糸井 |
生徒たちに、
どういう若者になってほしいですか。 |
内田 |
わたしは日立にずうっといたおかげで、
ひとつわかったことがあるんです。
何が社会で通用し、
どういう人間が魅力的なのか。
前提として、まず、
「自分自身をわきまえて知っている」
ということですね。
そして、自分の能力を知っていながらも、
「何でも覚えよう、吸収しよう」という
ものすごい意欲を持って
人とうまくコミュニケーションをはかれる人間。
こういう人間を育てるのが
わたしたち教師の役目のひとつだろうと思います。 |
糸井 |
ああ、なるほど、
本当によくわかります。 |
内田 |
決して「勉強ができる」というのじゃない。
自分の意見は
常に問題意識を持ちながら主張できて、
そういうことに対して、
自分をどんどん向上しようという意欲を持ちながら
世間一般でうまくやっていく。
そういう人をめざして、
ホームルームや保護者会を中心に
施策を進めているんです。
都教委の教育長の前でもそう宣言しています。
だからわたしは、
教育そのものの質を上げるというよりも、
生徒たちの質を上げたいし、力を入れています。 |
糸井 |
そうですね。
仲間にしたい人を集めたい、
というような感じ。 |
内田 |
ええ。
一般教養は別としても、
何しろ意欲ある人間だったら、
社会全体が欲しがるということですよ。 |
糸井 |
学問は、後で学び直せますしね。 |
内田 |
あとは、可能性から考える
プラス思考の人間を育てていきたい。
こういうイメージで生徒に接してくれと
いっているんですけど、
学校は全く逆なんですよね。
先生方がマイナーなことしか教えないんですよ。
だから、生徒に
冒険心やチャレンジ精神がなくなっていく。 |
糸井 |
チェックリストのつくり方ばかり
教えるんですね。 |
内田 |
農大の環境の学部を受ける生徒が
校長面談を受けに来たんです。
その前に、担当の先生の面談を受けたらしいんですよ。
「卒業してどういう仕事をやりたいんだ?」
「都の活動をやってみたい」
「いや、組織に入ると、その中のひとコマに
なっちゃうから、それよりも
どこか小さいところに入って
実際に仕事をしたほうがいいんだよ」
と、その先生はいったんですって。
わたしは、というと、
「先生は小さいところを狙えというのですが」
「だめだ、それじゃ。
都庁へ入って、おまえが組織を動かすぐらいの
気持ちになってやらないと」 |
糸井 |
でっかいものをそのまま動かせ、と。 |
内田 |
そしたら、その生徒がニコッと笑った。
「何だ?」といったら、
「そうですよね、校長。
ぼくもそう思ったんだけど、
先生にいったら、怒られた」
というんです(笑)。
マイナスのことではなく、
いいこと、いいことを考えてほしい。
企業においても同じです。
例えばある仕事を進めようとするとき、
Aという部長を呼んで、
「ちょっとこれを検討しろ」
といったときに
「いやぁ、これはちょっと難しいですね、
できそうもないですね」
という対応だったら、もう
その者はやめたほうがいいです。
時間のむだです。
別の人、Bを呼んで、
「おもしろいですね、
わたしもこういうのをやりたかったんですよ、
ちょっとやらせてください」
といったらその者にやらせる。
100は進まなくても、そのほうが10、20は進むんです。
前向きに考える人間というのは、
何らかの形で前に進めてくれるんです。
こういう人間というのは、わたし
すごく大事にするんですがね(笑)。
生徒にも、いろいろ性格がありますけれども、
可能性から論ずることが
できるようになればいいと
思ってます。
企業が望む人材を表にしてみたのが
これなんですけど
(ファイルをめくる)。 |
糸井 |
協調性、牽引力、実践力が
要素として入っている。 |
内田 |
そうです。先生方は頭がいいから、
これがなかなかできない。 |
糸井 |
「構想60%で行動し、
修正しながら目標完遂する人」、
ああ、なるほどね。 |
内田 |
だいたいの先生方は
修正しながらではだめなんですよ。
100%でないと。 |
糸井 |
はじめてみないと
わからないことだらけなんですよね、
じつは。 |
内田 |
そうですよ。 |
糸井 |
企業では普通にいわれていることだけど・・・
まあ、企業もできてないですけどね。 |
内田 |
怖いんですよ。 |
糸井 |
これは生徒にも当てはまるし、
先生にも当てはまることですね。 |
内田 |
自分の教訓にもなっているんですよ。 |
糸井 |
内田さんには、失敗談ってありますか。 |
内田 |
ありますよ。ものすごく。
15億円をパーにして、
ボーナスを大幅にカットされたことがあります。 |
糸井 |
15億、痛いですね。 |
内田 |
そうですよ。
わたしより課長の方が
給料がよかったですから、当分(笑)。
ものごとを見る力がなかったから
起こったことなんですけど。
週刊誌の後ろに間違い探しってあるでしょう?
間違いがいくつあるかわからないと難しいけれども、
「5つ間違いがあります」といわれると、
たやすくわかりますよね。
いくつあるかわからないときは、
ものすごく疲れて、判断が鈍るんです。 |
糸井 |
間違い探しって、
そう書いてなければ、
何も間違ってないんですね。
あらゆるプロジェクトは
間違い探しなんですね。 |
内田 |
ええ。とにかくそういうことに対応できる、
覇気と意欲と自己完結力を持った人間を
ひとりでも多くつくりたいなと
思っているんです。 |
糸井 |
楽しみですね、なんだか。 |
内田 |
わたしがいちばん楽しみにしている。
「内田さん、自分自身の評価は?」
と質問されることがあります。
「・・・そうね、5年たってから、
卒業生と在校生にアンケートをとるしかないね」
と答えたんです。それしかないかな。 |
糸井 |
国民投票で
信任を問うわけですね。 |
内田 |
数字のデータとして
実績を残せればいいんだろうけれども、
まあ、そうもいかないでしょうし。 |
糸井 |
要するに、
お客様の感想を
ちゃんとまとめられたときが「答え」ですね。 |