CHILD
これでも教育の話?
どんな子供に育ってほしいかを、
ざっくばらんに。

第6回 レディ・セット・ゴー

綾戸智絵さんのプロフィールはこちら。

糸井 「犬も先生だ」
というところまでいった綾戸さんだけど、
音楽については、ほかに
どんなことが「先生」になった?
綾戸 やっぱりシナトラとか
ディーン・マーチンの映画かな。
糸井 ほぅ、そうくるんだ?
綾戸 うん。あの時代の映画だね。
ボブ・ホープとか。
糸井 綾戸さん、
ぼくより古いこと言うね。
綾戸 おませだったのよ。
ちょっと年代が上の人と
話が合うもんな。
糸井 そうとう変ですよね。
実は、前世からそのまま生きてるとか?
綾戸 2度目やねん、この人生(笑)。
フランク・シナトラを聴きながら、
ブランデーグラスにグレープジュースを入れて、
おふくろの、ポーズだけ真似してた。
糸井 こわい子どもやなぁ(笑)。
綾戸 シナトラ聴きながら、
鉛筆持って「オー、イエーッ」言いながら、宿題する。
で、「あ、7時や」と思ったら
テレビの前にバーッと走っていって、
「狼少年ケン」を見るのよ。
「ボボンボ、ボンボン、・・・狼少年ケーン!」
終わったらすぐさまシナトラに戻って
「オオオ〜♪」(笑)。
糸井 スイッチが
チャカチャカ変わるんだ。
綾戸 そうそう。
糸井 そういえば、
ステージも展開が早いもんね。
綾戸 なりきりが早いねん。
糸井 きっと、お客さんが
置いていかれることも
あるんだろうね。
綾戸 あるある。
スタッフによく言われるんよ。
「おれはウケてるけど、
 ちょっと早いです、綾戸さん」。
糸井 「もうさっきのとは違うでぇ」
っていうかんじで、
ガンガン次に行くものね。

でも、お客さんは、
どこかへ連れていかれる楽しみがある。
だから、それに慣れると
たまんなくなるんだよね。
綾戸 でも、じつはわたし、
恥ずかしがりなのよ。
糸井 やってることが全部
恥ずかしくない、みたいに見えるけど(笑)。
たしかに「照れ」みたいな部分は
あるよね、綾戸さんの中に。
綾戸 ポッと赤くなったりするんよ。
糸井 かわいい男を見たら?
綾戸 (笑)そうそう。ポーッ。
はじめてエッチなビデオ見たときには、
そりゃびっくりしたわ。
糸井 プッ(笑)、
恥ずかしかったんだ?
綾戸 好きな人の前で
いちばんできへん格好ですやん?
あんなん、大事な、尊敬する、
愛する人とできへん。
みんな、ようするわ、と思った。
嫌なやつの前やったらできるけどな(笑)。

でもね、やっぱりね、
できるようになるねんね、
びっくりやわ、ハハハ。
糸井 学んでしまったんだ、
エロビデオから(笑)。
綾戸 いや、すごい格好やで、あれ。
でも、どんどんそれを、
エクスタシーのなんとかとか
思うようになったら
できるようになってきたけど。
糸井 それ、この年の人が言うには、
うぶな気も・・・。
綾戸 恥ずかしいわぁ。
糸井 エロビデオからも学ぶ綾戸さんですが(笑)、
停滞することってないんですか。
綾戸 ・・・生きてる以上は、ないなぁ。
糸井 ずーっと動いてるんだ。
綾戸 うん。
わたしって、胃袋みたいなもんや。
睡眠中も動いてる。
夢で思いついたことがあったときは、
ふっと起きて、書くもん。
糸井 起きられるんだ。すごいね。
綾戸 よっしゃ、答えが出たぞ、
ワーッと書く。
それで、またクーッと寝る。
糸井 便利だねぇ(笑)。

ぼくは綾戸さんと共感できる部分が多いんですよ。
「生きてるかぎり、すべてが先生だ」
というのも、そうだし。

それに、綾戸さんは、
何事にも飛び込んでいくけど、
「恥ずかしがっているだけじゃだめだ」
という自覚があって、
実際は我慢して、息をとめてから、
ポンと飛び込むわけですよね。
綾戸 そうです、じつはね。
糸井 実際、そういうところには、
自然に飛び込めるものではない。
きっと勇気みたいなものが要る。
綾戸 うん、それは、ものすごくね。
「1、2、3、ドーン」みたいなの。
糸井 そうですよね。
1、2、3は必要だ。
綾戸 うん。
糸井 ぼく、スカイダイビングを
やったことがあるんですけど、
そのときの合図が
「レディー・セット・ゴー」
というんですよ。
綾戸 いいですねぇ!
糸井 「レディー」で飛行機から足を下に垂らして、
落ちる格好をするんですよ。
覚悟を決める。
おもしろいのは、
次の「セット」で
いったん後ろに下がるんですよ。
綾戸 勢いをつけてからね。
糸井 うん。
で、「ゴーッ!」と叫んで落ちる。

「レディー」のときにもう
覚悟が決まっちゃうんだけど、
「セット」で間を取らないと、
決めた覚悟がほんとかどうか、わからないじゃない?
綾戸 それやな。
糸井 よくできてるなと思ってねぇ。
おれ、ものごとがわかんなくなったときには、
とにかく「レディー・セット・ゴー」を
思い出すんですよ。

おれはそんなにどこへでも
飛び込めるタイプじゃない。
実はだれとも会いたくないような人間なんですよ。
そこをなんとかやっていくためには、あの合図は
ものすごい助けになる。
綾戸 よくわかります。
糸井 技術だよね、一種の。
綾戸 うん。コントロールと技術。
糸井 だから、自然に、放っておいたりすることで
人間が何か新しいことを学んだり
飛び込んだりということは、じつは無理。
そこには技術が必ずあるんだね。
綾戸 うん、経験もね。
糸井 そうか。「やったことがある」という気持ちね。
(つづく)

2002-02-21-THU

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