糸井 |
内田さんは日立という企業から
都立高校の校長先生になられたんですよね。
学校に赴任して
真っ先に思われたことは何ですか? |
内田 |
まず、先生方同士の会話の中に
生徒がなかなか出てこないことですね。
いちばんの顧客(製品)であり主役である
生徒の話が。 |
糸井 |
つまり、農業でいったら
農作物のことですよね(笑)。
大根なりカブなりの話が出ないで
農協の話になっちゃう。 |
内田 |
職員会議でも、ほとんど
先生たちの関係だけに焦点が合っている。
ですから会議中に、先生方に
「どうして生徒が見えてこないんだ!」
といったことがあります。
まず、生徒が休みにくつろいだり、
話をしたりする、
憩いの場もないんですよ。 |
糸井 |
会社にはありますもんね。 |
内田 |
そうでしょう?
わたしが通ってた高校にもあったんですよ。
例えばクローバーが敷いてあって、寝転んだり、
ベンチがあって、そこで話をしたり。 |
糸井 |
「ダベり場」ですよね。 |
内田 |
そう。東京だからかもしれませんけど、
そういう場所がない。
「そんなアイデアは出ないんですか?」
と尋ねたら、
「そんなことですか」
といわれてしまった。
でも、きっと、
「そんなこと」が大事なんですよ。
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糸井 |
どうしてそんなふうに
なっちゃうんでしょう? |
内田 |
予算はあると思うんですがねぇ(笑)。
そこまで学校全体を考える人が
いないからなんでしょう。 |
糸井 |
先生方は、
何について考えていることが多いんですか? |
内田 |
教科のことは考えますけど、
「この高島高等学校をどうしよう」とか、
「うちの生徒をどういうふうに育てていこう」とか、
大きな枠組みでは考えない。
そうやって8年経つと他の学校に
どんどん異動するわけです。
だから、愛着心が生まれようもない。
私立だと、ある学校へ入ったら、
自分はずうっとこの学校にいるんだと
思うでしょう?
会社と同じように。 |
糸井 |
先生自身が卒業生だったりしますもんね。 |
内田 |
「学校の設備でおかしいところがあるから
こうしましょう」
など、いかに学校をよくするかを
考えるでしょう。
やっぱり、あと2年しかいないような先生だと、
そこまで考えないと思うんですね。 |
糸井 |
それは習性みたいなものなんですか。 |
内田 |
だと思いますよ。
そこから変えなくてはいけない。
先生方は、いろいろ意見を持っていても
出てこない。
まあ、まずは全体的に
なかなか自分から発言しないという雰囲気は
学校の中にあります。
わたしが何かをいうと、あとで校長室へ来て、
「校長、きょうはいいことをいってくれましたね」
という先生はいっぱいいます。
ただ、それが出てこないだけです、
全員がいるところでは。
それが学校の体質ですね。 |
糸井 |
学校の先生って
一生懸命になればなるほど
無限に仕事がありますよねぇ。 |
内田 |
あります。おおいに頑張っている先生も
たくさんいます。
すべて、本人次第です。 |
糸井 |
ぼくもインターネットで
新聞みたいなことをやっていて、
毎日いっぱいメールをもらうんです。
その中に学校の先生からのメールがよくあって、
「ほんとに忙しいぞ」と書いてある。
やっぱりキリがない仕事であるということに
押しつぶされそうになっているんですね。
個々の先生方が考えても無理なことまで
それぞれの先生が考えざるを得ない。
オールマイティーになっていくことで
乗り切ろうとしている人はそうとう大変だし、
それは無理なのかもしれない。
やっぱりシステムが生かせてない
という印象があります。
内田先生はその大きなヒントになるんじゃないかな。
やっぱり、まじめな先生ほど
押しつぶされるでしょう? |
内田 |
先生というのは、担当者集中型の仕事なんです。
システムになってない。
学校の行事ひとつとってもそうです。
例えば避難訓練があると、
「総務のだれだれさんが担当です」
となるわけです。
一生懸命やる先生だったら、
警察も消防署も入れて、
どんどんいいものにしようとします。
その仕事がその人だけに偏ってしまう。
同じ人が避難訓練もやるし、運動会もやるし、
いろいろなものをしょいこんじゃう。 |
糸井 |
便利な先生になっちゃうんですね。 |
内田 |
学校が忙しいのは当たり前なんですが、
もっとやり方を変えればいい、と感じますよ。
例えば、うちは、在校生870名のうち
だいたい6割が自転車通学なんです 。
600台ぐらいの自転車が
毎朝学校に乗り入れられる。 |
糸井 |
多いですね。 |
内田 |
1、2年生は指定の場所へ
自転車を入れます。
3年生になるとずるくなって、
通路口に入れてしまう。
そこで、先生方がこれを注意するんです。
朝、7時ごろから2時間ぐらい立って
指導するわけです。
わたしも1回行ってみた。
「先生方、忙しいのに大変だね。
もしわたしが皆さんと同じ立場だったら、
ここへ植木鉢のようなものを置いちゃうね」
と、こういった。
自転車を置けないように障害物を置く。
そしたら、先生方は何といったと思います?
「いや、我々がまたここへ立てば直りますから」
それだけマンパワーがかかるわけですよ、
2時間も。 |
糸井 |
コスト計算上は
植木を置いたほうがいいですね。 |
内田 |
ええ。
その2時間、ほかのことができる。
植木を何鉢か置き並べるだけで、
放置は自然に直っていくことかもしれない。
そういう仕事をしようといっても、
なかなか理解をしてくれない。
今、試験的にやってはいますけど・・・。
先生が直接身をもって指導するのが
長年続いていて、
それが美徳でもあるし、
汗をかいて一生懸命指導したという
満足感につながっているとも思うんです。
その部分はいいことだし、
もうちょっと見直すところがあると
思ってはいるんですけどね。 |