スピルバーグは、ぜんぜんウェルカムですよ。
大好きです、ぼくも。
ですからぼくは世代が、あとですよね、
ヌーヴェル・ヴァーグとかよりもずっと。
あのころはねぇ‥‥
文学に純文学と大衆文学があるように、
映画にも、芸術映画みたいなのがあって、
それに引きずられてる
学生運動で負けちゃった人たち、
みたいな風潮がずっと続いてたんですよ。
だから、
ジャズと映画はご法度だったんです、ぼく。
あ、そう?
その間隙を縫うように、
『網走番外地』があったんです。
それがあったおかげでぼくは助かった。
あれを5本立てで観てた自分がいたんです。
むずかしい映画について
人が語っているのを聞いては、
なんか悔しいなぁと思って、
引いてたんです。



本当はね、ぼくも
引くような映画のほうが
観るのは少なかったよ。
そうでしたか。
うん。
ときどき芸術映画があって、
ほとんどやっぱり、映画は娯楽だから。
ゴダールのころに、たとえば、
引かない映画があったよっていうと、
どんな作品が思いあたります?
そうね。
同じヌーヴェル・ヴァーグでもさ、
『彼奴を殺せ』とかね。



『きゃつをけせ』。
彼奴(カレヤツ)って書くやつ?
そうそう。
あとは、『殺られる』とかね。
『殺られる』、
はいはい、ありましたね。
「殺す」っていう字が「や」ですね。
いま言ったふたつはけっこう、
サスペンスものだしね、おもしろいですよ。

なるほどぉ‥‥ちょっと観てみようかな。

三谷さんは、じゃあ、
『ジョーズ』以前、
映画をさかんに観る前っていうのは、
基本的には読み物なんですか?

そうですね。
あとは、母の影響なんですけど、
小学校入って、10歳くらいのころ、
50年代とか40年代のアメリカ映画を
テレビでしょっちゅうやってたんですよ。



あぁ。
うちの母が、「これ、おもしろいよ」とか、
「これ、観ておきな」とか言うんで、
それを観てましたね。
で、もう10歳くらいでなんとなく、
自分はやっぱりハリウッド映画が好きで、
フランス映画は嫌いだっていう。
そういうことは思ってました。
10歳で。
観てて眠くなったんです、フランス映画は。
ぼくはいまでもそうです(笑)。
確実に眠くなります。
それとね、前衛が嫌い。
一同 (笑)
もう、うるさい。
ああだこうだ、七面倒くさいことばっかり言って、
「お前らみんな嫌いだ!」って思います。
一同 (笑)
あと、イタリア映画は泥臭いとか。
あぁ、たしかに。
で、アメリカ映画の中でも、
ぼくの好きな映画はことごとく
ビリー・ワイルダーという人がつくっていると、
あとでそれがわかったんです。
ビリー・ワイルダーを観たのもテレビですか?
テレビです。
マリリン・モンローが出てたりとか?
テレビですね。
イングリッド・バーグマンとか、
モンローは、ぜんぶテレビで観ました。
はぁ。
それ、吹き替えだったでしょ?
吹き替えです。
淀川長治さんが出てきたりして、
「さぁ、始まります」っていうやつですね?
そうです。
吹き替えだし、
しかもテレビだからカット版だし、
それでもやっぱりすごくぼくの中でそれは、
おおきな影響になっている気がしますね。
「おもしろい!」と思ったんですか?

そうです、もちろん。

あとは、そう、『十二人の怒れる男』
初めてテレビで観たときは、
たぶん7、8歳だと思うんですけど、
「こんなにおもしろい映画がこの世にあるのか」
と、そう思いましたね。

たしかにあれはおもしろいけどさ、
7、8歳であれがおもしろいと思うのは
えらいもんだよ。
やっぱり相当マセマセですよね。
うん(笑)。



なんかもう、
おとなたちが本当にこう、
喧嘩になるように論争してる感じが、
すごくいいなぁと思って。
芝居のあれ、
『11人の』やつは‥‥。
12人です。
12人だね。
すみません、12人の‥‥
『12人の優しい日本人』ですか。
そうそう、あれは三谷さんのお芝居を
映画にしたやつですよね。
ええ、そうです。
つまり、それをつくるところまで
三谷さんの中で、
「あの話がおもしろい!」という気持ちが
続いていたわけですよね、
7、8歳からずーっと。
そうですね、
『十二人の怒れる男』はほんとうに大好きです。
石坂浩二さんが演出された舞台も観ました。
伊東四朗さんがお出になってる。
それもおもしろくて、
自分もやりたい、出たい、
あの世界に入りたい、と思って。
で、もう自分で書いちゃえと、
日本版をつくったんです。



はぁー。
ぼくは三谷さんの映画を観てるんですよ、
『11人』は。
『12人』。
『12人』。
あれはおもしろかったですねぇ。
今じゃ、すっかりベテランになった
豊川悦司さんが出てましたよね。
はい。
ということは、
ぼくは孫を観てるみたいなものですか。
もとの映画との関係でいうと。
元の映画、
『十二人の怒れる男』はご覧になった?
や、観てないです。
それは、だめですよ。
すいません。
一同 (笑)
申し訳ないですけど、糸井さん、
あれは観てください。
観たほうがいいですよ。
すみません(笑)、
ほんとにもう、映画しろうとなもので。
おもしろいので、ぜひ。
(つづきます!)
2011-11-21 MON