映画『エンディングノート』が、 あまりによかったので。 『エンディングノート』オフィシャルサイトはこちら。 予告編も、ごらんいただけます。
*公式サイトは終了しました。
是枝裕和×糸井重里【カゲグチ対談篇】
その5 平凡で、迷惑じゃない愛。
是枝 糸井さん、これをご覧になった時に、
何かに似てると思いました?
なんかそういう、
他に、表現されたものだとすると。
糸井 あぁ。何に似てると思ったんだろう‥‥。
見つけられてないですね。
僕はやっぱり、小っちゃい所に行ったり、
大きい所に帰ったり、
マクロ(巨視的)と
ミクロ(微視的)を、
しょっちゅう往復しているような気持ちになって、
それが知的快感だったんですね。
監督が考えてた分量は、
この気持ちよさなのかなっていうか。
「死」っていうのも、
すごく引いて考えたマクロな話だし。
でも「今、脈が止まる」っていうのはミクロだし、
そこを行ったり来たりしてるんだよ。
お父さんとお母さんのシーンにも、
時間を、全部凝縮したかのような
シーンがあったし‥‥。
是枝 はい。
糸井 あ‥‥言ってると泣きそうになりますね(笑)。
是枝 (笑)
糸井 あれ、平凡な愛ですよね。
それ、なんか、スッと、
迷惑じゃないんですよね。
やっぱり「何に似てる」って、ないですね。
是枝 確かに、すごく小さなことの描写と、
ふっとこう普遍的なところへ意識が飛ぶ、
その行き来の出し入れが、
やっぱりすごくうまくできてるんですよね。
自分のことばっかり考えちゃう
ドキュメンタリーもあるだろうし、
そこまでディテール見せなくてもいいよ、
って思っちゃうものもあるんだけど、
それがやっぱりちょうどいい頃合いなんですね。
糸井 僕は砂田監督とちゃんとお会いしたことないんだけど、
監督は「自分一人じゃ足りない」っていうことを、
すごく、いわば謙遜な気持ちだと思うんだけど、
それを持ってるいい子なんじゃないかなっていう。
‥‥褒めすぎですかね、これは。
是枝 うん、ちょっと褒めすぎかも(笑)。
糸井 あの家族みんながそうなんですけどね。
お父さんはお父さんで、会社の中で、
「俺が!」っていうふうに生きてるというよりは、
「うまく仕事が回りますように」
って生きてるじゃないですか。
で、あの映画も、
お客さんが笑ってくれて
初めて成立するみたいな作り方をしてて。
で、このまま真剣に取られちゃ
困るんですけどっていうところは、
ちゃんと落とす。
是枝 はい、やってますね。
糸井 そこにみんなが感心するんだけど、
それはとりもなおさず、
「私の考えを見て」じゃなくて、
「一緒に遊びましょう」なんですよ。
是枝 そうですね。その押しつけがましくない感じは‥‥。
あれ? 本人は、
ちょっと押しつけがましいかもしれないぞ(笑)。
糸井 ふふふ(笑)。
監督をやるっていうことと、
矛盾しちゃうんですけどね。
是枝 でも確かに、自己愛とか家族愛とかが、
ベトッと出てきてないところがありますね。
糸井 出てこない、出てこない。
是枝 たぶん、そこが
エンターテインメントになってるところですね。
糸井 ところで『エンディングノート』の
予告編とかサイトとか、いいですよね。
是枝 ありがとうございます。
糸井 だいぶ引きずられましたよ。
スタッフ うれしいです。
糸井 「この映画は、俺、観るべきだと思うんだよね」
っていう時に、
「こういうページあるけど、見たほうがいい」
って言える場合と、
「そのページは、見ないでおいたほうがいい」
っていう場合があるんです。
『エンディングノート』は、
すごくよくできてて、
「あのページ見れば、観たくなるよ」って言えた。
是枝 予告は、僕の映画でも、
砂田監督にけっこう作ってもらってたんです。
うまいんですよ。
また癪にさわる話ですけど、
僕が本編で落とした、
とってもいいカットを、
予告に引っ張ってきて入れてたんですよ。
糸井 ほぉ!
是枝 それを見せられて、くそぉと思って。
僕、そのカットを本編に
もう一遍使い直したんです。
糸井 へぇー!
是枝 そういうこと、サラッとやってくるんですよ。
本編からは落としたものの
「あれ、よかったのにな」と思ってた部分を、
予告編に数秒使うって。
まぁ相当よく素材を見てる。
だから信用できるんですよ。
‥‥癪にさわるなぁ。
すごい悔しいんですよ。
それはやっぱり監督としては。
でも、それは褒めました。
糸井 かっこいいですね。
今の話はすごいです。
もし俺、会社でそんなことやられたら、
本当に褒めちゃうなぁ。へぇ。
是枝 悔しかったですけど。
糸井 一番いい観客でもあるしね。
是枝 そうなんですよ。そうなんです。
糸井 そういう意味では、じゃあ、
『エンディングノート』っていう
映画を観てる是枝さんは、
よくいいとこ拾ってるんだろうなってことを
知ってて観てるわけですよね。
是枝 「今入ってないけど、
 こういうカットないの?」
って言ったのは、本当に数ヶ所だけです。
糸井 そんなのがあるの(笑)。
是枝 最初、医者をやっていた
お祖父ちゃんのカットとか
入ってなかったんです。
でも言うと、いろんな素材が出てくる。
「この辺、あったほうがいいな」
と思うものは撮ってるんですよ。
あのお父さんが、
なんで医者にこだわってるかっていうのも、
お祖父ちゃんのシーンがあることで
すごくわかってきたりする。
糸井 あれ、ちょっとホッとするんですよ、
全体観てる中で、普通の部分だし、
なんか知的な会話ができてるって
感じがするんですよね。

(次回、最終回につづきます)
砂田麻美監督【感激インタビュー篇】*会話のなかで  「あのシーンがよかったです」というように、  映画の内容について触れています。  ネタバレは困る! というかたは、  ぜひ映画をごらんになってから、  このコンテンツを読んでくださいね。
その4 ドラえもんみたい。
── アワビのシーン、結構好きです。
お父さん、思い入れがあったわりに、
あまり感激するふうでもなくて。
砂田 そうなんですよ。
唯一私がディレクター的に
何かを促した箇所があるとすれば、
そこなんですよ。
あまりにも何も言わないんで、
「どう?」って聞いたんです(笑)。
── うん、うん、うん。
砂田 リアクションが究極的に少なかったんで。
ついつい、訊いちゃったんですよ。
でもおいしかったらしいんですよ。
本当に待ち望んでて食べれた時って、
もしかして無言になっちゃうのかもしれないですね。
── ご臨終のシーンは、
お医者様とのやりとりの音声だけで、
画面には風景が映っていましたね。
あそこは、撮ったけれど使わなかったんでしょうか。
砂田 その付近は、もうすっごい忙しかったんです。
今までテレビとか映画で見る、
家族が看取ったりするシーン、
手を握ってゆっくり、
「お父さん、さようなら」みたいな、
静かな感じをイメージしてたら、
じつはめちゃめちゃ忙しくて。
先生は、延命処置はどうするかって聞いてくるし、
痛み止めを打つか打たないか、
私に全ての判断を仰いでくるんです。
先生と話をしながら、
カメラを回したり、オフしたり、
だから、自分が何を撮って
何を撮ってなかったかって、
編集するまで覚えてなかったんですよ。
── うんうん。
砂田 でも、どっちにしろ、亡くなった時に、
父にカメラを向ける向けないにかかわらず、
使わないだろうっていうのは
もう明解に分かってたから、
あんまりそこは気にしなかったんですよね。
── 病院内でも、
普通にホームビデオを撮る感じで撮ってらっしゃって、
先生も普通に喋ってらっしゃいますよね。
砂田 はい。
「ずっと父を撮ってるんですけど、
 何か(作品)にする時は、
 ちゃんと許可を取ります。
 撮らせてもらってもいいですか」って訊いて、
撮ったんですね。
── なんか神父さんにしろ、先生にしろ、
とても自然で。
きっと、監督の撮り方が
すごく上手なんじゃないかなと思って。
それぞれの人の、すごくかわいい
一面が映ってるんですよね。
みんな好きになっちゃう。
すごいですよね。
砂田 カメラを通すとね、
会う前は本当にどういう人なんだろうと
思ってた人でも、
みんななんか好きになっちゃうんですよね。
カメラを通すと、必ずいいところが見えるっていうか。
だから、私はマイケル・ムーア的なものは
作れないと思います。
── カメラを通すと悪いところが映る(笑)。
そういう人もいますよね。
砂田 最初から悪と決めつけて描く事は、
たぶん無理だと思うんです。
── 不思議なカメラをお持ちですね(笑)。
ドラえもんみたい。
‥‥ということは、お父さんも、
本当はこういう人じゃないのかもしれない?
砂田 そうそう、そうですよ。
父親もね、ある側面においては、
やっぱり短気だったりとか、細かすぎるとか、
部下はやりにくい人もきっといただろうし、
そんなね、完璧な人じゃ全然ないです。
── でも、かわいい、本当に、お父さん。
糸井も言いましたが、
あのお父さんに会いに行きたいから、
また映画館に行きたいですもん。
砂田 (笑)

(次回につづきます)



2011-10-20-THU

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