内田 |
わたしは校長になって、17、8歳の高校生を
たくさん見るようになりましたが、
どうも、自分の時代と比べちゃうんです。
我々のときは立派だったとか
決してそういうことではないんだけれども、
もっと自分のことを大事にしたものですよ。
「おれはこういうことをやって、
こういうふうになりたいな」
という話が、飯を食っていても、何をしていても、
友人同士で出ていた。
そうやって、自分の能力を
ある程度把握するようにもしていた。
今の子どもたちはあまりにも自分を知らなすぎる。
これは、ものすごく強く感じますね。 |
糸井 |
粗末なんですよね。 |
内田 |
粗末ですよ、ほんと。
自分のベースがないものだから、
人のよさが見えてこないし。
わたしはずっと野球と関わりをもって
これまでやってきたんですが、
これはわたしが野球をしてきたことでの
最後の結論なんです。
「スポーツとは人のためにあらず、
おのれのために励むべし」。
勉強でもスポーツでも同じです。
これは当たり前のことなんです。
今の子どもたちは
壁にぶつかるまでとことん自分を追い込むことが
なかなかありませんから、
こういう実感が持てないのも無理もない。
何かに懸命に励むと、
自分にはできないことがわかってきたりします。
そういうときに他人を見ると、
自分にできないことを難なくやっている人がいる。
「いやぁ、この人はすごいな」
と思える。
わたしにはそういう機会がいっぱいあったんですが、
今はこんな気持ちを持つ子があまりいない。
だから、尊敬する人、目指す人が見えてこないんです。
話をしていると、ほとんどそんなかんじですよ。 |
糸井 |
スポーツをやっていると、そういう機会がきっと
たくさん出てきますね。
だからこそ、自分のためにやることだと。 |
内田 |
日立でやっていた若手を育成するシステムのうち、
取り入れようと思っているものがあるんです。
「あなたのよい点は何ですか?
悪いところは?」
こんなふうに単純なことを
全学年に書かせて、それを
1年生、2年生、3年生と、何回か繰り返す。
そうやって自分の進路をつかみ、
潜在能力を掘り起こし、顕在化したところで
先生がアドバイスするような形を
とろうとしているんですよ。
わたしは、教壇のことは
先生に任せればいいと思っています。
でも、教育する方法をどうしようかと
考えるだけではなくて、
「教育されるほう」を
もうちょっとなんとかしてあげようよ、
と思うんです。
自分の進路に対してイメージングができるような
パソコンのソフトを導入して
進路ナビゲータのようなものをどうか?
と、提案しているんです。 |
糸井 |
こう考えたらこうなるのかと、
簡単に形になるものがいいですよね。 |
内田 |
そう。
ポンとボタンを押すといろいろ出てきて、
進むべきところを自分で選んでいく。
大学を選んだとしても、その学部の中では
どんなところに就職しているかがわかる。
高島高校は27年間のデータベースがありますから、
これをそのまま入れればいいんですからね。
今、ソフトがあるにはあるんですよ。
ただ、難しいんですよ、ゴチャゴチャしてて。
もっと簡単にテレビゲーム感覚で
自分を検索できるものがいい。 |
糸井 |
日立ではその方式のものが
若手の人材育成に使われていたんですね。 |
内田 |
ええ。わたしが日立の野球の監督のときにも
こういうテストをして、
ものすごい効果があったんですよ。 |
糸井 |
自分を探るということですから、
自分のいい点、悪い点を探す能力が
まず必要になりますよね。 |
内田 |
そうです。
自分自身を背中から見れるかどうか。 |
糸井 |
野球部の選手には、
どんな効果があったんですか? |
内田 |
ある質問に「わたしの持ち球は60球」と
書いてきた投手がいたんですよ。
その選手に
「これ、おもしろいこと書いたな。
おまえ、60球ってどんな球だ?」
と聞いてみたんです。そしたら、
「スコアブックを見たら、
どうも60球あたりで
いつもつぶれているんです」
といい出した。
「いいことに気がついたね。
じゃ、なぜ60球なんだろう?」
といったら、本人が一緒に考えて、
「やはり下半身が弱いために
フォームも崩れると思います」
「じゃあ、下半身強化のために何かやっているか?」
「いや、まだやってません。ランニングぐらいです」
「じゃ、一緒に考えよう」
といって、それで編み出した
トレーニング法があるんです。
その選手が腰を沈めた姿勢を保てる位置に
下着に使うゴムを50mぐらい引っ張って固定して、
そのゴムの下を、頭すれすれに走るんです。 |
糸井 |
それはすごい(笑)。 |
内田 |
腰を低くすると、
ピッチングフォームと同じ部分の筋肉が張る。
その状態で走るという訓練を
一冬ずうっとやらせたんです。
いいピッチャーになりまして(笑)、
そいつはやっぱりプロへ行っちゃいました。 |
糸井 |
いいですねぇ。 |
内田 |
いろいろアドバイスすると、
そこまで突き詰めて努力する選手が
出てくるんですよね。 |
糸井 |
生徒と先生の間にも
そういう環境を持ちたいですね。 |
内田 |
ええ。なかなかできないですけど。
わたしは5年間、いまの高校にいることに
なっているんですが、
その間に必ずものにしたいと思っているのは
ひとつだけです。
「生徒が自分を背中から見れるようになるシステム」
・・・それをもとに先生が具体的な指導ができる。
これだけやればいいかなと思っている。
先生方にもやっとわたしのイメージが伝わってきて、
学校説明会なんかでも進路説明の担当の先生から、
「自分を見詰めて自分を知りながら
将来を展望していく」
という言葉がポツポツ出てきているんです。
うちの学校は、
専門学校へ行く生徒がけっこう多いんですよ。 |
糸井 |
どういう専門学校が多いんですか? |
内田 |
看護の学校とか、美容の学校などですね。
四大に行く生徒が35%、
専門学校が36%いるんですよ。
でも、まだ高校生の年代で
専門職を考えるのは、なかなか難しいです。
友達が行くからとか、
見た目がよかったから行く生徒も多くて、
のちのち「間違っちゃったなぁ」と
いう子が結構いるんですよ。
専門職を選んだり、目標を設定するのに、
もうちょっときめ細かなことまで
突っ込んで指導しなくちゃいけない。
四大だったら修正がきくんですよね、
途中で学部を変えてもいいし。 |
糸井 |
あいまいですものね。 |
内田 |
そうです。でもね、
今、大学生に目標がぜんぜんない。 |
糸井 |
大学そのものがある種の
緩衝地帯みたいになっちゃっています。 |
内田 |
そうなんですよ。「何げなく」大学に行っている。
先日、母校を訪ねてきたんですが、
そのとき、教授の10人が10人とも
「困ったもんだ」といっていましたね。
でも、我々の若いときを振り返っても、
我々もそうだったよと(笑)。
ただ、そのとき、周りに自分を刺激してくれる
いい人たちがいた。 |
糸井 |
いろんなジャンルで
友達で自分より優れたやつが必ずいて、
「この野郎」とか「いいな」とか、
横のやつに対して
尊敬がありましたよね。 |
内田 |
そうなんですよ。
それがあるだけで、ずいぶん違うんです。 |