ほんとにぼくは、和田誠さんにあこがれて、
絵も真似しましたし、字も真似しました。
だから初めての監督作品のときも、
和田さんみたいな絵コンテを
描こうと思ったんですけど、
描いてみるとだんだんこう、なんていうか‥‥
絵コンテで描きやすい絵になっていくんです。
ほんとにやりたい絵じゃなくて。



あきらかにまずいですね、それは(笑)。
本末転倒になってくるんです。
むずかしいアングルとか描けないから、
安っぽい構図ばっかりになっちゃう。
よくないですよね。
ぜんぶのカットを描くなんて
ぼくには考えられないし、
無理です、ふつうは。
和田さんは『麻雀放浪記』の絵コンテを、
最初からぜんぶ描くつもりだったんですか。
ええと、それはね‥‥
最初はぼく、
シナリオだけを書けばいいと思ってたの。
酒の席で角川春樹さんに、
「『麻雀放浪記』のシナリオ書いてみたい」って、
まぁ世間話で言ったら、
「じゃあ、書いてよ」って言うから、
書いたんですね。
そのとき、シナリオ用の原稿用紙を
自分でデザインしたんです。
上の部分が空いてて絵も描ける原稿用紙を。
で、シナリオを書きながら、
ここはこういう画にしたいっていうのを
その原稿用紙に最後まで描いてたの。
そうしたら角川さんが、
「こんなにイメージがあるんだったら、
 これは自分でやるしかないね」って言うんで、
じゃあ、やってみようかなと。



はあー、そんな流れで初監督を。
うん。
ぼくは当時、大学生で
すごい和田ファンだったんですけど、
『麻雀放浪記』を撮ると知ったときには
とても意外な感じがしました。
もっとヒッチコック的なものとか、
ワイルダー的なものを
撮られるイメージだったので。
そのときたまたまね、
『麻雀放浪記』がおもしろかったから。
三谷さんは、
かなり、オタク的なまでに、
和田さんのことを学んでいますよね。
それはもう、だって、
小学生のころから本を読んでますから。
『お楽しみはこれからだ』とか。
ぼくの古い映画の知識は、
ほとんど和田さんの本から仕入れたものなんです。
小学生で、和田さんの
『お楽しみはこれからだ』を読んでた。
読んでました。
相当ませてましたよね、きっと。
大好きでした。
あのころはビデオもないですから、
そういう昔の映画に触れるのは、
和田さんの本しかなかったんですよ。
なるほどぉ。
ぼくが初めて和田さんとお会いして、
対談させていただいたとき、
ビリー・ワイルダーがテーマだったんです。
そこでぼくは、
「あの作品はこうなんですよね」とか、
知識をひけらかそうとしたんですけど、
その知識って、和田さんの知識なわけで‥‥。
あ、そうか(笑)。
対談中、それに気づいてがく然としました。
一同 (笑)
最初は気づかないんだ。
うれしくてしょうがないから(笑)。
緊張してますしね。
止まっちゃいかんと思って、しゃべりました。
しゃべりながら、
「これ、今しゃべってるこれは、
 ぜんぶ和田さんの本で読んだことだ」って。



一同 (笑)
和田さんはどうだったんですか?
どうやって映画の知識を?
自分で観た映画のことを覚えるっていうのが、
まずはありますよね。
あとはまぁ、
三谷さんがぼくの本を読んで覚えたみたいに、
ぼくはぼくで、もう一世代上の、
双葉十三郎さんとか野口久光さんとか、
そういう人たちの書いた記事を
『スクリーン』だの
『映画之友』で毎月、読んでたからね。
『スクリーン』や『映画之友』は、
三谷さんの時代にありましたか。
『スクリーン』はありました。
『ロードショー』っていうのも出ましたよね。
ぼく、『ロードショー』の1冊目を
買った覚えがあります。
それは小学生として、映画が好きで?
そうです、小学校、中学校のときに。
そうですかぁ。
双葉十三郎‥‥なつかしいですね。
うん。
あと、南部‥‥
圭之助?
南部圭之助
小森和子おばちゃま。
淀川長治先生。
大先輩ですね。
評論家のみなさんの話も含めて、
三谷さんが語る昔の映画っていうのは
ほとんどリアルタイムでは‥‥
観てないです。
ビリー・ワイルダーも、
ぼくは最後の2本しか映画館で観てないですから。
和田さんは、ほぼリアルタイムですよね。
ほぼね。
和田さんと三谷さんが
そういう映画ファンだってことを、
ぼくはよく存じ上げてるんですけれど、
自分はそれについて行けっこないと思って
あきらめた人間なんですよ。
ついこのあいだまで、
映画なんか観やしなかったんです。



そう?
最近がいちばん観てます。
ぼくは逆に、
最近のを観てないんだよね。
そうですか。
なんていうんだろう‥‥
あのころ若い人の常識みたいな映画が
何本かありまして、
『真夜中のカーボーイ』だとか、
『気狂いピエロ』だとか観ましたけど、
正直言って、ちょっと芸術芸術してて、
こしゃくに感じたんですよ。
ヌーヴェル・ヴァーグの時代とかもね。
そうそうそう。
わからないくせに、
わかったふりをしてる自分に気付いて、
それで映画から足が遠のいちゃったんですよねぇ。
それ、わかるな。
ぼくが学校を出てすぐのころから、
ゴダールというのが出てきたわけだ。
はい。
これ、むずかしいんだよ、ぼくにはね。
「和田くんには、あれの良さがわからないの?」
とか言われるんだけど。



(笑)
ぼくはやっぱりヒッチコックとか
ビリー・ワイルダーとか言ってるわけです。
だから好みが分かれましたよね、あのころ。
ええ。
あの枝分かれは、三谷さん、
経験しなくて
ほんとうによかったですよ。
そうですね。
だって、ぼくが映画をいちばん観たのは
やっぱり大学のころですけれども、
それは『ジョーズ』以降の、
スピルバーグの時代ですから。
あぁ、いいですねぇ。
(つづきます!)
2011-11-18 FRI