CHILD
これでも教育の話?
どんな子供に育ってほしいかを、
ざっくばらんに。

第11回 語りと歌は同じになる

綾戸智絵さんのプロフィールはこちら。

糸井 この間のコンサートでさ、
遅れて来たお客さんがいたじゃない? 
綾戸 もう最後のほうだったよね。
糸井 「たどり着いた」ってかんじで、
おじさんが来たじゃないですか。
綾戸 うん。ステージからそれが見えて、
うれしかったんよね、わたし。
それで、ほんとは
もう1回やる予定じゃなかったけど、
人間ラッパを
このおっちゃんのためにと思って、
「スペシャルよ」言うて、
ププップッとやった。
あそこ、ほんとはスキャットだった。でも、
「さっき、プップッやったのに、
 このおっちゃん見てないがな」
と思うたから、もういっぺんやっちゃった(笑)。
糸井 お得だったよね。
綾戸 そしたら隣に座ってる人が、えらい笑うてる。
・・・いやちがう。
笑うてるのや思とったけど、泣いてる。
その人の奥さんや。隣で泣いてた。
こんなおもろいことしてるのに、
なんで泣くんやろうと思った。
糸井 だって、夫婦でコンサートに行くなんて、
つとめ人だったらすごい特別の日だよ? 
そんな日に夫は来ないでさ・・・。
だけど、最後に来てくれて、
綾戸さんは特別なサービスをしてくれたわけで。
綾戸 笑いすぎて涙が出てるのかと思ったら、
ちゃうかった。
びっくりした。
糸井 ぼくみたいな、ほかのお客にとっても
スペシャルになっちゃった、結局ね。
おもしろかったなあ、あれ。
綾戸 あそこであのおっちゃんが、
もうひとつストーリーをつくってくれたんです。
糸井 遅れて会場に入ってきたお客が
ショーを演出したんですよね。
綾戸 うん。例えばね、
ステージからお客に話しかけるでしょ。
「おばちゃーん、大丈夫? 
 ええべべ着てきて、
 どないしたん?」って。
そしたら、数日後にメールが来た。
そのおばちゃんの、娘さんから。
「実は、コンサートのためにわたしが買った
 母への最初のプレゼントの、
 ワンピースだったんです」
と。もうそこで、その人の人生に
あのコンサートがへばりついているわけ。
うれしいねぇ。
糸井 それはやめられんわ。
綾戸 やめられへん。
プロポーズに加担したこともあったしな。
糸井 へぇ、ご結婚があったの。
綾戸 「アイという名前のガールフレンドがいます。
 綾戸さんのコンサートのある日に、
 結婚を申し込もうと思っています。
 勇気を出す一曲を下さい。内藤」
とかいうメールが来てね。
よし、やったろかって思って。

彼女の名前はアイや。
ミチコとかタネコやったら
やりにくいけど、アイ。
男のほうの名前は内藤。

「トゥナイト」という歌があるのね。
その曲にのせて、
「トゥ内藤・オー・ゲット・メリー・アイ〜」
とやったのよ。
アイちゃんは「えっ?」とびっくりしたらしい。
そして、ふたりで目ぇ見合ったんだって。
糸井 ゾーッとしたかもしれない。
綾戸 うん、ゾーッとしたって言ってたよ。
糸井 それで、ふたりはめでたく結婚したの?
綾戸 うん。オーケーだったんだって。
それで、わたしが冗談で、
「おまえ、わたしのおかげで助かったんだから、
 アルバムを引出物にしろ」
と手紙を書いて送ったの。
そしたら、ほんまにしよった(笑)。
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糸井 すごい話だねぇ。
綾戸 うん。でもね、結局はその内藤という彼が、
人を動かすような文を書いたことが大切なんだ。
彼は書いた。私は立った。
それでもって、こんなドラマが生まれた。
「けんかしたときはこのCDかけます。
 別れられないよ、ぼくたちは」
・・・いいねぇ。
糸井 綾戸さんの話を聞いていると、
歌は歌ってないけど
コンサートに近いものがあるよ。
おんなじだね。
綾戸 そうだね、いつもなんでも一生懸命。
ただそれだけ。
糸井 脳が変になって音楽できなくなったら、
「しゃべり」でいけるね。
綾戸 ああ、そうかな。
最終的にはやっぱり、もう
語りと歌は同じになるからね。
糸井 現にいま、相当近いものね。
生きざまぜんぶ、アドリブというか。
綾戸 同じ曲でも、いつもテンポ違うもん。
客の拍手の大きさやタイミングによって変わるよ。
糸井 バンドのメンバーも、
ぶっつけ本番みたいなパワーがあるし。
大勢素人を歌わせたりとか、こっちが
「弱ったもんだな」と思うようなことを
あえてやるよね。
必ず自分をやりにくくするような要素を
ひとつ入れたりする。
綾戸 うん。
足引っ張ってくれるメンバーは、ありがたい。
何もかもひっくり返してくれるときもあるし。
糸井 そこを期待するわけだ。
綾戸 マイナスなシチュエーションは
絶対値を上げるからね。
糸井 なるほど。
絶対値はどんどん上げていかないとね。
(おわり)

2002-03-08-THU

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