CHILD
これでも教育の話?
どんな子供に育ってほしいかを、
ざっくばらんに。

第10回 構想60%で、修正しながら目標完遂


糸井 生徒たちに、
どういう若者になってほしいですか。
内田 わたしは日立にずうっといたおかげで、
ひとつわかったことがあるんです。
何が社会で通用し、
どういう人間が魅力的なのか。

前提として、まず、
「自分自身をわきまえて知っている」
ということですね。
そして、自分の能力を知っていながらも、
「何でも覚えよう、吸収しよう」という
ものすごい意欲を持って
人とうまくコミュニケーションをはかれる人間。
こういう人間を育てるのが
わたしたち教師の役目のひとつだろうと思います。
糸井 ああ、なるほど、
本当によくわかります。
内田 決して「勉強ができる」というのじゃない。
自分の意見は
常に問題意識を持ちながら主張できて、
そういうことに対して、
自分をどんどん向上しようという意欲を持ちながら
世間一般でうまくやっていく。

そういう人をめざして、
ホームルームや保護者会を中心に
施策を進めているんです。
都教委の教育長の前でもそう宣言しています。
だからわたしは、
教育そのものの質を上げるというよりも、
生徒たちの質を上げたいし、力を入れています。
糸井 そうですね。
仲間にしたい人を集めたい、
というような感じ。
内田 ええ。
一般教養は別としても、
何しろ意欲ある人間だったら、
社会全体が欲しがるということですよ。
糸井 学問は、後で学び直せますしね。
内田 あとは、可能性から考える
プラス思考の人間を育てていきたい。
こういうイメージで生徒に接してくれと
いっているんですけど、
学校は全く逆なんですよね。
先生方がマイナーなことしか教えないんですよ。
だから、生徒に
冒険心やチャレンジ精神がなくなっていく。
糸井 チェックリストのつくり方ばかり
教えるんですね。
内田 農大の環境の学部を受ける生徒が
校長面談を受けに来たんです。
その前に、担当の先生の面談を受けたらしいんですよ。
「卒業してどういう仕事をやりたいんだ?」
「都の活動をやってみたい」
「いや、組織に入ると、その中のひとコマに
 なっちゃうから、それよりも
 どこか小さいところに入って
 実際に仕事をしたほうがいいんだよ」
と、その先生はいったんですって。
わたしは、というと、
「先生は小さいところを狙えというのですが」
「だめだ、それじゃ。
 都庁へ入って、おまえが組織を動かすぐらいの
 気持ちになってやらないと」
糸井 でっかいものをそのまま動かせ、と。
内田 そしたら、その生徒がニコッと笑った。
「何だ?」といったら、
「そうですよね、校長。
 ぼくもそう思ったんだけど、
 先生にいったら、怒られた」
というんです(笑)。
マイナスのことではなく、
いいこと、いいことを考えてほしい。

企業においても同じです。
例えばある仕事を進めようとするとき、
Aという部長を呼んで、
「ちょっとこれを検討しろ」
といったときに
「いやぁ、これはちょっと難しいですね、
 できそうもないですね」
という対応だったら、もう
その者はやめたほうがいいです。
時間のむだです。
別の人、Bを呼んで、
「おもしろいですね、
 わたしもこういうのをやりたかったんですよ、
 ちょっとやらせてください」
といったらその者にやらせる。
100は進まなくても、そのほうが10、20は進むんです。
前向きに考える人間というのは、
何らかの形で前に進めてくれるんです。
こういう人間というのは、わたし
すごく大事にするんですがね(笑)。

生徒にも、いろいろ性格がありますけれども、
可能性から論ずることが
できるようになればいいと
思ってます。
企業が望む人材を表にしてみたのが
これなんですけど
(ファイルをめくる)。
糸井 協調性、牽引力、実践力が
要素として入っている。
内田 そうです。先生方は頭がいいから、
これがなかなかできない。
糸井 「構想60%で行動し、
 修正しながら目標完遂する人」、
ああ、なるほどね。
内田 だいたいの先生方は
修正しながらではだめなんですよ。
100%でないと。
糸井 はじめてみないと
わからないことだらけなんですよね、
じつは。
内田 そうですよ。
糸井 企業では普通にいわれていることだけど・・・
まあ、企業もできてないですけどね。
内田 怖いんですよ。
糸井 これは生徒にも当てはまるし、
先生にも当てはまることですね。
内田 自分の教訓にもなっているんですよ。
糸井 内田さんには、失敗談ってありますか。
内田 ありますよ。ものすごく。
15億円をパーにして、
ボーナスを大幅にカットされたことがあります。
糸井 15億、痛いですね。
内田 そうですよ。
わたしより課長の方が
給料がよかったですから、当分(笑)。
ものごとを見る力がなかったから
起こったことなんですけど。

週刊誌の後ろに間違い探しってあるでしょう?
間違いがいくつあるかわからないと難しいけれども、
「5つ間違いがあります」といわれると、
たやすくわかりますよね。
いくつあるかわからないときは、
ものすごく疲れて、判断が鈍るんです。
糸井 間違い探しって、
そう書いてなければ、
何も間違ってないんですね。
あらゆるプロジェクトは
間違い探しなんですね。
内田 ええ。とにかくそういうことに対応できる、
覇気と意欲と自己完結力を持った人間を
ひとりでも多くつくりたいなと
思っているんです。
糸井 楽しみですね、なんだか。
内田 わたしがいちばん楽しみにしている。
「内田さん、自分自身の評価は?」
と質問されることがあります。
「・・・そうね、5年たってから、
 卒業生と在校生にアンケートをとるしかないね」
と答えたんです。それしかないかな。
糸井 国民投票で
信任を問うわけですね。
内田 数字のデータとして
実績を残せればいいんだろうけれども、
まあ、そうもいかないでしょうし。
糸井 要するに、
お客様の感想を
ちゃんとまとめられたときが「答え」ですね。

(つづく)

2002-05-19-SUN

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