映画『エンディングノート』が、 あまりによかったので。 『エンディングノート』オフィシャルサイトはこちら。 予告編も、ごらんいただけます。
*公式サイトは終了しました。
是枝裕和×糸井重里【カゲグチ対談篇】
その4 「似ている」がひとつのキーワード。
糸井 映画から離れてる是枝さんしか
僕はお会いしたことないから、
この人、どっちかっていうと、
文字を書く人の感性だなって思って
話をしてました。
映画撮ってる時の是枝さんの
乱暴さみたいなのは見えてこない。
是枝 あぁ、僕はすごく
気を遣ってるつもりなんですけど。
だって、本当に(笑)。
糸井 梱包芸術のクリストっていう人と
対談をする機会があって、
僕、とっても好きだったのでうれしくて、
行ったんです。
で、向こうの人たちは
いい対談だったって言ってくれるんだけど、
僕にしてみると、普段やってる対談と全然違って、
まったく相手が
僕っていう車に乗ろうとしないんですよ。
なのに、会話は盛り上がって‥‥。
自分の話しかできない人なんですよね(笑)。
是枝 はぁ。
糸井 で、そのくらいじゃないと、
あんなことはできないんだなっていうことが
本当によくわかる。
そこまで含めて天才なんだろうなぁって思って、
尊敬したままで帰ってきたんです。
もし俺がクリストより優れてるところが
1つあるとすれば、相手の話に乗れること(笑)。
で、おそらく映画監督の方なんかは、
相手の話に乗れない人、山ほどいますよね。
是枝 たぶん、僕、
元がテレビのディレクターだから、
どっちかっていうと、取材する側のほうが、
気持ちがよかったりもするんですね。
‥‥まぁ、僕の話はいいですけどね。
糸井 でも、是枝さんと砂田監督って、
対比で出てくるものが結構あるよね。
つまり、彼女を見つけたのも、
是枝さんなわけで。
是枝さんが、「GO」って言わなかったら、
プライベート作品のままだったわけでしょう。
是枝 でも、あれはやっぱり、
もう見せられた時に、
エンターテインメントだったんですよ。
確実にこれは劇場公開を意識してるというか、
もう作品がそういう大きさを内包していた。
それは押しとどめようがないなって。
「いいお父さんだったね」
では済まない感じがしたんですね。
糸井 是枝さん以外の人も観て、
やっぱり(公開に)賛成って感じですか?
是枝 はい。みんな、
商品になるドキュメンタリーだなっていう
印象を持ちましたよね。
糸井 (スタッフのかたに)
皆さん、同じ業界の人ですよね。
「やったね!」みたいな
気持ちがあるわけですか?
「これ、行けるんじゃない?」みたいな。
こう、スウィングの音が聞こえるっていうか。
スタッフ はい、それはありましたね。
観た後に、みんなが語れる映画なんだろうな、
というふうに思いました。
糸井 ぼくもそう思いました。
うれしそうですよね、観た人がね。
人が亡くなった話なのにね。
スタッフ 「おもしろかったって言っていいのかしら」
って、おっしゃる方も多いです。
糸井 指折り数えると、映画に登場する
それぞれの人が全部おもしろいんですよね。
是枝 その出し入れがうまいんですよ。
糸井 うまいですね。分量とかね。
是枝 分量とか配分がね、
ドキュメンタリーなのに、
脚本をあらかじめ書いたみたいに。
あのお兄ちゃんの、
書類をめくる姿とかって、
ワンカットで、
「あ、長男、お父さんに似ちゃったんだな」
ってわかるような登場のさせ方してて。
糸井 よかったですよねぇ(笑)。
「似ている」っていう言葉、
映画全体に、1つのキーワードでしたね。
是枝 はいはい!
糸井 似ているところと似てないところを、
注視してましたね。
あのタクシーのシーンで。
“本人が本人に似ている”
ところから始まるじゃないですか。
“過去の私は今の私に似ている”でしょう。
あそこでまえがきを読まされたような気がして。
で、“生きる”と“死ぬ”は似ているとかね。
そして、あのさだまさしみたいなお兄ちゃんが、
お父さんの、あの名セリフを引き出しますからね。
是枝 あれがすごいですよね。
見てて、そこまで聞くなよって、
みんな思ってる時に、
お父さんがあのユーモアで
引き受けてくれる。
すごいですよねぇ。
糸井 あそこ、よかったぁ(笑)。
是枝 あれは絶妙です。
編集点がわかってるような
オチの付け方を、お父さんがしてるんですよ。
糸井 あれ、たぶん本当に
そう思っちゃってるんですよね?
是枝 あれは‥‥うーん(笑)?
どうなんだろうなぁ、あれなぁ。
糸井 ブラックユーモアとも取れるんだけど。
是枝 そういう場面はもう1か所あるんですが、
微妙ですよね。
まだまだ笑かそうとしてやっているのかな。
糸井 ひょっとしたらね。
おもしろい人って、
そのくらいやるからね。
どっちでもいいんですけどね。
あ、今のキーワードで言うと、
笑わかそうとしてることと、
笑わかそうとしてないことは似ているんですね。
心は同じですね。
是枝 あの笑い、
笑わそうとはしてないんだけど、
あの笑いが、
周りの人間を救うんですよ。
糸井 救う、救う!
是枝 それがすごい魅力ですね。
糸井 救う、救う。
あのお父さんは、全体に救ってますね。
是枝 長男の「厳しさ」も
結果的に救ってますからね(笑)。
糸井 そうだよね(笑)。
だけどさ、監督は、笑いもしないで、
ずっとその状況を撮ってたわけじゃないですか。
病室でも。
「邪魔」とか言われないじゃないですか。
是枝 きっと、お父さん子なんですよね。
だから、病気になってからは、
撮ることで傍にいる必然性が
彼女の中に生まれたと思うんです。
糸井 そうか、そうか。うんうん。
是枝 そうは言っても、
身内を撮る時のポジショニング、
本当にむずかしいんですよ。
糸井 僕は、ちょっと前に雑誌の恋愛特集で、
恋愛っていうのは何か、
みたいな取材を受けて。
でね、長年考えてて思ったのは、
あらゆる恋愛は迷惑だ、
ってことなんだよ。
ひと組の幸せなカップルは、
横で好きになってた人にとっては、
もう不幸なわけだし。
2人が2人を大事にしてるっていうことで、
周りの人は、もっとやってほしいことを
やってもらえないかもしれないし。
あらゆる意味で、
2人でいるっていうことに
幸せはあるかもしれないけど、
周りには迷惑なんです。
だから、結婚式で、
一気に形にしちゃって、
お終い、ってやっちゃうんだよ。
つまり、葬式と似てるんです。
で、家族の物語っていうのは、
やっぱり同じで、
恋愛ものの延長線上みたいなところがある。
子ども自慢にせよ、のろけにせよ、
根本的には迷惑な話で。
だから成立しないんだよ、
っていうのがあるんだけど、
なんかそこにチョロチョロチョロっと
漏れ出す水みたいなものがあって(笑)、
成立しないと言ってみたものの、
「同病相哀れむ」じゃないけど、
迷惑同士が仲良くなるみたいな、
そういう水脈が、
地底に流れてるんじゃないかなぁ。
それをうまくすると、
ああいう映画みたいに、
迷惑じゃない家族映画が
できちゃうんじゃないかなぁ。

(次回につづきます)
砂田麻美監督【感激インタビュー篇】*会話のなかで  「あのシーンがよかったです」というように、  映画の内容について触れています。  ネタバレは困る! というかたは、  ぜひ映画をごらんになってから、  このコンテンツを読んでくださいね。
その3 みんな、強い。
── お母さんは、この映画を公開することには
なにかおっしゃっていましたか。
砂田 実感がないんですね。
突然映画にするって言われても、
何がどういうことなのかって。
例えば、キムタク主演の映画の相手役として、
いきなり一般の人に出てくださいって言ったら、
それはもうリアルにどういう事かわかりますけど、
この家族の話が映画になると言われても、
あまりにピンと来ないので、しばらくは
「どういうことだろう?」っていう感じでした。
けれどもプロモーションが始まりだしてから、
リアルにわかってきた。
リアルさという意味では、私自身もそうでした。
それで、母親は、
こういう個人の日記のようなものを人様にさらして
本当にいいんだろうかっていうことを、
何日か言ってましたよね。
それはもう本当に普通の感覚だと思います。
── そうですね。そこは説得したんですか?
砂田 説得というよりは、
当初から映画にしないでくれっていう意図で
「いいんだろうか」と言ってるんじゃない、
というのは分かってたんですよ。
けれども、一瞬では気持ちの整理がつかないから、
どうしたらいいのかっていう感じだった。
だから、ある意味、この映画で
一番考えたことは何かって訊かれたら、
そこかもしれないですよね。
文章でも映像でも、
誰かの話を世の中にさらすっていうことの、
責任と痛みをここまで強く感じたのは初めてでした。
母親の不安は、やっぱりすごくよくわかったから。
ただ、当初そういう思いがありつつも、
理解してくれたのはほんとにありがたかったです。
── お兄さんやお姉さん、その他のご家族の
反響はいかがでしたか。
砂田 皆とても理解がありました。
子供の時からちょっと変わってたようなので
半ばあきらめてるのかもしれない(笑)。
それから、おそらく、
父親がみんなと仲が良かった
というのも大きいと思います。
親戚どうしのいいパイプ役だったんです。

── そんなところでも
「段取り」ができていたかたなんですね(笑)。
出演者のひとりであるお兄さまも、
自然な感じでカメラの前で話されていました。
ずっと回してらしたから、
ああいう自然さが出たんですか?
砂田 そうだと思いますね。
私が洗礼をするシーンとか、
別に「撮って」とか言ってないんですけど、
兄がカメラを持って回していたりとかして。
── あそこ、可笑しかったです。
監督がおもしろかったですよね(笑)。
砂田 そうなんです、
洗礼をさずけるための
アンチョコ見てるんですよね。
でも私も家族も大真面目なんですよ(笑)。
── ふたりの姪ごさん、
お父さんにとっては孫たちも、
すごくよくて‥‥。
お祖母ちゃんも、よかったです。
たくましい人。
今、お祖母ちゃんはどうなさってますか。
砂田 元気に暮らしてます。
── そうですか、そうですか。
砂田 もう、父の妹のほうが、
「私見れるかしら、映画」っていう感じなんですけど、
お祖母ちゃんは、もう全然、
「初日に行くわ」くらいな感じで。
強いんですよ。
── 糸井もね、
「伊丹十三さんの映画みたいだ」
って言ったんですが、配役が、完璧(笑)。
お兄ちゃんなんか、もう本当に
こういう役の人みたい(笑)。
お父さんとお兄ちゃんのやりとり、
あのしつこいやりとり。
砂田 しかもなんか泣いてるみたいな、2人とも(笑)。
── なんかぐずぐずして、
でも、ビジネス用語出てくるし(笑)、
何がなんだか(笑)。
砂田 「オプション」とか言ってますもんね。
── 「コンフィデンシャル」。
なんだかこの映画は、
人が亡くなる映画なのに、
思い出すと幸せになるんですよ‥‥。
砂田 ありがとうございます。

(次回につづきます)


2011-10-19-WED

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