糸井 |
子どもが学校に行かないと、
どこかから怒られたりはしないの? |
綾戸 |
しました。 |
糸井 |
あ、やっぱり。
それはどうしたの? |
綾戸 |
怒られたときに、その担当の人に
「あんた、そしたら、
『学校に行ったらこの子の人生は明るく開けて、
ハナマルな、すごいいい人生になります』
って誓約書書いてくれる?
それだったら、学校行かせるわ」
と言ったの。
そうしたらその人は、
「いや、書けません」
って答えた。
「学校に通うというのは、約束ごとなんで」
「約束ごとって、いま世間で、
いろいろつぶれてるじゃない。
『こうなってたことがだめになった』
ということがあるじゃない。
学校に通う、という約束ごとも、
時代でつぶれることあるかもしれんでしょ?」
「あるかもしれません」
「そんなことに、あんた、かけられへんわ。
死ぬときは、わたし
息子殺して自分も死ぬから大丈夫」。 |
糸井 |
ハハハハ。
じゃあさ、子どもの、
普通の「読み書きそろばん」にあたる勉強は、
綾戸さん自身が教えたの? |
綾戸 |
わたしとおばあちゃんと、
それから世間とね。 |
糸井 |
教科書みたいなのって使ってる? |
綾戸 |
うん、世界。 |
糸井 |
え? 世界! |
綾戸 |
まずは地下鉄だね。
地下鉄の、駅名の漢字を全部読ませた。 |
糸井 |
おもしろいなぁ。
よく考えたら、画一的に教えるより、
労力はかかりそう。 |
綾戸 |
最初に地下鉄の、
500円のマップを買ってきて。子どもに、
「おい、ひとりで麻布十番まで行ってこい」。
どこで乗りかえるか、どっちに乗るか、
漢字読めなかったらできないでしょう?
子どもは漢字を一生懸命見て、
「ママ、あのシン、シンヤド……」
「新宿だね」
「ああ、ジュクとも読むんだ」。
それから、看板も教科書になる。
「あ、ママ、スズメのおジュク」
「ヤドだ、あれは」
とか言うてね(笑)。
だから、あいつは
「出る」を「イデル」と読んでたの。
ガソリンスタンドの出光(イデミツ)で
覚えたからね、あの漢字を。 |
糸井 |
はあ・・・。
じゃ、同じ年代の子が
どういうことを学んでるかなんてことは、
綾戸さんにはあんまり関係ないんだ。 |
綾戸 |
うん、知らない。 |
糸井 |
それ、気にしはじめたら
どうなるのかな。 |
綾戸 |
一時期、すごく気にしたことがある。
「こうしないとだめですよ」と周りに言われて、
すっごく迷ったんだけど。
ワアワア、ワアワア、きりがないからね。
あるとき
「もうやめよう、聞かんとこう」
ということにした。 |
糸井 |
そうだよね。
例えば、社会科でいえば
「小学4年生で地元のことを習って」とか、あるでしょ?
その後、日本を習って、世界を習う。
でも、その順番で習ったって、
テストで0点取り続けたら
習ってないのと同じことじゃない? |
綾戸 |
テレビ見ててびっくりしたことがあるんよねぇ。
街頭で「アメリカのシカゴはどこですか」
と質問されて金髪の高校生が答えられなかった。
びっくりした。
あの「赤っ恥」いう番組は
じつにわたしを揺るがすね、ええ番組や(笑)。
あれ見たときに、
「おっ、大丈夫だ。あの子ら、セーラー服着て、
学校に10年近くは行ってるのに
シカゴがわからない。
うちの息子のほうが知ってる」
飛行機乗ってるとき、教えたからね。
ナビの画面見ながら。 |
糸井 |
でもそれは逆に、
面倒くさがりの親には大変なことなんだろうね。
学校に行ってさえいれば
安心していられるんだから。
そこのところを綾戸さんは
そうはいかないもん。
「今度はこれを教えよう」とか、
思いつくわけでしょう? |
綾戸 |
そう、思いつく。
麻布十番の漢字を全部読めるようになったら、
「あれをアザと読んだり、アサと読むんだよ。
ブはヌノだよ」
と教える。
「カケブさんじゃないんだね」
「カケフだよ」
とか言うてね。 |
糸井 |
同時にいろんなことを
いろんな角度から経験させることもできる。 |
綾戸 |
そうですね。
それと、自分の知らないことは、
誰かに電話をかけて、聞く。
あるとき子どもが
「アフガニスタンとかカザフスタン、
あのスタン、スタンって何なの?」
って聞いてきた。
「ママもわからない」(笑)。 |
糸井 |
スタンだらけの場所だものね。 |
綾戸 |
「人種のことかな」
とか、わたしもいろいろ考えて、脳みそ使う。
子どものほうも
「いや、あそこはクルド人とかいろいろいるから、
人じゃないの? それとも王国ってことかな」
とか、いろいろ言ってるの。
「わかんない。ママはそのぐらいの程度やねん。
あのおっちゃんやったら
知ってるかもしれないから、
電話で聞いてみよう」 |
糸井 |
大人がわからなきゃわからないで、
「このくらいわからない」
ということがわかるしね。
子どもが地方公演なんかに
ついていったりすることもあるの? |
綾戸 |
あるよ。でも、自分のシチュエーション考えて、
「メンバーとこの曲を合わせないかんから、
すごい時間がかかる」
と思ったときなんかはやめるし、
おばあちゃんが体調悪いとか、
子どもと一緒に行くことで
雰囲気が丸くなるときは連れていく。
めったやたらに連れていくんじゃない。 |
糸井 |
じゃ、ある意味では、遠いメンバーだね。 |
綾戸 |
そうだね。いろんなことを
判断しつつ、そのときに応じたやりかたで。 |
糸井 |
胃にあたる綾戸さんの脳が
いちいちそういうことを
判断し続けているわけだね。 |
綾戸 |
うん。ファジーにするわけ。 |
糸井 |
その都度というのがすべてなんだね。
決まりをつくらないで。 |
綾戸 |
はい。
そのときに考えればいいことは、そのときに。
だから、よく寝れる。
3時間、ピターッと寝ます。 |
糸井 |
え、3時間なんですか? |
綾戸 |
3〜4時間で充分ですね。 |
糸井 |
・・・ナポレオンみたい。 |
綾戸 |
1万人か10万人に1人の割合で、
寝なくていい人いてるっていうでしょう?
あれかもね。
でも、旅に出ると寝ちゃうよ。
6〜7時間寝ちゃう。
でも、やっぱり家族がいたら、
3〜4時間ですね。
朝はパチって目があいたら、すぐに動くの。
「アアーッ」とか伸びたりすることもない。
寝るときは、「おやす・・・」。
「み」がないからね(笑)、言うてる間に寝てる。
起きるときは、「おはよう!」の「よう」のときには、
もう布団から出てる。
「おはよう、さあて」と言うてるそばから
ガーン、チーン、ガスの火をつける。 |
(つづく)