糸井 |
多摩美で審査員したとき、
横尾さんは水準が低いといって
怒り出して帰っちゃったんですよね。
みんな、真っ青になったんだけど、
「いいんだよ、横尾さん、ああなんだから。
ほんとに怒ってるだけだから」
って言っておきましたよ(笑)。 |
横尾 |
審査員席をたって、怒っておもてに出た途端に、
糸井さんのお嬢さんが走ってきて
ぼくに謝礼を渡したんだよ。
「いや、ぼくはそんなもの要らない」
とお断りしたんだけどね。
だって、ぼくはやるべきだったことを
ちゃんと全うしてないんだからさ。
でもちょっと、かっこいいこと言いすぎたかなぁ・・・。
あのときのお金、どうなったの? |
糸井 |
どこにあるんですかねぇ。 |
横尾 |
わからない。
お嬢さんが使い込んでるんじゃないか(笑)? |
糸井 |
(笑)そんなことはないよ。
もう、あのあとどうやって横尾さんに謝ろうか、
みんながもめたんだから。 |
横尾 |
謝るなんておかしいよ。
ぼくが勝手に帰ったんだから。 |
糸井 |
でも、あそこにいたほかの審査員がみんな
「横尾さんがいちばんアートだったなぁ」
って言ってたんです。
ふつうは、
「まあ、悪いなりにもいいものがあるじゃない?」
みたいな話でごまかしちゃうでしょう。
でも、審査会途中で横尾さんは
「つまんない。これを審査すると
自分がだめになる」
と言って席をたった。
寸前まで、「我慢していようかな」って
言っていたんだけど、
「やっぱり帰る」って、急に(笑)。
ああいうふうに横尾さんが言うと、
みんな、気分がいい。 |
横尾 |
まぁ、失礼いたしました。
実はあのあと、
ぼくは評判を落とすんだろうなぁと
心配だったんだけど。 |
糸井 |
ぜんぜん大丈夫だったよ。 |
横尾 |
学校中に「ぼくが怒って帰った」という噂が
あっという間に広まったんだろうな。
大人げないかなと思ったけど、
ああいうことを我慢すると、
やっぱり体によくないんだよ。
ぼくは体の要求に従いますから。
頭では「ここにいたほうがいい」
というのはわかるけど。 |
糸井 |
でも、ああいうことをできる人間で
ありたいですね。 |
横尾 |
糸井さんはできる人じゃない? |
糸井 |
あのときは横尾さんに先を越された
というのもあるけど、でもまあ、
あのくらいの我慢は
やっちゃうんですよ、ぼくは。
大人相手のときは、
「怒らせてみよう」と思ったりするから
席をたつようなこともあるんだけど、
今回は「相手は子どもだ」っていう気持ちがあって。 |
横尾 |
ハハハ、偉いなあ。
いや、ぼくはやっぱりちょっと
理性を養わなきゃいけないね。 |
糸井 |
ハハハ。 |
横尾 |
理性の重要性は年とともにだんだんだんだん、
感じてきてるんだけどね、やっぱり。 |
糸井 |
ああいうことひとつひとつにつきあってると
疲れちゃうしね。 |
横尾 |
うーん。
あのまま審査を続行してたら、
シンポジウムだの何だのが、まだあるでしょう。
それに全部つきあってると、もっとつらかった。
そのうえ、今度は審査員の
仲間同士に向かって、ぼくは
わけわからないこと言ってしまうかもしれない。
今よりも自分が更に怒り出すかもしれないから、
帰ってよかった。 |
糸井 |
「ちょっとこの作品いいんじゃない?」
とか言い出す人がいたら、
「それをいいってどうして言えるんだ!」
とか言いたくなりますよね。 |
横尾 |
うん、そうなの。 |
糸井 |
ハハハ。
横尾さんみたいな、
「この人しかそういう人はいない」
っていう人間をつくるには
どうしたらいいんでしょう? |
横尾 |
え、どういうこと?
そりゃぼくは、ひとりですよ。 |
糸井 |
つまり
「人間はみんなひとりずつ違うんだよ」
って、よくいわれるけど、
それをどうつくるかということについては、
方法がないですよね。
「こういう人に育てたい」みたいに、
同じ人間をつくる方法論はあっても。 |
横尾 |
まあ、ぼくのことは別として、
方法がないからいいんじゃないの?
方法論に従うということは、
やっぱり何かに類似したり、
慣例に従わなきゃいけなくなるじゃない?
だから、「方法がない」というのは、
ぼくは理想的だと思う。
絵に関しても、そう。
方法は必要ないんじゃないかと思ってる。
まず先に方法論があるというのは、
もうその時点で限定されちゃうよね。
そう言うとなんだかアナーキズムみたいだけど。 |
糸井 |
方法論がないという生き方を
選んじゃった人の
楽しさとつらさって、
両方あると思うんです。 |
横尾 |
まあ、
第三者に好かれたいか好かれたくないかという、
その判断は
出てきますけれどもね。 |
糸井 |
うん、うん。 |
横尾 |
若いころはよけい、そうだと思うの。
これから何かいろんなことを実現していくたびに、
人の力も借りなきゃいけないでしょう。
ある年齢に達したら、
「もういいか」みたいなところはあるね。 |
糸井 |
年を重ねたから
こういうふうにスカッとしちゃった? |
横尾 |
いやいや、むしろ我慢してるものもあるし。
我慢してるものが、鬱積が、たまりにたまって、
それが爆発して、
それでその反対の行動に走るということはありますよ。
瞬発力をつけるために我慢も必要かな。
我慢したということと爆発という
両極の落差ができるだけ大きいほうがいいですよね。
エネルギーとして。 |
糸井 |
うん、エネルギーが高いですよね。 |