横尾 |
ぼくは、「どういうふうに上手に生きて死ぬか」
については、あんまり考えていない。
死んでから先、そこには時間はなくて、
空間だけがあると思うのね。
今のように物理的な世界で流れてる時間はなくて、
いくつものディメンションの空間がある。
なんとかして向こうの世界からこっちを見たい。
向こうで死んだ死体となって、
こっちを見たいっていう心境なんですよ。 |
糸井 |
はぁ・・・。 |
横尾 |
ぼく、うまくしゃべれないんだけど、
そういう感じなんですよ。 |
糸井 |
それはうまく受けとめられないんだけど、
でも、あっちとこっちの視点の違いはいいですね。 |
横尾 |
多分、向こうに行っちゃってから、
今までの自分の人生を顧みると、
なんてくだらないことに情熱をかけてたんだとか、
もっとちゃんとやらなきゃいけないところに
目を向けてなかったとか、
そういうことがわかると思うんだよね。
だから、その視点から人生を見たい。 |
糸井 |
うん、見たいですね。 |
横尾 |
そう見ようとしてる自分のことを、
「今、いいなぁ」と思ったりするんですよ。 |
糸井 |
向こうの世界に行ったら
何にも手を出せないだけにね。
視点しかないから。 |
横尾 |
「あの人に悪いことしたから謝りたい」
といったって・・・。 |
糸井 |
できないんです。 |
横尾 |
今だったらできる、電話一本ですむ。
そしたら、それを今いる間にやっときゃいい。
そうすると、この現実が幻のように見えてくるよ。
例えば欲望とか、執着とか、
いろいろあるじゃないですか、
向こうに行ったときに、
「結構つまんないものに目を向けてたんだなぁ」
と思えるんだよ。
俗人として俗界でいかに生きればいいかということに
終始してたんだなあというのが
わかってくるような気がするわけ。
それがこの世界のリアリティだけど、
向こうの世界のリアリティとは違う。 |
糸井 |
あとで後悔するような気がしますよね。 |
横尾 |
あとで後悔する。
ぼくは向こうのほうが絶対本体だと思ってるから。
例えば、今見て触れることのできる物質は
確かでしょう?
こんな確かなものはないから、
ぼくらはこれが唯一現実だと思ってる。
でももし向こうへ行って、
これよりもっと精妙な物質があった場合は、
向こうのほうがもっと確かになるんだよ。
言語を我々は道具として使ってるけど、
向こうへ行ったら、
言語なんて道具としては使う必要は
一切ないかもしれない。思いだけでいい。
外人であろうが、動物であろうが、
言葉なしで会話できるような気がするんです。 |
糸井 |
時間も空間も全部、
自由に織り込まれちゃった世界ですよね、
そこからこっちを見返せるというのは
おもしろいです。 |
横尾 |
ぼくは今まで、受動的に生きるのは、
けっこういいと思っていたの。
そうしてきたところもある。 |
糸井 |
流れてにまかせて生きていく。 |
横尾 |
だけど、それだけじゃだめで、
それがわかれば、
それを能動的に生きたほうがいい。
能動的というのは、
「やったろうじゃないか」みたいなね。
「捨て身的な気持ちになったろうじゃないか」
みたいなことを一回言ってしまえば楽なんですよ。 |
糸井 |
以前の横尾さんとは
また違う次元になりましたね。 |
横尾 |
うん。矛盾してるし、
すごいぐるぐる回ってるよ。 |
糸井 |
いつも横尾さんって、何かを考えてますね。
ひとりの時間がどうか知らないですけど。 |
横尾 |
いや、考えてはいないです。
ふだんは考えないようにしてる。
そのかわり、見るようにはしてるんです。 |
糸井 |
やっぱり絵かきさんだからかもしれないけど、
空間認識がとてつもないですね。
いつでもぼくらとは違うものが
見えてるんでしょうね。 |
横尾 |
いや、同じものしか見えてないけれども。 |
糸井 |
見え方が違うのかな。 |
横尾 |
うん。きのう、富士山が見えたんだよ。
ちょっと太陽が落ちて、シルエットになっていた。
ずっと富士山を見ていると、すごい強い光が一瞬
ピヤーッと走ったのね。
そのときぼくのほかに3人いて、
富士山を見てたんだけど、
みんなは光を見てないんですよ。
「なんであんなに光ったのが見えなかったのかなぁ」
ということがあったよ。
ところで糸井さん、
ティッシュペーパー持ってなかったっけ? |
糸井 |
あ、昔は持って歩いてましたけど、今はもう・・・。
こちらに箱のティッシュがありますよ、
お使いになりますか? |
横尾 |
あ、はい。
注射したから風邪ひかないと思うんだけど。 |
糸井 |
インフルエンザの? |
横尾 |
うん、インフルエンザ。してないの?
しなきゃだめよ。 |
糸井 |
注射に行こうと思ってる時期に軽い風邪をひくから、
億劫になっちゃうんです。
横尾さん、そういうことは結構まめなんですよね。 |
横尾 |
ぼくね、病院行くの好きなの。
何もなくっても行っちゃうからね。
先生の顔見た途端にもう治ってたりする(笑)。 |
糸井 |
先生の顔見て、「何だっけ?」 |
横尾 |
ハハハ。近くだからすぐ行っちゃう。
看護婦さんがね
「ここに来ないで、先生の写真を撮って
うちに飾っておきなさい」って。 |
糸井 |
拝んでろ(笑)。 |
横尾 |
歯の治療をするときに、
プラチナがいいか、
金歯がいいかって聞かれるじゃない?
それで、口あけてるところを
家に帰ってカミさんに見てもらったの。
その場所が人から見えるんだったら、
変なもの入れないでおきたいから。
「どの歯? ちょっとどの歯?」
「ええ、右かな、左かな」
どっちかわからなくなっちゃって。
それで、うちのカミさんが歯医者に電話した。 |
糸井 |
「どっちでしたっけ(笑)」? |
横尾 |
「どこを治療してもらってるんでしょうか」。 |
糸井 |
(笑)横尾さんの「どっちでもいい」が、
そこにも出てるんだよ。 |
横尾 |
そしたら、その先生、喜んでるの。
「どこを治療したかわからないぐらいだから、
わたしは名人だと思ってよろしいんでしょうか」
ハハハハ。 |