内田 |
わたしは最初に、
学校はサッカーだ、と思った。 |
糸井 |
ずっと野球をなさってた経験から
そういう印象が出てきたんですね。
でも、野球じゃなくて、サッカーなんですか? |
内田 |
ええ。4月に校長室に座って
つくづくそう感じたんです。
ふつうの企業だったら
上の考えが決まった時点で
ものごとがどんどん進行していきますよね。
でも、わたしが校長に就任した時点で
もう13年度の路線は決まっちゃっている。
行事からカリキュラムから、すべてが。
だから、サッカーがインプレーになったとき、
監督さんが出番がないのと同じで
ワンプレーごとに指示が出せない。 |
糸井 |
手が出せないんですね。
サインも何も送れない。 |
内田 |
自分の考えが入っていかないんです。
まえもって、ちゃんと作戦を
練っておかないとならない。
だから、今は14年度をもう既に考えています。 |
糸井 |
そもそも、校長先生って、
自分の考えを具体的にしやすい
ポジションなんですか。 |
内田 |
・・・しづらいです。 |
糸井 |
やっぱり。
外から考えても難しそうに思えます。 |
内田 |
例えば、わたしが学校に就任して
自分なりに診断したら
いろいろと問題が(ファイルのページをめくる)
出てきたものですから、
「活性化委員会」というものをつくったんです。 |
糸井 |
あ、またファイルに書いてあるんですね。
ふむふむ、
「校務分掌を超えたフリーバウンダリーの立場で
前向きな意見交換と、
結果的に創出したアイディアを
具現的にまで結びつける委員会を新設したい」
ですか。なるほど。 |
内田 |
学校の文化というのは、
ずうっとそのまま来たものです。
ですから、糸井さんがいわれたように、
新しいことをやろうとするときに
ものすごく抵抗があるわけです。
学校を組織としてみると、
校長がいて、教頭がいて、
あとは鍋ぶた方式。 |
糸井 |
鍋ぶた?
ああ、ちょこっと出てて
あとは並列ってことですか。 |
内田 |
ええ。先生はみんなフラットなんです。
フラットな人間が
あるグループを組んでいるんです。
教務、生徒指導、進路指導。
このグループ単位では皆さんがよく話をするんですが、
ちょっと横へ行くと、
お互いのことを全然知らないんですよ。
話もしない。 |
糸井 |
グループ間のコミュニケーションは、ない? |
内田 |
ない。
わたしは縦割り組織に横串しをさす
「横断的なことをやらなければいかん」
と思って、職員会議で
活性化委員会をつくるよう提案したんですよ。
なのに、「やるやらない」の議論だけで
2時間かかってしまった。
徐々にわたしの意向が理解され、
最後はやるように決まったんですが(笑)。 |
糸井 |
2時間で終わっただけ
ましなのかもしれませんよ。 |
内田 |
そうなんです。教頭も
「良かったですね」といいましたし(笑)。
でも、そのための下準備は大分しました。 |
糸井 |
さきほどもいいましたけど、
ひとつでも仕事がふえると
「今までやっていたことが
おろそかになるんじゃないか」と
恐怖感を持つまじめな先生も
いるでしょう? |
内田 |
わたしが新しいことをしようと
提案をするたびに、
そういう意見は常に出ます。 |
糸井 |
森と木の関係、ですね。
1本の木が気がかりになるというのは、
先生の資質として、
それはそれで大事なことだと思う。
でも同時に森を見るということもやったほうが
結果的にうまくいくんだということを
ちゃんと言わなきゃいけない。
だけれども、それはすごく難しい。
1回ずつ答えを出して、うまくいったことを
見せていかない限りは、
「そんなものじゃねえ!」と
いわれるわけでしょう、きっと。 |
内田 |
そうなんですよ。
わたしもそれはつくづく感じてます。 |
糸井 |
学校の先生ばかりじゃなくて、あらゆる仕事は
どこも同じなんですね。
内田さんが考えておられる
大きな枠組みでのプランは、
どんなことなんですか? |
内田 |
ひとつは、
魅力ある学校にするためにはどうすればいいか、
みんなの意見を一同に集めようということ。
もうひとつは、特色ある学校にするために
優れた個性ある人間(生徒)をひとりでも多く
入学させようということです。 |
糸井 |
校長の提案が
直接そのまま通るわけじゃないとすれば、
どうやって現場に意見を
浸透させていくんですか? |
内田 |
たとえばこれは(ファイルをめくる)
13年度の方針なんですが、
このグリーンに塗ってあるところは、
わたしが校長室に座った4月6日に
第一声でいったことなんです。
「わたしは1年間、こうやってやります」と。 |
糸井 |
先生方に宣言したんですね。 |
内田 |
ええ。
じつは、わたしが考えた案の中でも、
グリーンで塗ってあるものは
けっこう実施が進んでいるんですよ。
つまり、わたしはこれを
初日に投げただけなんですが、
先生方はこれをよく聞いて、
頭に残してくれている。
「いい」と思ったものもあるんでしょう。
それを、動機づけとして、枝葉をつけて
提案するような形でわたしのところに持って来ますよ。
それでいいと思うんです。
たとえば、わたしの高校には
対象中学が79校あるんですが、
先生方はこれまで足を運んだこともなかった。
そこに、自発的なかたちで
「募集委員会をつくります」
という先生が出てきたんです。 |
糸井 |
そういうときはどうするんですか? |
内田 |
わたしもちょっと知らぬ振りして、
「それ、何ですか?」という(笑)。
「いや、これから学校紹介を
やっていかなきゃいけないと思って」
「ああ、それ、いいことだね」
というかんじで、
バックアップするような姿勢をとります。
そうすると、実行されていく。
こういうやり方が
いちばんいいのかなと思ってます。
最初は企業みたいに
強引にロープでガーンと引っ張って
いこうかなと思っていたんですが、
「それはちょっと無理だ」と思い直して
現在は、ゴム紐に切り替えて
投げかけたことが忘れた頃について来るかんじですか。 |
糸井 |
企業の場合は、そうやって
上に引っ張られるわけですか。 |
内田 |
企業は、上に言われたら
やらざるを得ないです。
それも自分の
オリジナリティーをつけて・・・。 |
糸井 |
上が決めちゃってから動くということですよね。
学校の場合だと、
まずは内田さんが店を広げて、
そこに先生方の自由意思が中に入って
自律的な動きがある。 |
内田 |
そうです。
みなさんが何かを変えようと思っていることは
確かなんですよ。
ただ、現在やっている仕事と
大きく内容が変わるのは嫌がっています。
まあ、よくわからないということも
あるんだろうね。
「教育というのは、
そんなにガラガラ変わるもんじゃない」
という基本的な考え方はあります。
企業の場合は、一か八かの勝負をして
失敗したら戻ればいいや、
というところがあるでしょう? |
糸井 |
学校の場合は、そうはいかないですね。 |
内田 |
先生方は常に
新しいものに対してマイナーなことを
考えるんです。安全策を講じる。
「こうなってこうなったら困るでしょう」
「こういうおそれがあるからやめましょう」と。 |
糸井 |
お役人との仕事に似てて、
責任体系なんですね。
内田さんのようなタフな校長がいれば、
「おれがやっておれが責任をかぶる」
ということになっちゃう。 |