糸井 |
横尾さんはいろんなことを全部
自分でつかんできたみたいに見えますけど、
誰かに何かを教えてもらった覚えって
ありますか? |
横尾 |
田中一光さんのことは、よく覚えてるよ。
さっき話した
「最近亡くなった父親みたいな人」っていうのは、
一光さんのことなの。 |
糸井 |
急でしたものね。 |
横尾 |
うん。
若い頃、東京に来てはじめて喫茶店に入ったときに、
一光さんに
「コーヒーにする? 紅茶にする?」
と聞かれて、
「どっちでもいいです」
って答えたら、
えらく怒られたんだよ。
東京でやっていく場合には何事にも
白黒はっきりつけなきゃいけない。
そう、一光さんは教えてくれたんだと思う。
でもまぁ、その判断の基準というようなものを
ぼくは性格的に持ち合わせてないわけよ。
いつも、はっきりいって、
どっちでもいい。 |
糸井 |
横尾さんが「どっちでもいい」ってときは
ほんとにどっちでもいいんですよね。 |
横尾 |
うん、どっちでもいいの、ほんとに。
だから、相手にどっちか決めてって言うの、
そういうときは。
そのほうがよっぽど楽だしさ。 |
糸井 |
一光さんから
「はっきり決める」ことの大切さを教えられて、
でも自分にはそういうことはできないと
思ったんですね。 |
横尾 |
そうだね。
こうやって「どっちでもいいんだ」という生き方を
選んだのも、
一光さんに教わったからかもね。 |
糸井 |
あと、影響を受けた人というのはいますか? |
横尾 |
あとは、三島由紀夫さん。
実は、三島さんが亡くなってから
だんだん気づいてきたんだけれどね、
ぼくは三島さんから「礼節」を学んだと思う。
ぼく、人間として
もっとも礼節がないタイプなんだよ。 |
糸井 |
礼節、ですか。
それは、礼儀みたいなもの? |
横尾 |
「エチケット」というと軽すぎて、
フランス料理の食い方みたいになっちゃうな(笑)。
三島さんがぼくに伝えたかったのは、
やっぱり礼節だね。
例えばいろんな人から
手紙をもらったりしても、
返事を書かなかったり、
連絡しないでほったらかしになっていたりする。
そういうことはひとつずつ
片づけていかないとだめだとか、
そういうことだよ。 |
糸井 |
横尾さん、そういうことは
あんまり意識してこなかったんですか。 |
横尾 |
そういうの、考えたこともない。 |
糸井 |
・・・すごいですね。 |
横尾 |
うん。礼節ということ自体が、もう
生きていくために
障害になると思ってた。 |
糸井 |
いや、それはぼくもわかります。
たとえばぼくは
年賀状を出すのをやめて何年か経つんですけど、
やめるって決めたときは
気持ちよかったものです。 |
横尾 |
でも、糸井さん
お中元をやめてないじゃない? |
糸井 |
やめてますよ。 |
横尾 |
あれ? やめたの? |
糸井 |
やめてます、とっくに。
お中元、お歳暮、年賀状、全部やめてます。 |
横尾 |
あれ、おかしいなぁ。
やめちゃったの? |
糸井 |
はい。 |
横尾 |
でも・・・
印象としては毎年来てるような気ィするけど。 |
糸井 |
それは、お中元、お歳暮と関係なく
ぼくが「使って下さい」と
お送りしているものが
そういう印象になっているだけじゃないですか? |
横尾 |
そうか。
あの細長い、
いっぱい字が書いてある手書きの手紙も? |
糸井 |
あれをやめたんです。
あれをやめて
インターネットにしたんですよ。 |
横尾 |
「重里にあいさつしてもらいたい人は
インターネットを見なさい、
そうしたら、あいさつしてくれる」
と、こうなんだね? |
糸井 |
(笑)あえて言えばね。
(金物がぶつかった音) |
横尾 |
あっ、その音、なにか
頭をどつかれたみたいな音を想像するね。 |
糸井 |
ごめんなさい、ぶつかっちゃって。 |
横尾 |
ねぇねぇ、頭をどつかれたときを
思い出さなかった? |
糸井 |
え・・・?
ああ、ぼくはね、除夜の鐘です。
ちゃちな、除夜の鐘を思い出した(笑)。 |