横尾 |
今年も何人かに年賀状をもらったんだけど、
ぼくはちゃんと返事を書いたわけ。
でも、何を書いていいのかわからないから、
「今年もよろしく、来年もお世話になります」。
そうすると、いちばん簡単なのは、
「去年も今年も来年も再来年もよろしくお願いします」
そう書いて出しちゃった。 |
糸井 |
ハハハ。 |
横尾 |
でもぼくはね、
手紙とかはがきを書くのに、
ものすごく時間とられているんだよ。
ところが、それは面倒くさくないの。 |
糸井 |
あ、好きなんですか。 |
横尾 |
好きなの、郵便少年としては。
それは好きなの。 |
糸井 |
はあ、意外だなあ。 |
横尾 |
郵便屋さんのなれの果てが
絵かきさんだと思ってるからさ。 |
糸井 |
じゃ、頭の中では、
まだ郵便屋さんになりたい気持ちが
残ってるんだ。 |
横尾 |
郵便、残ってるんですよ。
すっごく。 |
糸井 |
はぁー。 |
横尾 |
なんでそんな、感心することないよ。 |
糸井 |
ほんとに根深く残ってるんだなと、
思ったんですよ。 |
横尾 |
そんなことは、だれにでも
何かの形でいっぱい
残ってるんじゃないかな。 |
糸井 |
でも、自分で意図的にため込むものと、
自然にため込まれてしまうものとが
あるじゃないですか。 |
横尾 |
無意識の深層にあって、
「これは絶対人に見られたくない、
知られたくない」というものはあるでしょう?
ぼくはどっちかというとそれを
極力出すようにしてるわけ、形を変えてね。 |
糸井 |
「夢の絵」なんかがそうですよね。 |
横尾 |
うん。作家やものをつくってる人は
同じかもしれない。
そういうものは出しておかないと。
勝手に自分に入ってくる何かが、
無意識の中で想像と結びついてくれて、
何かのときに直観として出てくる。 |
糸井 |
つながっちゃうんですよね。 |
横尾 |
うん。だから、ため込んでしまうと、
自分の中でそれが汚物になって、
汚染されていくこともあるんですよ。 |
糸井 |
そうか、ないことにしてるもののほうが
影響を自分に与えちゃうんだ。 |
横尾 |
うん。でも、それはもう潜在意識だから、
自分ではわからなくなってしまってる。
それが病気に発展したりとか、
いろんなものになっていくと思う。 |
糸井 |
横尾さんは、これまで
「どういうふうに生きたい」とか、
「どういうのが幸せだ」とか、
考えずにここまで来たんですか? |
横尾 |
精神世界的なものにはまり込んで、
まるで精神世界のボヘミアンみたいな
時期があったんだよ。
そのころはちゃんと枠組みをつくって、
「こういうふうに生きていこう」ということに
あこがれたね。 |
糸井 |
そうか、そこは1回
経過してるんだ。 |
横尾 |
うん。 |
糸井 |
いまのほうが自由に見えますよ。 |
横尾 |
精神世界というものを
僕の中から追い出してから、
さらにぼくが精神世界的になっちゃった。
いまはどちらかというと
先へ向かっている、というより
少年時代に返ろうとしているのかもわからない。
ぼくの未来は、未来に設定されてるんじゃなくて、
過去に設定されてる気がする。 |
糸井 |
過去へ。 |
横尾 |
そこへだんだんだんだん近づいていく。
この前原美術館で展覧会をやった
「Y字路」にしても、
そのプロセスで生まれたんだよ。
あれはぼくの故郷の、
西脇の町を描いたんだ。
だから、あのシリーズができた。
そうじゃない町はシリーズにも、
絵にすらも、最初っからならなかった。
先祖返りか何だか知らないけど、
だんだん過去に回帰してるかもしれない。 |
糸井 |
ノスタルジーじゃなくて、
未来も過去も同じじゃないか
っていうかんじですよね。 |
横尾 |
そうです。
ノスタルジーはだめだと思うんです。
ぼくは「Y字路」で
ノスタルジーをいったん捨てることができたような
気になったのね。 |
糸井 |
すっきりできた。 |
横尾 |
うん。ぼくの中から追い出せた。 |
糸井 |
一光さんのお葬式には
ぼくも行ったんですけど、
横尾さんは、自分の葬式のイメージとか
あるんでしょうか? |
横尾 |
自分が死んだ夢を見た話、したっけ? |
糸井 |
いや、聞いたことないです。 |
横尾 |
それはこういう夢だったの。
自分が死んで、いま住んでる家の屋根の上に
ぼくが浮いてるの。
そしたら、知り合いの朝日新聞の連中とか、
ギャラリーの人とか、
知ってる人が何人か来て、
ぼくのお葬式の準備をしてるわけ、家の外と中とで。 |
糸井 |
家の中のようすはどうやって見れるんですか? |
横尾 |
不思議と、屋根がドーンと突き抜けて、
うちのカミさんが2、3人の人に囲まれて、
ぼくの遺影選びをやってるの。
そのようすをぼくは見てて、
そんな「あれがいい、これがいい」みたいに迷わないで、
とにかくいいやつを何枚か選んで、
60年代、70年代、80年代、90年代と、
年代ごとにダーッと写真を全部並べて、
その時代のぼくに出会った人はそこに行って
お焼香をすればいいのに、とかね。 |
糸井 |
・・・夢の中なのに、
結構アイデアマンだ(笑)。 |
横尾 |
うん。ほんとにそんなこと思ってるわけ。
誰かがテーブルを持ってきて、その上に
シーツを敷こうとしてるんだけど、
そいつはハンカチぐらいの大きさのものしか
持ってきてない(笑)。
で、ハンカチを自分で一生懸命伸ばしてるの。
ぼくは上から、
「そんなハンカチじゃなくて、
もっと大きいのにしないか、
もっと大きくなれ」って言ったら、
そのハンカチがズズズッ、ズズズッと大きなっちゃう。 |
糸井 |
すごいなあ、
「十戒」のモーゼみたいですね。 |
横尾 |
夢だからできるんですよ。
もう超能力者だね。 |
糸井 |
自分の死が見えてるのに
本人が落ちついてるって、気分いいですね。 |
横尾 |
ぼく、死っていうの
好きだからさ。 |
糸井 |
テーマとしてずうっと扱ってますもんね。 |