん。コントロールと技術。 |
糸井 |
だから、自然に、放っておいたりすることで
人間が何か新しいことを学んだり
飛び込んだりということは、じつは無理。
そこには技術が必ずあるんだね。 |
綾戸 |
うん、経験もね。 |
糸井 |
そうか。「やったことがある」という気持ちね。 |
(つづく)