糸井 |
今は何してるんですか、砂田監督は。 |
是枝 |
「公開までには、
次のフィクションの脚本を、
企画書でもいいから、
とりあえず書きなさい」
とずっと言ってたんですけど、
まだできてない。 |
糸井 |
まぁ、そんな簡単に
できるもんじゃないんじゃないでしょうか。 |
是枝 |
それがね、意外とパーッと書けるやつなんですよ、
脚本とかも早いんです。
それも癪にさわるんですけどね。
1週間ぐらいでポンと
1本分の映画の脚本とか書いてくるんですよ、
どうしたわけか。 |
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糸井 |
すごいですね。 |
是枝 |
早いんですよ。 |
糸井 |
それは、よく名前が出てくる、
西川美和さんと比べると、なんか違う?
西川さんは広島まで行かないと書けないと
以前ご本人から伺ったんですが。 |
是枝 |
そうそう。実家戻って籠らないと
書けないんですけど、
砂田、意外と早いんですよね。
ただ、今まで書いてきたフィクションは、
「これで行けるね」
っていうものはなかった。 |
糸井 |
なるほど。 |
是枝 |
それにはダメ出しをずっと続けてたんです。
先にこっちができちゃったから、
今これを観たら、
「砂田監督がフィクションやるんだったら
お金出すよ」
って言う人は出てくるだろうと思ってて。
だから、
「公開の時に次の企画書があったほうがいいよ」
って、ずっと言ってたんです。 |
糸井 |
そうですね。
いや、なんかとんでもなく
違うものを観てみたいですよね。 |
是枝 |
そうですね。まったくタイプの違うものを。
最初に見せられてたフィクションの脚本って、
もうちょっとね、ベタッとしてるんですよ。
書かれてる人物と、書いてる筆致が。
で、『エンディングノート』は
やっぱり非常にドライに、
批評しながら笑える距離で撮っていて。
僕の映画の現場の撮影日誌を
砂田が書いているんですが、
これと同じ距離で
僕のことをすごくこう、
シニカルに見てる感じで。
でも、ちゃんと笑いで救ってくれるんですよ、
僕でさえも。
見事に書けてる。
僕が読むと、
すごく僕いやなやつなんですけど(笑)、
周りに聞くと、すごくよく書けてるって言う。
撮影現場の記録としては、
本当におもしろかったです。
「この感じでフィクション書け」
って言ってるんですけど。
逆になんかフィクションだとね、
どうもまだ書けてないんですよね。
これをやって、
次、どう出てくるかなんですよ。 |
|
糸井 |
よくね、漫画家が、
連載ページで荒々しい絵を描いてる時は素敵なのに、
「カラーページをあげるよ」って
表紙を描かせると、
こんなん誰も求めてないよ、
っていうのを描くみたいな、
そういうことはよくありますよね。 |
是枝 |
そうですかね。
なにかがずれちゃうみたいなんですよね。
僕もわかんないんですけど、そこが。 |
糸井 |
責任感じたりするのかね。
でも、「直せよ」とかって言われてるうちに、
よくなるかもしれないですね。 |
是枝 |
そうですね。
でも僕、まだまだわからないな‥‥。 |
糸井 |
砂田監督は、
フィクションを一作撮っても
いい頃なんでしょう、33歳だと? |
是枝 |
はい。そろそろやらないと。
もう来年でも撮れるんだったら、
撮ったほうがいいと思っています。 |
糸井 |
楽しみですね。
映画の感想とか
聞こえてくる時期だと思うんですけど、
いかがでしょう。 |
是枝 |
とてもいいです。
この間、スペインのサンセバスチャン映画祭に
一緒に行ってたんですけど、
上映後にお客さんが寄ってきて、
みんな感想が熱かったです、
身内をそういう形で
失ってる人もたくさんいるんでしょうね、
“語りたい映画”みたいですね。
監督にも語りたいし、
友達とも語りたいしっていう。 |
|
糸井 |
僕は何年か前に、吉本隆明さんが、
「病気がどんどんひどくなってるんだ」
っていう時にお会いしたんですね。
「死に損なった時もありますけど」
っていうくらいの時、
「やっぱり落ち込むことはあった」って。で、
「俺はもう死んじゃったほうがいいのかな、
ぐらいなことは思ったんだけど、
考えてみたら、死っていうのは
自分に属さないんですよね」
って言ったんですよ。 |
是枝 |
はい。 |
糸井 |
こうおっしゃるんです。
「そうか。俺が死ぬとか、
死なないとかっていうのは、
結局、なんか波形を見てて、
機械を切るだとか切らないとかいう場面も、
家族に『いいですか、切って』って言うわけだし、
生かす生かさないっていうのは
自分が決められないことなんだな、
ってことがわかった。
じゃあ、自分で死ぬとか言ってても、
しょうがねぇなと思って、
生きることにした」って。
僕らやっぱりどうしても
「死」っていうのは、
自分の所有物みたいに考えたがる。
自分の所有物としての「死」について、
「俺のものだから、振り回させてくれ」
ってやられるんだけど、
そういうさまざまなドラマは、
子どもっぽいなと思うようになった。 |
是枝 |
そうですね。わかります。 |
糸井 |
で、その「死」の子どもっぽさみたいなのを
乗り越えた人の作品を観ると、
やっぱり「うぅー」っとこう、
うれしくなるんです。
この映画に関しては、
これはもうお父さんが砂田監督に
教えたとしか思えないですね。 |
是枝 |
そうですね。あのお父さんは、
自分が死んでいくことが、
周りにどう残っていくかっていうのを、
自分の死ぬのにもかかわらず、
周りの生を意識しながら接してるんですよね。 |
糸井 |
そうですね。 |
是枝 |
そこがすごく大人なんですね。
今聞いて思いましたけど。 |
糸井 |
で、それを、論争するでもなく、
口ごたえするでもなく、
フィルムにおさえていってる人と、
その映画の中に登場している家族たちっていうのは、
哲学しなくても、スッと、
“自分の死をわが物として
勝手に扱っている人たち”に対する
答えになってるなぁって。
だから、やっぱり救いなんですよね。
死を自分の所有物にしない考え方っていうので、
客席にいただけでそれが伝わってきて、
拍手になって表現できるっていうのは、
いやぁ、いい映画だなぁ(笑)。 |
是枝 |
(笑) |
糸井 |
いい映画ですよ、本当に(笑)。 |
是枝 |
糸井さん「なんか悪口言って下さい」
って言ってなかったでしたっけ。 |
糸井 |
そうだなぁ! |
|
是枝 |
(笑) |
糸井 |
是枝さんと『奇跡』の対談でお会いした時に、
「家族が一緒にいないっていうのも
答えじゃないか」っていう、
ひっくり返したところに
笑顔になれるっていうことがあったんで、
これも「死」っていうもので
笑顔にさせちゃったっていうところが、
やっぱり‥‥あ、まだ褒めてるな。 |
是枝 |
(笑) |
糸井 |
「砂田監督、
なんでそんなことがわかったかっていうと、
お父さんのおかげだぞ!」
‥‥これじゃ、説教だし(笑)。 |
是枝 |
「いつもこんなにうまくいくと思うなよ!」 |
糸井 |
それも説教ですかねぇ。
お父さんはなんで覚えたんでしょうね、
っていう辺りの興味は、
想像させる余地だけあって、
答えがなくていいですね。
なんかあるんですよね。
お父さんは、
あの年代だけ生きてきて、
何度も、いろんなことを、
やっぱり考えてきているんですよね。
お祖父さんが医者だったのもあるかもしれないし、
孤独になっている時間もあっただろうし。 |
是枝 |
そこはあんまり、なんていうんですかね、
決めつけてないところが、
いいところなんですよね。 |
糸井 |
なんていうんだろう、
踏み荒らさない作り方ですよね、
人の心をね。
‥‥どうしても褒めてるな。 |
是枝 |
(笑) |
糸井 |
『エンディングノート』は、
小さい劇場でロングランみたいなことなんですか。 |
スタッフ |
いや、わりと大きな映画館で。 |
糸井 |
じゃんじゃんやりますか。いいですねぇ。 |
是枝 |
最初に相談した時、
別にそれが悪いという意味じゃなくて、
アート系でインディペンデントの
ドキュメンタリーをかける映画館に行くのか、
いや、むしろこれを
エンターテインメントとして出していくのか
どっちだって話をしたんです。
エンターテインメントで勝負してみようか、
っていうコンセンサスが取れたので、
大きな劇場にアタックしてもらって。
そうしたら、
担当の方がすごく気に入ってくれたんです。 |
糸井 |
通じるんじゃないですかね。
通じると思いますけどね。
やっぱりね、
「お父さんが死んだっていうのを
娘が撮ってる映画だよ」って、
そういう縮め方しますからね。
「でもさ!」って言いたいんだよね。
ぼくらも、試写会を観させてもらって、
楽しかったです。
大勢で観たから、
帰りのタクシーの中でも
まだ喋ってるんですよね。
15人だったかな、社内で希望者を募った時に、
あんなにいるとは思わなかった。
地味な映画に見えるんだけど、
あんなに観たいって言うとは思わなかったですね。
是枝さんは、この映画は、
プロデューサーっていう立場なんですか? |
是枝 |
これはプロデューサーです。 |
糸井 |
プロデュースって大事ですね。
大事な仕事ですね。 |
是枝 |
ただ、僕は(本業の)
プロデューサーではないので、
やむを得ない時だけ、
ちょっとこう応援をするくらい。 |
糸井 |
そういう人必要ですよ。 |
是枝 |
今、本当にプロデューサーいないんですよ。
映画のプロデューサーが。 |
糸井 |
音楽もそうです。
興業収入のことしか考えない人のことを
プロデューサーって言っちゃうみたいな。 |
是枝 |
相談相手的なプロデューサーでいられるのであれば、
いたほうがいいなと思ってるんです。
ぼくはお金のことは誰か
任せる人がいないと無理ですが。 |
糸井 |
あれは別の問題ですからね。
ご自分の映画も
また新しいのをやってらっしゃって? |
是枝 |
今、書いてるところです。
来年の春に、たぶん撮ると思います。
公開は再来年になっちゃうんですけど、
また是非。ご連絡します。 |
|
糸井 |
西川監督は何してるんですか。 |
是枝 |
西川は今撮ってます。
昨日ちょっと現場に行ってきました。
西川のほうが来年の秋公開ですね。
阿部サダヲさんと松たか子さんが夫婦で
結婚詐欺の話です。 |
糸井 |
あ、よさそうだな! へぇ。 |
是枝 |
元気そうだった。 |
糸井 |
へぇ、いいねぇ。羨ましいです。 |
是枝 |
ほんとうにありがとうございます。 |
糸井 |
ありがとうございました。
(けっきょく、褒めて終わっちゃいました。
今回で最終回です。
機会がありましたらぜひ
『エンディングノート』ごらんくださいね!) |
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