糸井 |
先生と呼べるものがない、ということは、
横尾さんは、何もかも自分で決めて、
自分で決めたように流れていくのが
いちばんいい、ということでしょうか。 |
横尾 |
うん、そうだね。
そこに社会がなきゃ、
もっといいです。 |
糸井 |
じゃあ、法律や規則があったりするのは、
ほんとにつらくて
しようがないでしょう。 |
横尾 |
うーん。だけど、法律に関しては、
法律に従ったほうがもう
面倒なくっていいじゃない。
法律の網の目をくぐりながら
脱税の知識とか知恵を授かって(笑)、
やろうと思えばできなくないけど。 |
糸井 |
かえって手間ですよね。 |
横尾 |
うん。だから、そんなことをして、
無理にお金や時間を使ったりするんだったら
払っちゃえば、
みたいなところがあるよ。 |
糸井 |
横尾さんは、
いちばん面倒くさくない方向に
行こうとするという
習性があるわけね。 |
横尾 |
うん、それはある。
だから、そういう意味で、
ぼくはごく平凡な普通の人として生きてる。 |
糸井 |
そうなのかもしれないです。 |
横尾 |
まったく普通の人だと思うの、ぼくは。
平凡に生きるということは、
そういうことなんじゃないかな。
でも、「参観日には学校に行く」という、
そういう平凡さはないのよね。 |
糸井 |
面倒だけは避ける、平凡な人。 |
横尾 |
うん。
「ここら辺で巨大マンションが建つから、
その集会に来てほしい」
と言われると、行きたくない。
それは、ここに建つから問題にするだけで、
たとえば何十kmも離れた先に建つんだったら
関係ないじゃない? |
糸井 |
そう考えると、面倒くさいですね。 |
横尾 |
どっちにしても、ほうっておいても建つよ、
みたいなさ。
社会性のないやつだと言われるかもわからないけど、
社会性は別のところでもってればいいし、
それは政治だからさ。 |
糸井 |
共感するなぁ。
ぼくは学生の頃、みんなと同じように
政治に関心をもっていたけど、
自分のやってることが
いちいち全部嫌だったですから。
本当に嫌で、
早くすっきりしちゃいたいと思ってた。
だから、結局、やめました。 |
横尾 |
やっぱりやめざるを得なかったの? |
糸井 |
だめだった。
種類の違う欲望だったんです。 |
横尾 |
そうか。
子どもの戦争ごっこ
みたいなものではないの? |
糸井 |
違いますね。
楽しいことは
何もないんじゃないですか、多分。 |
横尾 |
だけど、妙に真剣に考えたり
議論したりするわけでしょう? |
糸井 |
そうですね。
ちょうど背伸びしたい時期ですから、
美大生でいえば、
画家の名前をいっぱい
知っていたりするのと同じように、
その場で負けたくないという気持ちが
あるんでしょうね。 |
横尾 |
とことんその純粋性を貫くと
どうなるんだろうか。 |
糸井 |
だけど、ほんとに
純粋なものなんてないでしょう?
「純」純粋というのは。 |
横尾 |
美術のほうでいうと、
19世紀の終わりか20世紀はじめぐらいに
セザンヌなんかが出てきて以降は、
純粋絵画の「追求」とか「探究」をするようなかんじに
なっちゃったでしょう? |
糸井 |
用のない絵そのものを楽しむ、というような。 |
横尾 |
うん。色彩とか、構図とか、
造形面だけ徹底して追求したわけね。
だから、みんながそういう絵を描こうとして、
魂の救済なんか、一切考えてない。
原爆をつくった科学者だって、そうだよ。
ともかく科学者である以上は、
核をつくってみたいじゃない?
それは行為として純粋行為だよ。
人道的なものとか、
生命の尊厳とか、
そんなことを彼らは考えないわけでしょう?
だから、純粋って、
ある意味で怖いのよ。 |
糸井 |
怖いですね。 |
横尾 |
だから、美術もあんまり純粋に追求していくと、
例えばコンセプチュアルアートみたいなものも、
ひとつの純粋性の追求の結果、
ああいう方法論になってしまった
ところがあると思うんだけどね。 |
糸井 |
いま、コンセプチュアルアートといっても、
焼き直しでいってるけど、
出そろってますよね、もう既に。 |
横尾 |
そうだねえ。コンセプチュアルと
ことさらいわなくたって、
ものをつくったりすることって、
やっぱりコンセプトなんだ。 |
糸井 |
いつでもね。 |
横尾 |
うーん。
(ガサゴソガサゴソ、上着のポケットを探る) |
糸井 |
・・・暑いですか? |
横尾 |
いえ、違うのよ。
糸井さんってチューイングガム食べる? |
糸井 |
あ、いいえ。 |
横尾 |
ぼくはね、栗なの。 |
糸井 |
え? むいた甘栗? |
横尾 |
いや、違うよ。
皮のついた栗だよ。
栗はね、
むかなきゃだめよ、あんなのは。
(甘栗を取り出して食べる) |
糸井 |
これ、持って歩いてたんですか! |
横尾 |
ええ。食べる? |
糸井 |
いえ、けっこうです。
そうね、むくのも含めて
栗ですけど・・・。 |
横尾 |
そう、あんなの、
むいて食べやすくされちゃうと
だめだよ。
一回買って食べてみたけど、
あんなつまんないものないね。 |
糸井 |
すぐ食べおわるんですよね、
しかも。 |
横尾 |
うん。 |
糸井 |
この教育の対談シリーズってこれまで、
だれかがその人に影響を与えるような
ヒントになることが出てくるんだけど、
横尾さんは
絶対ヒントにならない。
おもしろいなぁ。 |
横尾 |
ヒントって、何? |
糸井 |
つまり、横尾さんのような人は
つくれないってことかな。
「わたしのこの部分はあなたもこうできますよ」
なんていうところが何にもないですよね。 |
横尾 |
そんなことはない。
ぼくだって、サンプルはいっぱいいます。 |
糸井 |
こうやって言うと、
いつでもちょっとめげるんですよ。
横尾さんは自分の年齢よりも、
必ず若いんです。
若いというか、中学生っぽいというか。 |
横尾 |
そんなことないですよ。
ぼくは保守的で、古典的で、
伝統的な人間だし。
・・・ハハハ。
そう思ってるんだけどね、ほんとうに。
ごくごく平凡で、ごく普通で。 |
糸井 |
ぼくもそれはよく人に言うことなんですけど、
横尾さんはその上をいかれてるんですよ。 |
横尾 |
やっぱり普通がいいもんね(笑)。 |