糸井 |
いまちょうど脳に関する本をつくっていて、
脳の研究をしている人と対談してるんだけど、
「プロセスを大切にする」という話になっていて、
おもしろいんですよ。
記憶には、「これは何ですか」という記憶と、
「どうやってやるんですか」という記憶と、
2種類ある。
「どうやってやるんですか」という記憶のほうが、
人の重要な、いきいきとした部分をつくっていく。 |
横尾 |
え? どういうことかな。 |
糸井 |
つまり、What とHowの違いですよ。
自転車の乗り方なんていうのは、
本を読んで「はい、覚えた」っていっても
乗れないわけです。 |
横尾 |
乗れない、乗れない。 |
糸井 |
どうやって乗るかは、
乗ってみないとわからない。 |
横尾 |
乗ってみないと・・・。
そうだね、遠回りだけどね。
遠回りだけども、そのほうがいい。
やっぱりいろんなことを発見するし、
その発見はまた、失わないの。
捨てる必要もないしさ。 |
糸井 |
でも、自分が飛び込んでいって、
ただ独自のものだけが育っていくと、
流派ができないじゃないですか。 |
横尾 |
うーん、そうですよね。
例えばぼくは油絵も描くんですけど、
油って難しいんですよ。
あれは、ほんとにちゃんと
油の溶き方とか
基本の描き方があるんです。
それ、ぼくは全然わからない。
ものすごいでたらめなの。
この前絵の具屋さんに行って
「溶き油ください」って言ったら、
何だかんだと向こうが説明する。
それを聞くのが面倒くさい。
「もう何でもいいから、すぐ描けるやつ!」
って言ったのね。そうすると、
「これは時間がたつと絵の具が割れますよ」
「もう割れてもいいよ!」 |
糸井 |
ハハハハ。 |
横尾 |
いつまでも作品が保存されるような人なら
絵の具が割れちゃ困るけれども、
ぼくはそんなもの考えもしてないからさ。
だから、何年かすると
ひび割れたりするんですよ、ぼくの絵。
ぼく、そういうのは平気なの。 |
糸井 |
もし自分だったらどうするかというと、
そういうことに詳しい人に手伝ってもらう。
横尾さんは、それも面倒なぐらいかな? |
横尾 |
面倒くさい。とにかくね、
面倒くさいというのがぼくの・・・ |
糸井 |
すべてですよね。 |
横尾 |
うん、そう(笑)。
この前も、何かの会合のあとに4、5人で、
「飯食おうか」ということになったの。
中華がいいとか、寿司がいいとか、
路上でみんな一生懸命言い合ってるの。 |
糸井 |
横尾さんは、その状況は嫌だよね。 |
横尾 |
ぼくだけが、仲間から2mぐらい離れて、
石ころ蹴ったりしてて。
「もう、早く決めろ」って言いたいわけ。
「どっちがいいとか、
ぼくにそんな質問しないでちょうだい」と。
ああいうの、よくやるなと思って。 |
糸井 |
横尾さんは「うれしい」とか「うまい」とか、
ちゃんと思う人だから、何でもいいんですよね。
ただ面倒なだけなんだ。 |
横尾 |
うん。お風呂に行っても、
背中なんか手が届かないから、
あんまり洗いたくない。
見えてるとこだけ洗って、それで終わりとかさ。 |
糸井 |
わかりやすいな(笑)。 |
横尾 |
足元なんか洗うと、
後ろにゴロンとひっくり返りそうになるしさ。 |
糸井 |
足の爪はこまめに切るんですか? |
横尾 |
いや、それはもう
鬼の爪みたいになってはじめて切る。 |
糸井 |
やっぱり(笑)。 |
横尾 |
うん。靴下履くときに、
「あ、伸びてる」と思うんだけど、
まぁいいわといって・・・。 |
糸井 |
一日延ばしになりますよね。 |
横尾 |
そうこうするうちに爪もどんどん伸びる。
1カ月に1回切るくらいかな。 |
糸井 |
腹立ちますよね、足の爪。
しょっちゅう伸びてね。 |
横尾 |
うん、ものすごい腹立つ。
これでも3日ほど前に切ってるのに、
もう伸びちゃっている。
こんなの、毎日切るものなの? |
糸井 |
いや、そんなことはないでしょう。
爪って、なにか「伸びやがるな」と
思ってしまいますよねぇ。 |
横尾 |
ぼくは頭を洗うのも面倒くさいから、
床屋に行って頭を洗ってもらうの。
3,500円だか 4,000円。
自分で洗ったらタダなんだけどさ、
手がだるくなるから、洗うのがほんとに面倒くさい。 |
糸井 |
絵はあんなに真剣に
描いているのに(笑)・・・。 |
横尾 |
もっと言うとさ、
冬の寒いとき、Tシャツとパンツはいたまま
お風呂の浴槽に入ったりする。
風呂の中で脱いだりして(笑)。
寒いじゃない? 脱ぐのが。 |
糸井 |
ぼくもやったことあります、それ。
お風呂で寝ちゃうことはありませんか? |
横尾 |
うーん、寝ないけど、目つぶってて、
「ウッ」となるときがあるね。
これはヤバイ、このまま沈没したら
死んじゃうみたいな。 |
糸井 |
それで死ぬ人いるらしいからさ。 |
横尾 |
いるらしいからね。
でもね、ぼくはカラスの行水。
もうあっという間、早い早い。 |
糸井 |
だけど一度、お風呂に
長ーく浸かってみるといいですよ。
おもしろいです、あれは。
けっこうトリップします。 |
横尾 |
いや、そんなこと絶対できない。
殺風景だもん、お風呂の中。 |
糸井 |
退屈? |
横尾 |
うん、退屈。
テレビかなんか持って入ってれば
別かもわからないけどね。
そうか、糸井さんは、
そんなにお風呂でじぃっとしてるの。 |
糸井 |
お風呂で本を読むようなことは
ないんですか。 |
横尾 |
ない、ない、ない。
本持っていくと、眼鏡持っていかなきゃいけないし、
眼鏡が曇って本なんか見えないしさ。
本だってぬれるでしょう? |
糸井 |
タオルを置いておいて、拭いたりすれば
大丈夫だと思うんですけど。 |
横尾 |
面倒くさいよ(笑)。 |
糸井 |
自分に面倒くさいって思うことございますか。 |
横尾 |
ハハハ、それは思わない、ハハハ。 |
糸井 |
なんで寝なきゃならないんだろうとか、
そういうことは思わない? |
横尾 |
あ、思う、思う。
寝るの嫌いだからね。
面倒くさいから起きちゃう。 |
糸井 |
でもまぁ「面倒くさい」と
1回でも思わなきゃダメですよね。
生まれっぱなしになっちゃいますから。
きっと横尾さんは横尾さんで
いっぱい「面倒くさい」を経験して、
「ああ、面倒くさい!」
と思いながらこれまでやってきたんでしょうね。 |
横尾 |
うん。だから、
面倒くささを生かした作品づくりを
してるもん(笑)。 |
糸井 |
それはすごいね。 |
横尾 |
うん。人の描いた絵で
「こんなところ手抜きゃいいのに」
「ああ、あんなとこ、一生懸命描いてる。
こんなもの、一生懸命描いたって、
誰もその努力も評価しないのにさ、バカだな」
と思っちゃう作品があるわけよ。
ぼくだったら、そこはとばすね。 |
糸井 |
とばすね。 |
横尾 |
うん。ぼくが昔つくったチラシとか、覚えてる?
あれもね、普通なら
写植や何かでつくったりするでしょう。
「ああ、もう面倒くさい、筆で描いたほうが早いや」
というので、自分で描いたり。 |
糸井 |
ああ、ポスターとか、
すごいのできましたよね。 |
横尾 |
あれは面倒くささから生まれた作品なわけ。
それは間違いなく、そうなの。
写植屋さんがあったほうが面倒くさい。
誰に頼めばいいのか、もう
どうしていいかわからないしさ。
そんなのは、前もって原稿がちゃんとできていて、
それで写植屋さんに出して、
明くる日持ってきてもらえるにしても、
間に合わないわけよ。
たったいま、1分か2分後に写植が欲しいわけですよ。
そんなことはできるはずないじゃない?
だから、もう面倒くさいから、そこで描いてしまう。 |
糸井 |
計画とか、時間軸そのものが
横尾さんは嫌なんですね。
「これをするためには、
さかのぼってこれをして、
そうするためにはこれをして」というような。 |
横尾 |
そういうふうに
直線的に時間は流れてないね。 |
糸井 |
時間が直線ではない・・・。 |
横尾 |
もっと平面的というかさ。
時間的というより、
空間的といったほうがいいかもわからないね。
過去、現在、未来はない。
もちろんあるんだけれども、
それは一緒くたにしてるような気がするね。 |
糸井 |
主に横尾さんの世界観というのは、
時間の流れじゃなくて、
空間でできてるんだ。 |
横尾 |
うん。 |
糸井 |
それは何かわかるわ。
だからここに妖精がいてもおかしくないんだ、
それは。 |
横尾 |
フフフ。
別のディメンション(次元)から
くるわけだから。 |
糸井 |
そうですよね。 |