是枝 |
糸井さん、これをご覧になった時に、
何かに似てると思いました?
なんかそういう、
他に、表現されたものだとすると。 |
糸井 |
あぁ。何に似てると思ったんだろう‥‥。
見つけられてないですね。
僕はやっぱり、小っちゃい所に行ったり、
大きい所に帰ったり、
マクロ(巨視的)と
ミクロ(微視的)を、
しょっちゅう往復しているような気持ちになって、
それが知的快感だったんですね。
監督が考えてた分量は、
この気持ちよさなのかなっていうか。
「死」っていうのも、
すごく引いて考えたマクロな話だし。
でも「今、脈が止まる」っていうのはミクロだし、
そこを行ったり来たりしてるんだよ。
お父さんとお母さんのシーンにも、
時間を、全部凝縮したかのような
シーンがあったし‥‥。 |
是枝 |
はい。 |
糸井 |
あ‥‥言ってると泣きそうになりますね(笑)。 |
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是枝 |
(笑) |
糸井 |
あれ、平凡な愛ですよね。
それ、なんか、スッと、
迷惑じゃないんですよね。
やっぱり「何に似てる」って、ないですね。 |
是枝 |
確かに、すごく小さなことの描写と、
ふっとこう普遍的なところへ意識が飛ぶ、
その行き来の出し入れが、
やっぱりすごくうまくできてるんですよね。
自分のことばっかり考えちゃう
ドキュメンタリーもあるだろうし、
そこまでディテール見せなくてもいいよ、
って思っちゃうものもあるんだけど、
それがやっぱりちょうどいい頃合いなんですね。 |
糸井 |
僕は砂田監督とちゃんとお会いしたことないんだけど、
監督は「自分一人じゃ足りない」っていうことを、
すごく、いわば謙遜な気持ちだと思うんだけど、
それを持ってるいい子なんじゃないかなっていう。
‥‥褒めすぎですかね、これは。 |
是枝 |
うん、ちょっと褒めすぎかも(笑)。 |
|
糸井 |
あの家族みんながそうなんですけどね。
お父さんはお父さんで、会社の中で、
「俺が!」っていうふうに生きてるというよりは、
「うまく仕事が回りますように」
って生きてるじゃないですか。
で、あの映画も、
お客さんが笑ってくれて
初めて成立するみたいな作り方をしてて。
で、このまま真剣に取られちゃ
困るんですけどっていうところは、
ちゃんと落とす。 |
是枝 |
はい、やってますね。 |
糸井 |
そこにみんなが感心するんだけど、
それはとりもなおさず、
「私の考えを見て」じゃなくて、
「一緒に遊びましょう」なんですよ。 |
是枝 |
そうですね。その押しつけがましくない感じは‥‥。
あれ? 本人は、
ちょっと押しつけがましいかもしれないぞ(笑)。 |
糸井 |
ふふふ(笑)。
監督をやるっていうことと、
矛盾しちゃうんですけどね。 |
是枝 |
でも確かに、自己愛とか家族愛とかが、
ベトッと出てきてないところがありますね。 |
糸井 |
出てこない、出てこない。 |
是枝 |
たぶん、そこが
エンターテインメントになってるところですね。 |
糸井 |
ところで『エンディングノート』の
予告編とかサイトとか、いいですよね。 |
是枝 |
ありがとうございます。 |
糸井 |
だいぶ引きずられましたよ。 |
スタッフ |
うれしいです。 |
糸井 |
「この映画は、俺、観るべきだと思うんだよね」
っていう時に、
「こういうページあるけど、見たほうがいい」
って言える場合と、
「そのページは、見ないでおいたほうがいい」
っていう場合があるんです。
『エンディングノート』は、
すごくよくできてて、
「あのページ見れば、観たくなるよ」って言えた。 |
是枝 |
予告は、僕の映画でも、
砂田監督にけっこう作ってもらってたんです。
うまいんですよ。
また癪にさわる話ですけど、
僕が本編で落とした、
とってもいいカットを、
予告に引っ張ってきて入れてたんですよ。 |
糸井 |
ほぉ! |
是枝 |
それを見せられて、くそぉと思って。
僕、そのカットを本編に
もう一遍使い直したんです。 |
糸井 |
へぇー! |
是枝 |
そういうこと、サラッとやってくるんですよ。
本編からは落としたものの
「あれ、よかったのにな」と思ってた部分を、
予告編に数秒使うって。
まぁ相当よく素材を見てる。
だから信用できるんですよ。
‥‥癪にさわるなぁ。
すごい悔しいんですよ。
それはやっぱり監督としては。
でも、それは褒めました。 |
|
糸井 |
かっこいいですね。
今の話はすごいです。
もし俺、会社でそんなことやられたら、
本当に褒めちゃうなぁ。へぇ。 |
是枝 |
悔しかったですけど。 |
糸井 |
一番いい観客でもあるしね。 |
是枝 |
そうなんですよ。そうなんです。 |
糸井 |
そういう意味では、じゃあ、
『エンディングノート』っていう
映画を観てる是枝さんは、
よくいいとこ拾ってるんだろうなってことを
知ってて観てるわけですよね。 |
是枝 |
「今入ってないけど、
こういうカットないの?」
って言ったのは、本当に数ヶ所だけです。 |
糸井 |
そんなのがあるの(笑)。 |
|
是枝 |
最初、医者をやっていた
お祖父ちゃんのカットとか
入ってなかったんです。
でも言うと、いろんな素材が出てくる。
「この辺、あったほうがいいな」
と思うものは撮ってるんですよ。
あのお父さんが、
なんで医者にこだわってるかっていうのも、
お祖父ちゃんのシーンがあることで
すごくわかってきたりする。 |
糸井 |
あれ、ちょっとホッとするんですよ、
全体観てる中で、普通の部分だし、
なんか知的な会話ができてるって
感じがするんですよね。
(次回、最終回につづきます) |