糸井 |
今、横尾さんは学校で
先生という立場で、教える側になっていますよね。
自分が「教わった」という意識がないのに
だれかに教えるという、その矛盾は感じませんか? |
横尾 |
ないない、全然。
だって、ぼく教えないもん。 |
糸井 |
生徒にものを教えない先生なんですね。 |
横尾 |
うん。
「え、どうやって描いたの?」
そればっかり。 |
糸井 |
逆に生徒に教えてもらってる。 |
横尾 |
「これ、何と何をまぜたの?」
「へぇ、どないしてするの?」
そんなことばっかり聞いてる。 |
糸井 |
そこに「いる」だけの先生なんですね。 |
横尾 |
自分が生徒のいいとこをまねしようと思ってるからさ。
生徒ひとりひとりから聞くわけ。
生徒は納得してるかどうかわからないけど、
それで授業は終わりなんですよ。
ここをああしたら、こうしたらなんて言わない。
ぼくの生徒って、大学院生なんですよ。
だから、半分プロなの。 |
糸井 |
アーチスト同士のような関係なんだ。 |
横尾 |
ふつうはアーチストに
「どうやって描いてるの?」とは聞けないから。
でも、学生には聞けるのよ。 |
糸井 |
いいですね。お互いに健康ですね。 |
横尾 |
うん、それはもう、勉強になるの。
聞かれたほうも、自信持っちゃうんですね。 |
糸井 |
そうでしょう。 |
横尾 |
うん。「教える」って、そういうことじゃないか。
相手が自信を持っちゃえば、
もうそれでいいんじゃないかな。 |
糸井 |
親子のつき合いでもそうですよね。
親が子どもに何かを聞いておもしろがってるときって、
子どもはうれしそうです。 |
横尾 |
うん、得意になるでしょう? |
糸井 |
アイドルの名前とか聞くと、
うれしそうに答えますよ(笑)。 |
横尾 |
ぼくももう、とにかく質問攻め。
逆に、生徒に「ぼくに質問しろ」といったって、
何も出てこないしね。
「何聞いていいのかわからない」みたいな顔してる。 |
糸井 |
すごくいいですよ、そういうの。 |
横尾 |
教壇に立って教えるんじゃなくて、
マンツーマンみたいな感じだから。 |
糸井 |
この前横尾さんが出ておられた
NHKの「課外授業 ようこそ先輩」も
すごくおもしろかったですよ。
小学生に模写させてた。
あれも、横尾さんはべつに、教えたりはしてない。
ただ「描いてね」って言ってただけ。 |
横尾 |
そう、もうそれだけね。
テレビ向けに何か言ったけど、
そういうところはカットされてたんだよ(笑)。 |
糸井 |
「よーく見てね」と、言った。それだけ。 |
横尾 |
でも、すっごくおもしろかった。 |
糸井 |
あの番組で、ぼくはなんだか
横尾さんの自信を感じましたよ。 |
横尾 |
ぼくが番組で教えたのは、6年生だったの。
最初にクラスで
「絵の嫌いな子、手を挙げて」と言ったら、
半分近くの生徒が手を挙げよった。
6年間、学校の先生は一体何をしてたんだろう、
って思ったよ。
最後にもう一度
「絵をまだ嫌いな子、手を挙げてごらんなさい」
と言ったら、いなかった。
全員が絵を好きになってたの。 |
糸井 |
うん。あれ、ショック受けたもん。 |
横尾 |
あそこにおとなも何人かまじえて、
同じことをやらせればどうかなぁ。 |
糸井 |
どうでしょう。
子どもほどのおもしろさは、もしかしたら
ないかもしれませんね。 |
横尾 |
うん。
模写といえば、そのものそっくり描かなきゃ
模写にならないのに、子どもの描くものは
「どこが模写?」と
言いたくなるほど似てないわけ。
ぼくなんかは、小さい頃から
そっくりに描いちゃってたよ。
ところが、その子どもたちは全然描けない。
その、「描けない絵」がものすごく魅力的。 |
糸井 |
おお、そうなんだ。 |
横尾 |
ものを目の前に見ながら、
こんなに違うものを描くのは、すごいなぁと思う。
ぼくの目と彼らの目が違うということなんですよ。 |
糸井 |
ひとりひとりの人間の違いが
そのまま絵に出ちゃうんだろうね。 |
横尾 |
そう。ぼくのこの目と入れかえたいぐらい、違うね。 |
糸井 |
借りてみたいですね。 |
横尾 |
子どもの目を僕の中に入れると、
かなりいい線いくよ。 |
糸井 |
そのやりとりができたら、
おもしろそう(笑)。 |
横尾 |
うん。腕も、ヒジから先を交換してさ。
そうなると、いきなりピカソぐらいのものを
描いちゃったりしてね。 |
糸井 |
そうか、コラージュなんかでやりたいことって、
ほんとはそういうことかもしれません。 |
横尾 |
模写はけっこう面倒くさいことをやるわけですよ。
その模写の部分を、コラージュは省くわけだからさ。
人がかいてくれるやつを鋏で切る。
コラージュは、
ぼくの模写のなれの果てだと思ってるわけです。 |
糸井 |
そうですね。
コラージュと模写が横尾さんのベースですよね。 |
横尾 |
ベースです。
この間はじめて、コンピュータを使わないで
はさみとのりで切って張ってつくったの。
それがけっこう楽しかった。
コンピュータだったら思いのまま、
形が自由自在になるでしょう?
それが、既成の素材のコラージュでは、
そうはいかない。
限定された、ある画像から選ぶわけだから、
その方がはるかに創造的だし、
自分でも驚くような組み合わせもできる。 |
糸井 |
不自由さがおもしろいんですよ。 |
横尾 |
コンピュータはあんまりよくないね。 |
糸井 |
何でもできることになっているということが
多分つらいんですよ。
やめようがないんです。 |
横尾 |
やめようがないね。
完璧なものがないくせに、
完璧なものを求める。 |
糸井 |
「限りなく透明に近いブルー」じゃないけど、
限りなくできるように思わせてるんです。 |
横尾 |
思わせるだけで、あれは幻想ですよ。 |
糸井 |
感覚としては違うとわかるんです。だけど、
「ずうっとやめなければ
永遠にできるんだよな」
と思わせる何かがちょっと感じ悪いんですよ。
バベルの塔のような。 |
横尾 |
そうです、コンピュータってそういうものなんだ。
それをまた、好きなやつがいるんだよ。 |
糸井 |
途中まで便利だし。 |
横尾 |
もっともっと進化して、あと何年か後には、
ものすごいものができるんじゃないの?
・・・でも、ぼくははさみだな。楽しかった。 |
糸井 |
小学生にものを教える先生役をやってるときも、
横尾さんは楽しそうに見えましたよ。 |
横尾 |
楽しいよりも、驚きの連続だったんだよ。
子どもたちが目の前でどんどんやることなすこと、
ぼくにとっては驚きなの。
みんな、ぼくに絵を隠しながら描いたりする。
中には描いてるものについて
言い訳みたいな説明をしちゃう子もいるんだけど、
そういう絵はおもしろくないの。
いろんなことをしゃべる子よりも、
むしろ、隠しながら描くぐらいの
子のほうがおもしろい。 |
糸井 |
こっちも「そこをもっと知りたい」って思う。 |
横尾 |
うん。だから我々も、
あんまりしゃべるのは考えものだよ。
何かを解明しようとして
ついいろいろしゃべってしまうけど、
黙ってるほうが逆に
開示されていくところがあるような気がする。
しゃべればしゃべるほど、どうもだめだね(笑)。 |
糸井 |
壊れちゃうものが多いんですよね。
ぼくはともかく、横尾さんも、しゃべる分量は、
多いじゃないですか。 |
横尾 |
多いんだよ(笑)。
おれ、昔、無口だったのに。
ものすごく恥ずかしがり屋だったんだけど。 |
糸井 |
必要に迫られてしゃべるんですかねぇ。 |
横尾 |
いつごろからか知らないけれども、
おしゃべりになってしまったね。 |
糸井 |
今もおしゃべりすぎて、
どうもきりがないな。 |
横尾 |
しゃべりっぱなしだね(笑)。 |