糸井 |
いままでアピールのためだけに
わざと変なことしたことって、
横尾さんは、一回もないですよね。 |
横尾 |
いや、やりたくないのに
「人におだてられてやる」ことはあるよ。 |
糸井 |
あ、そうか。 |
横尾 |
たいしたことじゃないかもわからないけど、
そういうことはあるね。
結果とか目的をもっても、
それが何かの手段になりかけると、
バーッと自分から壊しちゃう。 |
糸井 |
居心地悪くなるわけ? |
横尾 |
うん。目的とか結果をもつと、
必ず「大義名分の何とか」のためにやる
ということになってくるじゃないですか。
そうすると、おもしろくなくなって、
壊したくなっちゃう。
人と約束しちゃったときでも、そう。
あいまいな約束だったらぼくは守るんだけれども、
「何月何日、何とかかんとか」というような、
ちゃんとした約束をすると、壊したくなっちゃう。
全部壊してるわけじゃないけれども、
そういうところはありますね。 |
糸井 |
あいまいじゃない約束って
カリカリに自分を縛るから、
それが不愉快になるんでしょうか。 |
横尾 |
そうね。
ウイークデーのスケジュールは、
もう約束されてしまってるから、
これはまあ、お仕事みたいになっちゃう。
ところが、土日になると・・・ |
糸井 |
「楽しみ」が入りますよね。 |
横尾 |
楽しみなんだよ。
土日になると、
だれに電話してだれに会うとか、
そんなことばっかりやってるわけ(笑)。
あんなに毎日、
月曜日から金曜日まで人と会ってるくせに。 |
糸井 |
土日になったらまた、
とたんに会いたくなるんだ。 |
横尾 |
今度はもっと、「きっちりした約束じゃない人」と
会いたいと思っちゃう。
月曜日から金曜日まで会わないけれども
土日は会うとかさ、用もなくね。 |
糸井 |
そういう人がいたら
なんだか楽そうだ。 |
横尾 |
糸井さんみたいに青山界隈に住んでると、
人がいっぱいいるから
むしろ誰とも会いたくないかもわからないね。
ぼくは成城に住んでるけど、
あそこまで離れちゃうと、いいよ。
成城にも以前はいろんな人がいたけど、
皆死んでしまったり、
あんまり偉くなりすぎて、会いにくくなったりしてる。 |
糸井 |
人に会うというのは、
どんな学校よりもすごいです。
絶対自分とは違うこと言ってますもんね、人って。 |
横尾 |
うん、違うね。
人によっては、すばらしい時間を持てるよ。 |
糸井 |
「何を勉強するのか」なんて考えてるうちは、
だめですね。
やっぱり自分だけのものには限りがあります。
ぼくは「全員が違うんだろうと思っている世の中」が
いちばんおもしろいと思うんです。
「なんてみんな同じなんだろう」というんじゃなくて、
「なんて違うんだろう」、
「違う人たちが集まってて、なんてすてきなんだろう」
という気分になれるのが理想だと思う。
この「教育の話」シリーズに
横尾さんが登場してくれると伺って、
その部分をぜひ期待したかったんですよ。
聞いてみると、みごとに、先生もいないし・・・。 |
横尾 |
うん。あのね、テニスなんかの運動でもそうだけど、
みんな、何かするために練習したり
トレーニングしたりいろいろするじゃない?
ぼく、あれがダメなの。
すぐ本番じゃないとダメなの。
だから「テニスする」って思い立つと、
ラケットの持ち方を知らなくても、
いきなりコートに入って、
いきなりカウントとってもらって、
ルールは向こうが決めればいい。
そういうところがある。
テニスがやりたいと言うと、
まずは壁打ちからはじめる。
そうすると「ああ、おもしろくない」と
なっちゃうわけよ。
だからやらないんですよ。 |
糸井 |
楽しさが向こう側にあって、
そのために努力しないとそこにいかないよ、
というのは嫌ですよね。 |
横尾 |
うん。 |
糸井 |
だれでもほんとは
そうなんじゃないでしょうか。 |
横尾 |
テニスをやるにしても、
そこに先生がつくじゃない?
それを見ただけでゾッとするわけ。
あれで練習してさ、
別にプロになるわけじゃないのにさ。
先生なんか入れなくて、
我流で打ちゃいいじゃないかと思う。
でも、うちのカミさんは
腕を壊すとかいろいろ言うわけね。
「ちゃんと正式な打ち方をしなきゃだめだ」。 |
糸井 |
奥さんは、テニスをなさってるんですね。
どうやって練習してるんですか。 |
横尾 |
先生について、だよ(笑)。
テニスをはじめて相当たつのに、
いまだに「きょうは練習」って出ていく。
なんで練習をそんなにしなきゃいけないのか、
さっぱりわかんないよ。
「いきなり本番ばっかり、試合ばっかり」で
いいじゃないかと思うんだけどさ。
だから、ぼくは絵を描くときでも、
デッサン描いたりなんか、できないね。
いきなり本チャンでないとダメ。 |
糸井 |
階段を登っていくみたいなことは、
苦手なんですね。 |
横尾 |
うん。 |
糸井 |
ぼくらが小さいころ、
エレキギターがはやった時代がありましたよね。
ベンチャーズとかがかっこよくて。
あのときに、ぼくら、
「音楽って習うもんだ」と思ってたんです。
だから、教則本とか買って練習したんですよ。
ところが、あの時代って、
ギター弾くともてるから、
不良がギターをはじめたんですよ。
そいつらは・・・ |
横尾 |
楽譜も読めないし、書けない。 |
糸井 |
そう。最初から弾いてみるんですよ。
その結果、そいつらのほうが絶対うまい。 |
横尾 |
ビートルズがそうだもんね。 |
糸井 |
ああいうところで
「優等生が持ってるダメさ」が出ちゃうんだなぁ。 |
横尾 |
でも、いま絵をやろうとしている
若い女の子たちは
「ぶっつけ本番」タイプが多いですよ。
何も知らない、聞いてない、やっちゃう。 |
糸井 |
そうですね。でも、
「そういうほうがいいんだ」というふうに
若い子は簡単に思ってて、
それだからたいしたものができてない
というのも寂しいでしょう? |
横尾 |
うーん。べつにねぇ・・・。
ねぇ、「たいしたもの」は、
なんでつくらなきゃいけないの?
誰のためにつくらなきゃいけないの?
その人がそれでいいと思って
楽しんでればいいんじゃないのかな。 |
糸井 |
ふーむ。 |
横尾 |
なんでそんな立派なものを
つくらなきゃいけないか。 |
糸井 |
この前の審査会で、途中で嫌になっちゃったのは
あれはどうしてなんですか。
たいしたものがなかったからじゃなくて? |
横尾 |
・・・どうしてだろうか。 |
糸井 |
それよりも、
アーティスト対アーティストの
次元になっちゃったんでしょうか。 |
横尾 |
あ、そうですね。
ぼくはぼくに刺激を与えるために
あそこに居たのかもしれない。
ぼくが打ちのめされるようなものが
全然なかったから、席をたっちゃったんだ。
ぼくは、学生の作品から何か学ぼうと
思って行ってるわけだから。
ある意味で、すごいまじめ、
アホぐらいまじめなのよね。 |
糸井 |
横尾さんはいつも、
ショックを受けようと思ってるんですよね。 |
横尾 |
そう。だから、そこで何も学ぶことがなきゃ、
あとは時間がもったいないだけ。 |
糸井 |
ぼくの場合は、
「あのぐらいの年の子だと、
このぐらいできるようになって、
こういうところに穴があるんだな」とか、
「総じてこういう穴があるんだな」とか、
そういうのを楽しむわけですよ。 |
横尾 |
うーん、・・・それは偉い! |
糸井 |
ああ、こうすりゃいいのにというふうに、
その子たちが気づかないことがあるのを見ると、
それなりにおもしろいんですよ。
でも横尾さんは、作家同士の対決をしてた。 |
横尾 |
うん。真剣に見るから、
自分が描くのと同じぐらい疲れるんだよ。 |
糸井 |
フフフ。何に対してもそうですよね。
だから、はだかの甘栗とも
対決してるんです、きっと。
「何でむいたんだ!」みたいに。 |
横尾 |
結局、栗の皮をむくという
自分のプロセスがおもしろいんじゃないかな。
先生がいて、
先生に手取り足取り教わるプロセスなんていうのは
ちっともおもしろくない。
それじゃあ発見がないじゃない?
先生が発見した何かをこちらがなぞって、
それこそ模写するだけだよ。
やっぱり自分で発見するのがおもしろい。
だから、自転車の乗り方とか水泳の泳ぎ方なんて、
絶対教わりたくないね。
犬かきであろうが、溺れてもいいから、
自分でやりたいと思うし、
そのときの発見がおもしろいんじゃないかな。 |