糸井 |
砂田監督は、
「いろいろ、何、言われるかな」
みたいなことを
想像するタイプなんですか。 |
是枝 |
あはは(笑)。 |
糸井 |
笑ってるね。 |
是枝 |
僕、見せられた時に彼女に言ったのは、
いくつかの考えられうる批判的なコメントとか
批評を乗り越えるために、
何が必要かっていう話です。 |
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糸井 |
いい先生だなぁ(笑)。 |
是枝 |
要するに、取材相手の内面を
モノローグで語っているっていうことは、
「わかってやってるんだよ」ってことを、
きちんとナレーションの中で明示しないと、
そこは絶対言われるからと。
頭の固い人たちは、
「これはドキュメンタリーじゃない」って、
絶対言ってくるから、
そこはクリアしたほうがいいっていう話と、
モノローグで語っていくのはいいとしても、
告知をされた瞬間、父親がいない瞬間に、
カメラは立ち会ってるけど、
モノローグはお父さん目線で
そこまで来てるから、
そこでいっぺん絶対に脱臼する。
その先もモノローグで行くんだったら、
その脱臼をどう乗り越えるかっていうのが
ポイントだよっていう話をしたんです。
ただ、本人は、今になって、
まぁ9割はいい感想だとしても、
1割ぐらいの人は拒絶反応がある、
そのことが、ちょっと想像できなかったらしくて。 |
糸井 |
ほぉ。 |
是枝 |
だから、言ってるじゃねぇかよっていう(笑)。
本人は意外と、
あまりそういうこと考えずに
サラッとやっちゃった。 |
糸井 |
メッセージですね、
本人がナレーションを
やってることはね。 |
是枝 |
それが実は苦肉の策で、
最初は、お父さんと同じ世代の役者さんに
ナレーションを頼んでたんです。
でも、それをやってたら、
たぶんそこで一遍引っかかっちゃったことが、
いろんな事情があって、
結果的に本人が
ナレーションを読むことになったから、
確信犯だよっていうことが、
明らかになっちゃったんですよ。
怪我の功名というかですね、
後付けでOKになっちゃったんですよね。 |
糸井 |
なるほど。
あの撮影に助手とかはついてないですよね。 |
是枝 |
ついてないです。
基本的に全部一人で撮ってるんですが、
お葬式のシーンだけ、
さすがに自分で回すわけにいかないんで、
TBSで働いてた時にお世話になった人たちに
回してもらったって言ってました。 |
糸井 |
ていうことは、
あのナレーションを誰に頼むって
思いつきもしませんでした、
とも言えるんですよね、人には。 |
是枝 |
そうですね。言っちゃおうと思えば、
そうだと思います。 |
糸井 |
ね。だから、お客さんは自然に、
あ、本当に勝手に作ったんだ、
っていうふうに観てたんじゃないかなぁ。
そうか、のほほんとしてるんだ、そこは。 |
是枝 |
はい、意外と。 |
糸井 |
かと思えば
計算がちゃんとできてる部分もあるしねぇ。 |
是枝 |
わかんないんですよ。
本人、一緒にいてもね、
すごく大人の部分とすごく子どもの部分があって。
大したもんだなと思うことと、
「なんだよ、こいつ」っていう、
腹の立つことが同居してるもんですからね、
どうしたらいいのかわかんないですよね。 |
糸井 |
今、何歳でしたっけ? |
スタッフ |
33です。 |
糸井 |
33。はぁ。33だったら、
遠回しに確信犯なんだろうな、全部。 |
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是枝 |
どうなんだろうなぁ。 |
糸井 |
わかんない(笑)? |
スタッフ |
かわいいところは本当にかわいいんですよ。
素直で、無邪気といえば無邪気で。
33歳の女性を掴まえていうのもあれだけど、
天然じゃないかと思ってるんですけど。 |
是枝 |
でも、一緒に仕事してみて、
みんなある部分、もう勘弁してくれ、
と思ってるところあるんですよ。 |
糸井 |
うん。 |
是枝 |
それは結果的に監督向きだと思う。
その自分のこだわりにハマりこんだら、
まったく周りの言うこと聞かないんですよ。ね。 |
スタッフ |
はい、はい(笑)。 |
糸井 |
激しく頷いてますね。 |
是枝 |
みんな振り回されて。 |
糸井 |
でも、天然の人ってそうですよ。
ほら、馬や犬がさ、
動かなくなっちゃうのと同じで。 |
是枝 |
そこ、でもね、ちょっとすごいよな。 |
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スタッフ |
すごかったですね。 |
糸井 |
いいカゲグチだね(笑)。
これを読んで、あの映画を観ると、
またおもしろいね。 |
是枝 |
でも、本人はこんなふうに周りに、
なんていうんですか、迷惑とは言わないまでも、
いろんな意味でお世話を掛けてる、
っていう自覚がないんですよ。 |
スタッフ |
一切、わがまま言ってると思ってないです。 |
是枝 |
だから、僕が、時々メールとかで、
「あんまり周りにね、迷惑をかけないようにね」
って、やんわりと、やんわりと、
でも、5回くらい連絡はしてるんですけど、
本人からは、「大丈夫です!」って
明るいメールしか返ってこないんですよ。
まったくスタッフワークはうまくいってると。
それは強がってるというよりは、
本人が本当にそう思ってる感じなんですよ。
でも、その辺の鈍感さが、
監督には必要なんですよ。 |
糸井 |
うーん、うんうんうん。 |
是枝 |
そこに全部気が行っちゃうと、
だめなところはあるんで。 |
糸井 |
ジャッジできなくなっちゃいますもんね。 |
是枝 |
だから、そこは監督向きなんだけど、
周りは大変だなぁと思って。 |
糸井 |
そういう意味では、是枝さんとかって、
監督としてはハンディキャップ
背負ってるんじゃないですか。
気が付いちゃうでしょう? |
是枝 |
あのね、僕はそう思ってるんですけど、
周りに言わせると、
すごく似てるって言うんですよ。 |
スタッフ |
そっくりですもん。 |
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糸井 |
えっ? そうなんですか。 |
スタッフ |
すごく似てます。 |
是枝 |
‥‥。
(是枝さんがアレッ? となったところで、つづきます) |
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